未来ある君と共に
石田未来
プロローグ
病室から見える桜の木には蕾がついており、チラホラと鼻花が咲いている。心地の良い風が肌にあたってほんのりと暖かさを感じた。
「もうすぐ春か…」
病院の中庭のベンチに座ってまだ5分咲きくらいの桜を見つめて目をつぶる。
あの日車に轢かれそうになったあの娘を助けた俺は身代わりになって大怪我を負った。
正直、次に目が覚めた時には無機質な病院の天井が見えた。身体のあらゆるところに包帯が巻かれてベッドの横には点滴、そしてなりより激しい身体の痛み。
後で母親に聞いたら、俺は生死の境を彷徨っていて一刻の予断も許さない状況だったとのこと。
医者からは奇跡と言われたらしい。意識が戻ったことを知った家族や幼馴染の真由理はボロボロと涙を流していた。
「さてとリハビリにいくか…」
ベンチに立て掛けた松葉杖をついて病棟へと戻っていく。生命は助かったものの、それなりに失ったものはある。俺の膝は事故によって酷い状態であり、できる限り治療してもらったものの元のようには動けないとのことである。
リハビリと筋トレで日常生活に支障がないレベルにはできるがそれ以上回復の見込みはないとのこと。そうなると部活はもうやることができない。
結構力入れて頑張ってたのにそれを聞いた時に悲しかった。いや生命と引き換えだと思えば安いのか。なんとも言えない感情を抱いてリハビリをやっている。
「浅倉さん元気かなー」
俺の行っている学校のアイドル
無事だといいな。
俺は彼女にずっと憧れていた。綺麗な顔立ちで可憐な姿。芸能界でモデルなどの仕事もやっていて俺の住む世界とはまるで違う存在であった。
彼女のことをいつも目で追いかけていたが、話しかけられずにいた。そんな俺だが彼女の生命を救えたと考えたらなんか悪くは無いなと思える。
もうすぐ新学期が始まる。なんとか間に合うように俺は今日もリハビリに励んでいった。
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