ベルファオ

「お母さん、終わったよ。これで大丈夫だよね?」



「うん、大丈夫だ。ありがとうねフィアナ。



母は私が抱えていたアザラシを持ってくれ、それからゆっくりと犬ぞりに降ろした。


「よし、じゃあ隣の国まで行こうか。」



「うん…」



隣の国、父がよく行ってた場所ではあるけど、私自身は隣の国なんて行ったことがないからとても不安な気持ちに襲われた。


そんな気持ちを遮るように犬ぞりは隣の国に向けてスピードをぐんぐんと上げていってしまう。


心の準備なんてさせる気も、当然その時間もないということだ。


「犬ぞりでこのままいけば、すぐに着くからね。それまでは待ってて」



「わかった、お母さん。」

「…そういえばお母さんって隣の国には何回いったことがあるの?」



「1回だけよ。1回だけあなたのお父さんと一緒に売りに出てみた。でも、そこでわかった。1度の売りだけで今までに経験したことのない精神的疲労が体に全てのしかかってきて、これを1ヶ月に一回やっている、お父さんの凄さがより際立ったってこと。」



「そんなに大変なの…?売りは、」



「うん。やってみればきっとわかる。そもそも私たちの言葉が通じないからね、言葉が通じる人を探すか相手の言語を理解するか…これだけでまず大変な苦労。そこからやっと売れるかと思ったらそもそも人はろくに誰も来ないしね。」



「…それでも頑張るよ。この大地から出られるならやるしかない、お母さんは私が絶対守るから。」



「優しいね。あ、そろそろ見えてきた。あれが隣の国………名前は、ベルファオ。」



「ベル、、ファオ」


「あれなに?お母さん、」


私が指を指した方向には、家畜を捕らえるような大きな柵が大地の上に建っていた。誰も侵入を許さないような鉄壁の壁、そんな風貌をしているがどうやら真ん中だけ柵がないように見える。その真ん中には人が複数人立って、周りを何度も見渡していた。


「市場はあの奥だけど、一度荷物のチェックをしなければダメなんだよ。」



「お願いします。」


「国に入る前に、チェックをします。」


急に言語が変わった…!何言ってるんだろ。



「そちらも」


私はもちろん売り、生活に必要なもの、最低限の荷物だから何をチェックされようとも怖くはない。



「大丈夫ですね。どうぞ。」



道を塞いでいた男の人たちが横に広がって私たちの道を開けてくれた。



「ここが…お父さんがよくきてた市場。」



「ほら、早く行かないと、ただでさえ売れないんだから。」



「う、うんっ、」



確かに、市場は盛り上がっていた。動物の毛のようなものでできた繊維のようなもので、一つに複数人が入れるほどの小さな家が何個も作られていた。


その中に入ってる人々の声、購入者の声で市場は賑やかに感じた。でも………小さな家が並んだ市場の少しはずれ、端っこの方では汚れた服を着た人々が同じ小さな家を建て、手を震わせながら寂しそうに座っていた。



「ねえお母さん、あの人たちは?」

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