浅倉千紗は誤解を解きたい

 うーん。どうしよう…。あんなことがあったから

 正木くんに話しかけづらいなぁ…。

 私は昨日あった出来事で正木くんに話しかけられずにいた。あの時、別にわざとなどではなく足を滑らせてしまい彼に抱きついて押し倒したような形になってしまった。

 そしてそれをタイミング良いか悪いか安城さんに見られてしまったのだ。


「勘違いされちゃってるかな…」


 教科書を机にトントンと当てて揃えて鞄の中にしまう。自然とため息が出てしまっていた。

 正木くんは教室を去ってしまい、安城さんもまたいなくなってしまった。



「どうしたの千紗?ため息なんかついとるけど?」


 私が浮かない様子だったところを親友の久良木舞子きゅうらぎまいこが心配そうにして話しかけてき。た。


「あ、舞子。いやーちょっとね…」


「私でいいなら話聞くけん、いってみ?」


 福岡訛りの穏やかな口調で私の事を気にかけてくれた。彼女とは高一から友達になったのだが、気が合って他の人たちとは違い構えたりする必要が無い。

 放課後人がだんだん減ってきた教室にて私は舞子に話をした。


「実はね…」


 私は昨日起きたことを話した。天哉くんの家にいって色々あって押し倒したような形になってそれを安城さんに見られてしまったこと。

 それに対して舞子は相槌をうって話を聞いてくれた。


「てか、千紗って正木くんのこと好きと?」


「え?いや、好きっていうか…あの…前に助けてくれたから…そのぉ…」


「いや、好きやろ?だって好きやなかったらそんなこつせんよ?」


 舞子の直球な言葉にドキッとしてしまい恥ずかしくなってしまった。

 とこどころ訛りでよく分からないところがあるけど、好きな相手でなければそういうことはしないよね?って意味だろう。


 でも私は天哉くんとは最近までそこまで知り合いという訳ではなかった。

 話したのも最近だったし。好きとかそういうのは分からない。

 ひとつわかることは今までこんな気持ちになった異性にであったことがなかった。

 よくテレビでかっこいい男性アイドルや、たまに仕事で会ったりする俳優の人がいるが、顔が整ってるなぁとは思うが好きとかそういう気持ちとかなったことがなかった。


「正木くんって付き合ってる人おったけ?」


「いや?いないよ?」


「え?」


「え?」


 舞子の驚いた顔に私は不思議で仕方がなかった。

 だって私は調べたりしたが幼馴染は2人いるものの、付き合っているような人は見たことがない。

 観察してきた私だからこそわかる。


「いや、なんで断定できっと?そんなのわからんやん?」


「だって私見てるもん」


 そんなことを言ったら今度は舞子が引き気味の顔をしていた。

 どうして?わたし変なこと言ったかな?


「見てるって正木くんを?」


「え?そうだよ?」


「いやいや、それもう好きやん」


 舞子は苦笑いしている。

 私は天哉くんのことが好きか分からない。ただ気になっているだけなのだ。

 そんなことより私の悩みを聞いてもらいたいのだが。


「だから違うって。それより安城さんに誤解を解きたいけどどうしたらいいの?」


「あーごめん、もう全く話が入ってこんかったよ。とりあえず安城さんに話しかけたらいいっちゃない?」


 呆れた顔され雑な返しをされてしまった。

 私は真剣に悩んでいるのに冷たいんだから。

 でも舞子の言う通りとりあえず安城さんに話さないとどうにも解決しない。それに天哉くんと安城さん同士でも誤解によって喧嘩?している感じになっているので申し訳ない。


「まぁなんにせよ?安城さんって正木くんの幼馴染でしょ?で、彼の家に通うくらいだから好きっちゃない?そんな人の所に女が急に現れたら怒るでやろうね?」


「でも安城さんと正木くんは幼馴染なだけで付き合ってはないよ?」


「どうだか、幼馴染同士ってラブコメのテンプレやん?そこに千紗が現れてドロドロに…」



 くすくす笑っている舞子に少し腹が立って頬をつねってやった。


「あぁ!いふぁい!いふぁい!」


「冗談はやめて?そんなんじゃないから」


「いったー。もう面倒やね。とりあえず安城さんと正木くん2人と話してみな?」


「う、うん。わかったよ…」


 私は舞子のアドバイスを実行するために心を決めた。明日2人と話をすると。


「ありがとう舞子」


「よかよ。今度駅前のスイーツ奢りやけんね?」


 ちゃっかりした親友であった。

 舞子と教室で別れて下駄箱へと向かった。


 校内では吹奏楽部の楽器の音や部活動生の活気のある声が聞こえていた。

 そんな廊下を歩いていると、とある人物が前から現れた。

 黒く艶のあるロングの髪をなびかせた女性。私の苦手な人物である。


「こんにちは。浅倉さん」


「神楽坂さん…こんにちは」


 神楽坂悠月。私を一方的に目の敵にしている彼女は、おそらく私のことが嫌いなのだろう。挨拶した顔は笑顔であるものの、目が全く笑ってない。

 私は出来れば彼女と関わりたくないが、挨拶をされてしまった以上挨拶を返した。


「天哉の家に行ったらしいわね?」


「……。そうですけど、どうしてですか?」


 なぜ彼女がそのことを知っているのか分からないが、もしかしたら安城さんに聞いたのだろうか。


「私言ったよね?天哉に近づくなって?」


「……。貴方には関係ないでしょ?」


 この前は気押されたが今回はそうはいかない。


「関係あるわよ。天哉は私の大事な幼馴染。変な虫がつかないように見守る義務がある」


 私の方を睨みつけてくる。やっぱり私はこの人とは合わない。そもそも、天哉くんは彼女のものでもないのに彼女面をしているのが気に食わない。

 なぜこんな人と天哉くんは幼馴染でやっているのか分からない。


「正木くんは今の神楽坂さんを知ってるの?」


「何が言いたいの?」


「正木くんによってくる女に対して異常なまでに敵対心を持つ貴方の姿を」


 おそらく天哉くんは知らないと思う。猫被ってるのかどうかはさておき、ここまで執着されてしまうと彼も困ってしまうだろう。

 神楽坂さんはおそらく天哉くんのことが好きである。その感情はとてつもなく重い。


「チッ。天哉を傷つけて天哉から日常を奪っておいてよくそんなこと言えるわね?」


「結果的にそうなってしまったかもしれない。だから私は正木くん…いや天哉くんに恩返しをしたい…」


 確かにあの時結果として私を庇ったことで天哉くんは大怪我した上に膝がダメになって部活も出来なくなってしまった。

 しかしそれは今更変えられるものでは無い。だからこそ助けてくれた恩は必ず返したいと思っている。

 しかし彼女は私のことが気に入らない様子。

 舌打ちまでして、成績優秀の優等生の神楽坂悠月の見る影がなかった。

 そこにいるのは好きな人を盲目的に愛している女であった。


「ふっ…。ほんと笑わせられるわ。浅倉さん?」


「なんですか?」




「大っ嫌い」




 神楽坂さんは私の目を見てはっきりとそういった。








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