第3話 返歌

 少し雨が弱まる。

 少女が其の小さな唇を開け、唄う。


「鳴神の 少し響みて 降らずとも

          吾は留まらむ 妹し留めば」


 雨水を受けその服は肌色が薄く透けている。

 夜色の髪から雫が垂れ、その様はまるで…雨人。


 雨の匂いの薫風が通り過ぎ。

 俺と彼女の頬に水滴が伝う。涙では、ない。


「貴男は、いなくなりませんか」


と、少女は問うてきた。

 問なのだろう、その顔に一抹の揺らぎもなかったとしても。

「俺は、どう、なのだろうな」

 分かるわけがなかった、人の別れも死も唐突なのだ。

 

 血と地を分かつ者さえ、明日を知れぬ世なのだから。


 肺の内から空気を吐く、熱された鉄のような吐息。

「君は独りなのか?」


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