旅立ち

白い息を吐き出すたび、肺に激痛が走った。恐らく、いつもの自分ならば死んでいただろう。だがあまりの状況、その緊迫感に自分は正気ではなかった。



あともうちょっと…そんな思いが数珠のように心の中で繋がっていった。だが、祈れど祈れども母のいる家は見えてこなかった。



「大丈夫…この道であってるはず。」



あの親子の家からすぐの雪の道はまだ自分が歩いてきた跡があった。でもその跡も今となっては雪に覆われて見えなくなっていた。



「あってる…あってる、まっすぐ走れば必ず見えてくるはず」



恐怖から逃れるため、自分に強くそう何度も言い聞かせた。



「…!あった!」



木も山も海もない、そんな目印もない大地に絶望を感じていたがその時は突然やってきた



「光だ!!」



まるで火のような優しいオレンジ色の光が霧の中にモヤモヤと現れては消える、点滅を繰り返し出したのだ。



「家だ!」私はその光を見て母がいる家だと確信した。母はきっと焚き火で暖まっているころだろう。私の帰りを、ご飯を待っているんだろう。そう考えるといてもたってもいられなかった。早く母の顔を見たい、早く…早く!



「お母さんっ!」



ドアを開ける音が家に大きく響いた



「びっくりした……。おかえりなさい。ところで、なんで泣いてるの?フィアナ?」



「よかった!よかったぁ…」



私は元気そうな母を見てつい泣いてしまった。



「あれ、今日の魚は?」



「ぐっ…、ごめんなさい、ごめんなさい…」



「ほらほら、もう泣かないで。」



お母さんが腰を抑えながら立ち上がってその優しい手でそっと私の涙を拭ってくれた



「それと、フィアナ。毛皮はちゃんと着なさい、お父さんがよく言ってたことでしょう?狩りの時は毛皮をちゃんと着るって。」



「あのねお母さん!聞いて、今はそれどころじゃないの、急いで白い大地から逃げないといけないの!」



「何を言い出すかと思ったら、今日のフィアナは何か変よ?それに、逃げ出すたって私のこの体じゃあ無理よ」



お母さんは私が小さい頃からずっと体が弱くて、立ち上がるのにも一苦労なほどだった。だから私が大きくなった今は私が狩りを毎日行っている。



「……殺されるかもしれないんだよ?知らない国の人たちが私たちを狙ってる。」



「何があったの、説明して。」



私は今日、家を出てから帰るまでの出来事を全て母に話した。



「そんなことが、あったのね。フィアナが無事でよかった。」



「だから、逃げようよ、ほら…隣の国にいけばきっとお父さんにも会えると思うし。」



「お父さん、、、そうね、」



「移動は犬ぞりを使おう、時間はかかるけどそれしかない!」

「まってて、今すぐ準備するから!」



「方向は、私がなんとなく覚えてる。後必要なのは、魚…」



「狩りは任せて、お母さんは休んでていいからさ。」



「ごめんね。」



お父さんもお母さんも口癖が同じ「ごめんね」だった…



「もう謝んないでよお母さん。私、もう思ってないから…こんな大地に産まれたくなかったなんて微塵も思ってないから!!」



「……フィアナ。。」



「お母さんは、私が幸せにする…!」

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