命懸け

「いいんですね?それで。」



「はい、私はもう決めたので。」



今の私はおそらく、誰にも止めることはできないだろう。別に巨大な力があるわけでもないし地位に名誉もない。大きな武器なんて何一つ持っていないけど、でもそれでもこの思いさえあればきっと誰にも止められない大きな何かに変われるはず。



「ねえ、お母さん………」



「おかえり、どうだった?ちゃんと売れたかしら?」



「うん、でももうそれはいいんだ。」



「それはいい?どういうこと?今度は私の店をもっと繁盛させないといけないのは分かるけどね。」



「私ね、戻りたいの。」



「え………?どこ、に?」



「白い大地に、戻りたい。いいや、戻んなきゃいけないの!だから、少しの期間だけその犬ぞりを貸してほしい。」



「何言ってるのフィアナ!そんな馬鹿な真似、させるわけないでしょ!!」



「でもお母さん!私は助けないといけないってそう思っちゃった。私たちだけ逃げてさ、犬ぞりを持ってない家だってあるでしょ?それなのに、私たちだけ………」



「わかるわよ、その気持ちも。でもあの大地は、普通でも命を失う危険のある場所だったのに、今は敵国の人々だってどこにいるかわからない状態なんでしょう?ならば絶対に戻ってはいけないわ。」



「でも……でも……、私はそれでも助けたいっ!みんなを、助けたいの!!ただそれだけなんだよ、助けたいだけなの。必ず死なないで戻ってくるから、、お願い!」



「二日、それだけだよ。」



母の後ろにあった犬ぞりは母の手によって私に差し出された。犬は出発の瞬間を今か今かと待つように尻尾をブンブン振っていた。



「アーロンさん、いきましょう。犬ぞりがあります。」



「ですが、格好が」



「途中で動物の毛をもらうしかないですね。でもとにかく急がないと………」



「同じボランティア団体の人々はあとで私が呼んでおきます、恐らくあの大地の入り方さえ気をつければ全員無事で辿り着けると思うんですが。」



「入り方なんてものはないです。ただただ死なないようにだけです。」



そりを引っ張る犬は全速力で地を駆けていく。周りの風景は巡り巡ってやがて白い大地へと続いていく………

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