神楽坂悠月の秘密
あの女。本当に嫌い。大っ嫌い。
私の天哉に近づいてきてあろうことか家にまで押し入ってきて、ふざけてるわ。
誰もいない広い広いリビングにあるソファーにスクールバックを衝動的に投げつけた。
あの女顔を見ただけで腹が立ち怒りが収まらない。イライラしてどうしようもない気持ちを抱えてソファーに力なく座りスマホを見る。
トップ画面には天哉の笑顔が映っていた。
以前こっそりと撮ったオフショット。
飾った笑顔ではなく心の底から楽しんでいる笑顔の天哉。
彼の見るだけでイライラしてどうしようもない気持ちが落ち着く。
今日は本当に疲れた。授業で疲れたということは全くなく、どちらかというまーちゃんとの会話やあの女狐との会話で気疲れしたのだった。
1人でスマホいじってフォルダの写真を見ている。フォルダの写真は当然、天哉の写真ばかりでたまにまーちゃんと一緒に撮った写真とかくらい。天哉が友達と楽しそうに会話している写真、お弁当を食べている写真、色々な思い出がある。
もちろん部活をやっていた時の天哉の写真も。
「……」
その写真を見るとキュッと胸が締め付けられた。
もう天哉はこの写真のように楽しそうに部活はできないのだから。
あの日私が生きてきた中で一番の絶望だった。
父から天哉が意識不明で病院に運ばれたと聞かされて私の目の前は真っ暗になった。
父の知り合いの大学病院に運ばれて慌てて私は駆けつけたが、その時は緊急手術で中の様子が全く分からなかった。
天哉のお父様とお母様、それに妹さんがいたが3人とも口を開かず項垂れていた。
お母様と妹さんはボロボロ涙を流していた。
私は怖かった。もう天哉に会えなくなるのでは無いかとそう思った時に身体は震えて瞳からは涙が零れていた。
嫌だ嫌だ嫌だ。死なないで!私は必死に願った。
私のうろたえ姿に驚いた父に落ち着けと言われても落ち着けるわけがなかった。
手術中の電灯はまだついている。私は神様に願った。何も望まないから天哉まで私から奪わないでと。
まーちゃんとまーちゃんのお母様も駆けつけた。
まーちゃんも私と同じように涙をボロボロ流して私に抱きついていた。
とにかく願った。こんなところで終わりだなんて嫌だ。
手術中の電灯が消えて中から先生が現れた。
先生からは一言「手術は成功した」と。
良かった、本当に良かった。抱き合っていた私とまーちゃんは力が抜けるように地べたに座り込んだ。
そして手術室からストレッチャーにのせられた変わり果てた姿の天哉が現れた。
痛々しい姿の天哉を見てまた私は泣いた。
どうして天哉がこんな目に合わなければならないの。何をしたっていうの?
誰がやったの?私は後で現れた警察の話を聞いた。信号無視の自動車にひき逃げされたというものだった。犯人は未だ逃走しているとの事。
私はその話を聞いた時に文字通り腸が煮えくり返る思いになった。
どこぞの馬の骨が天哉にこんな目に遭わせてそれだけではなく、その場から逃げるなんて許せない。絶対に殺してやる。
私は犯人に復讐を誓った。そしてもうひとつ。
天哉はただのひき逃げではなくとある女子高生を庇ってひき逃げにあったというのだった。
ひき逃げ犯はもちろんだが私はその女も許せなかった。その女がひかれれば天哉は辛い目に合わずに済んだのに。
許せない。ひき逃げ犯も、天哉に庇われた女も。
絶対に。
天哉は私の全て。天哉がいれば私は何もいらない。彼がいるだけで私の視界は色がつく。彼がいない世界は灰色の荒廃した世界にしか映らない。
私は天哉と幼馴染であり、まーちゃんも幼馴染。
まーちゃんは天哉のことが好きということは知っている。幼い頃から。
でも私もまーちゃんも幼い頃から共に同じ時間を過ごして長いため、天哉に想い伝えるということが難しくなった。
タイミングというのか、距離感の心地良さかそのままズルズルとこの関係を続けてしまった。
私は意気地無しなところがあるから、天哉に自分の想いを伝えるのが恐い。
今の関係が変わってしまい、もう戻れなくなるのが。まーちゃんとの関係もおそらく変わる。
怖いのだ。もし天哉に拒まれたら?私はどうなるの?そんなの嫌だ。
「天哉……」
スマホの中にいる想い人を眺めふとつぶやく。
彼を見ていると身体が火照っていくのがわかる。
息が苦しく身体がどうしようもなく疼く。
ダメだとわかっているのに、私は気がついたら息を荒くして自分の秘部に指を入れていた。
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