戻ってきた日常

 ピロピロピーン。スマホのアラームがけたたましく朝を告げる。岩石のように重い瞼を無理やりこじ開けてスマホを見る。

 時刻は6時30分。まだ余裕があると思い、スヌーズを押して再び眠りにつこうとする。しかしそれを許さずに部屋の扉が開かれた。


「おはよう〜たっくん〜。起きて〜」


 ホワホワした声の主が俺の部屋に入ってきてペタペタと足音を立ててベットに近づく。声からして幼馴染の真由理まゆりである。いつも俺を起こしに来るのだが、毎度おなじくゆさゆさと俺の身体を揺すって起こそうとする。


「あと30分…」


「もう〜たっくん!!甘えてないでお・き・て!!」


 身体を揺する動きが激しくなっていく。しかしそれでも眠気の方が勝る俺は構わずに寝続ける。

 それにしびれをきらしたのか真由理は動きを止めた。諦めたかと思ったら次の瞬間、強烈な衝撃が上半身を襲った。


「ぐはぁ!!!」


「これでどう?起きた?」


 真由理ジャンプして俺のお腹の上に馬乗りで乗ってきた。お世辞にも真由理軽いタイプでは無いのでそれなりの重みが俺の腹部を圧迫していく。


「ま、真由理…重い…」


「あぁっ!!たっくん!!私の気にしてることを!!!」


 怒った真由理はポカポカと俺を殴ってくる。一撃一撃に強さがありこのままでは痣だらけになると思い手を掴んでやめさせる。


「ごめんごめん。冗談だから…」


「女の子に重いなんて言っちゃダメなんだからね!!?」


 ふくれっ面をした真由理。ショートカットにピンク色のカチューシャをつけた巨乳の少女。家が近所であり彼女は老舗旅館の看板娘である。

 彼女とは幼稚園からの仲であり、いつもこんな感じである。


「真由理さんよ。限度はあるよ。限度は…」


「た、確かに最近ちょっと食べ過ぎちゃったけど…」


 彼女は少し肉付きのいいタイプで安産型でもある。本人は気にしているものの、真由理の両親や祖父母が溺愛して必要以上に食べさせたりするから育ってしまうのである。


「最近ってか、いつもだろ」


「あー!!たっくんの意地悪!!ちゃんとダイエットしてるもん!!」


 俺がシッシッと手を払ってお腹から退くように促すと素直に彼女はベッドから降りる。

 俺はカーテンを開けて日差しを浴びて光合成を行う。


「わかったから。朝飯食べに行くぞ」


「むぅ〜。わかった。いこ?」


 俺は真由理一緒に階段を降りてリビングへと向かう。膝を多少庇いながら一段一段降りていく。

 あれからリハビリを地道にやったこともありある程度戻った。とはいえまだ怪しい時もあるからそこは無理しない程度にやっている。

 リビングには母がキッチンに立っていた。


「おはよう。洗い物終わんないから早く食べちゃって?」


「はいよ」


 母親からさっさと食べろと言わんばかりにテーブルに置かれた食事を親指で指して食べろと促してきた。

 テーブルには俺の分の朝食と真由理の分もあった。というか真由理は自分の家でも朝食を食べているためいらないはずだが、必ずうちでも朝食を食べている。初めのうちはつっこんでいたがもうやめた。


「いただきます」


「おば様いただきま〜す」


 真由理はうちの母親にも可愛がられているためこんな感じで朝食を用意されている。

 そして彼女は遠慮せず食べているのでカロリーオーバーを起こす。そういうことだ。


「おば様の料理美味しいです!」


 美味しそうに食べている真由理をニコニコと笑顔で見ている母親。


「まゆちゃんにそう言って貰えると、おばさん嬉しいわ〜」


 息子の俺が特にリアクションせずに淡々と食べているためいいリアクションする彼女が可愛いのだろう。

 朝食を食べ終わると歯を磨いて髪を梳かして制服を着て準備OKだ。春休みも終わってようやくの学校。


「たっくん!!いこ!!」


 真由理が満面の笑みで俺を見る。彼女の顔を見るとようやく日常が戻ってきたと思えた。




 久しぶりに友達の顔を見れることを楽しみに俺は真由理とともに学校へ向かった。






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