宗教の差別
「毛皮、ちゃんと着といた方がいいですよ。いきなり白い大地はやってくるので。」
「わかりました。」
動物の毛皮で体を覆えばあの大地の寒さ、地獄が少し和らぐようになる。まあいたって単純だけど、サーンキヤ族は寒さに少し強いから、サーンキヤ族ではない人が足を踏み入れれば毛皮ごときでは耐えられない可能性はまあまあある。まあ私もそこら辺はよく分からないが。
「あ、そういえば一つ聞きたかったことがあるんですけど。」
「ええ、なんですか?」
私はちょっとした雑談のつもりでアーロンさんが首にかけている何かに触れてみた。
「首のとこのそれ、なんですか?綺麗だなって、」
「ちょっとした飾りですよ、」
「本当ですか?」
飾りとは言うが、何か不思議な形をしているものでつい気になってしまう。横の線に縦の線が交わって、まるで鋭い刃のようだ。
「なんでそんな形を?」
「だから、違いますっっっっ!」
「えっ、?」
水が固まる、氷になって集まる音がした。凍えるような冷たい空気を作ったのはそのあまりに強い声だった。普段は温厚なアーロンさんだから、こんな声を突然出されてとても驚いてしまった。
「なんかすいません。」
「いいえ、私が悪いのです。話しましょう。」
「その飾りは、本当はなんなんでしょうか?」
「この飾りは、神に見守れている証なのです。親の影響で子供の頃から私が信じ続けている神です。」
「神、、なんとなくわかるような………」
「私の信じる神はこの世界の平等をいつだってうたってくれた。ですがそれは簡単には叶わない願いで、私のように神を信じる人々を差別するものばかりだった。」
「この証を飾りにつけていれば私はどこに行っても差別されてばっかりだった。なにが平等だ、人間の根底にありもしない憎しみがありながらそんなことを人間がうたってはいけないんだ。」
「平等………」
私も、この世界が平等かと言われればそうは思わない。誰が悪いと決めつけることすらできない、なにも思い通りにいかない人生に何を求めればよいのか。
「でもアーロンさん、それでもあなたはボランティア団体に入れたんですよね?」
「はい、本当にみなさんいい人ばかりで。初めてでしたよ私のことを差別しない人は。」
「………でも次に私を許してくれたのは神じゃなくあなたたちサーンキヤ族でした。それなのにサーンキヤ族はみな不平等な生活を送ってる。私はそれを納得出来ないんですよ。」
「時間的に、そろそろ見えてきます。アーロンさん。」
「はい、頑張りましょう。」
「本当にいいんですか?死ぬかもしれませんよ?」
「もう私は、とっくに世間から死んだような目で見られていますから………」
「なにも悔いなんてありませんよ。」
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