隣国での出会い

「フィアナ、世界が広いことを理解しなさい。世界は私たちの見ている、あのだけではないのです。この市場の目立った場所に立っている人こそ、この市場には力を注いでない。本当に明日をかけている人々はああやって、市場の目立たない場所に立たされるんだよ。」



「え、なん…で?」



「売るというのは簡単なことじゃない。なんでもかんでもお金になるわけではないの。考えるべきは、こちらのメリットだけじゃなく、購入者のメリット。それが理解できなきゃ購入者は永遠に現れない。」



母の態度は明らかにいつもと違うのがわかった。母もあの人々と同じように、切ない顔をして、私にこの市場を語った。


「メリット…でもあの人たちはいろんなもの売ってるっぽいよ?何かはわからないけど、」



「メリットがなければ売れないことを理解はしてると思う。ならば、きっとそれが出来ないんだと思うわ。」

「なんらかの理由で………」



私の質問を即答で答えてみせた母は、アザラシを犬ぞりに置いて、連なる小さい家の列に並ばせた。




「これで売る準備はOK。あとは…話の通じる人がいらっしゃることを、願うんだよ。」



「すい、、ません……それ、アザラシですよね?」



暗く小さな声、おまけに下を向いて、もはや話す気すら感じさせないような、1人の男の人が私たちの前に客としてやってきた。



「……?」



話している言葉も一言も聞こえなかったために、母は何を話したらいいのかと、どうやら動揺しているらしかった。もちろん、その声は私にも聞こえていない。母の後ろに座っているというのに、母が聞こえなければどうにもならない。



「…あの!!アザラシを、ください。」



何かを思い出したかのように声を張り上げ、同時に、その強い眼差しを男は露わにした。


えっ、若い?



顔が見えなかったからか私よりも年上に見えたその男。だが、実際には顔のシワはほとんどなくて、どこか肌が輝いているように見えるほどのツヤが、まだその男にはあった。



「お母さん、この人…サーンキヤ族!?」



母もきっと私と同じだろう。私が本当に驚いたのは肌のツヤでもなんでもなく、男が話す言葉だった。



「あの、お客様…サーンキヤ族の方ですか?」



「わかりますか…!やはり、そのアザラシはあの大地から持ってきたものですね。どうしてもそれが気になってしまって…」



「購入ならまだ間に合いますよ?」



「いえ、アザラシを買うほどのお金が、僕にはありません。だから、いいんです。」



「でも、さっき…」



「アザラシを買うのが目的じゃなくて、ただ、サーンキヤの方と話したかった、それだけなんです。」



「何か売ってるんですか?お金は?」



「それが……誰も買ってくれなくて、困ってるんです。ああっ、でも、まったくお客様がいないということではないんですけど、誰にも僕の言葉をわかってくれる人がいなくて…」



「あの!私にそのお店、見せてくれませんか?どうかお願いします。」



「フィアナ?」



「別にいいですけど……」



「じゃあお母さん、ここで待ってて。」

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