第9話 与う、能う『ヤクメ』

「行ったぞ、オッサン!」

「応さ!」

 ぐん、と万力を込めて2度3度と突き入れられた六角棒はしかし、ガン、ガンと強固な壁に阻まれる。

 否、それは壁でも楯でも無い、ただの翼だ。されど石の化物と称されるガーゴイルの翼であるから、当然その強度も生半可なものでは無かった。

「何とも!狭隘所ならば翼の利点も小なりと思うたが、そう易々とはいかぬか!」

 蝙蝠のような翼は、確かに狭い通路では飛行に使えはしない。が、ロウトが相手取るそのガーゴイルは他の奴より知恵が回るのか、彼が攻撃を行うタイミングで翼で体をマントのように覆って防御と為している。

 そして、攻撃に出る際には勢いよく解き前へと出るための加速に使う。付け焼刃にしては理に適った攻防一体の妙技に、戦達者のロウトも思わず舌を巻いた。

「やれやれ、これほどまでとは・・・ううむ」

「泣き言言ってんじゃねえぞ、オッサン!」

 しかし、ロウトも一廉の猛者だ。その程度で手が出せぬと泣き言を言うようでは、それこそ冒険者の名折れと腹に力を入れる。

「勿論よ!」

 事実、彼はこの数合の打ち合いで一つの攻略点を見出していた。満足に機動出来ぬと考えて出した『防御に使う』という判断と、それを実行に移す技量。それ自体は見事だが、やはり付け焼刃なのは否めない。

「そこ!」

 元々攻撃を受けることを想定していないからか、防御の動きは翼の盾でしか行えていない。そして、それで覆いきれていない、無防備な足元をロウトは見逃さない。

 突き入れられた4度目は、カヴァーしきれなかったその足甲を粉々に砕いた。

「ゲ――――――!?」

「トドメェ!」

 そして、大きく開いた口腔に5度目が吸い込まれる。ポグリ、という鈍い音と共に延髄から六尺棒を生やしたガーゴイルは、そのままサラサラと塵と消えた。

「ふう、さて・・・」

「っ!まだですわ!」

 そこへ一息つく間も無く、新手。正確にはヒューと打ち合っていた1体が、標的を変えて飛びかかってくる。

「おっと!?」

 辛うじて、振りかぶられた右腕に合わせるようにして決まったカウンター、それが右肩へと吸い込まれた、が。

「何と!?」

 そのガーゴイルはそれも織り込み済みだったのか、構う事無く前進して後衛のルーサへと迫る。咄嗟の1撃に体幹を崩したロウトはその対応へ1歩遅れ、ヒューはそんなロウトが邪魔をして介入できない。

 敵の後衛を務める魔術師を、己の命と引き換えに潰そうとした。その決断はロウトをして素直に「見事」と言わしめるほどだ。だが、

「え、や!」

 パーティのもう1人、ヒューの援護をしていたアイネがそれを見ていち早く駆け付けたことにより、それは寸で阻まれた。臀部へ見舞われた攻撃は傷1つ付けられなかったものの、それでバランスを崩されたガーゴイルは、ルーサという獲物の直前で致命的な蹈鞴を踏む。

「ふんぬ!」

 そして、その脳天へと振り下ろされたロウトの攻撃で頭を粉みじんに打ち砕かれたそのガーゴイルは、他の同胞と同じ末路を辿った。


「ふ・・・はあ」

 大きく息を吐き、ドサリと床へ腰を下ろしたヒューに釣られて全員は思い思いの息を吐き、その場へと座り込んだ。

「これで・・・えっと?」

「7体・・・です、ね」

「そりゃ・・・疲れる・・・はずだな、畜生め」

 何せ、石の化物と称されるガーゴイル、生半可な刃は通らない。六角棒のロウトは勿論、力任せに叩き割る形になるヒューも腕力を大いに消耗させられる。

「しかしお嬢、あ奴らは本当に石で無いのですかな?」

 オマケに、何故かこの場所には魔素が満ちているとかで、ロウトが普段なら感知できる魔の物の気配も上手く探れない。普段出来る事が出来ないのは流石に響くのか、ロウトの物言いもどことなく直截だ。

「え、えと・・・はい。確かに宝石を触媒にして召喚する魔物で、石の悪魔では、あるんです、が」

「だからっつって、ゴーレムみてえな石に意思が宿ったような化物とは違う、ってことか?」

 全員疲れ切っているからか、ヒューのダジャレに付き合う気力は無い。

「はい。だから、その、えと、召喚されたときに近くの石材なんかで、自分の体を再構築する、とか、で。分かり易く言えば・・・」

「確か・・・拙僧の知り合いの悪魔狩人は、石みたいな体の魔物と思えと言っておったな。ううむ、郁子なるかな」

「物騒な知り合いがいんだな、オッサン。なら・・・通りにくいだけで刃も通るし、刃が通れば殺せる。ってことか?」

 はい、と小さく頷いたアイネの後ろから、「それより」と険の混じった言葉が響く。

「誰の御蔭で勝てたのか・・・忘れていませんこと?」

「ふうむ・・・お嬢のサポート、頭目殿の指揮、拙僧の怪力」

 空とぼけた顔で指折り数えるロウトへ、

「ワタクシの魔術!!」

 怒りのこもった言葉と共に、空のガラス瓶が投じられる。それを太い指でキャッチした彼はニンマリと笑い、掴んだ瓶を小器用に投げ返した。

「おお、そうであったな。ついうっかり」

 そういう言い回しが出来るようになったとあれば、早くも彼の体力は戻って来たということか。強壮薬を飲んで尚ぐったりとしているヒューと比べ、本当に人間か怪しくなる。

「うっかり、ではありませんわ!」

 プンプンという擬音を飛び交わしながら腕を組み、頬を膨らませソッポを向くという怒りのバリューセット状態のルーサだが、当然ロウトも本心から忘れていた訳では決して無い。

 洞窟内ということで、彼女が得意とする広範囲への攻撃魔術は使い道が無い。また単体攻撃用の魔術もそれをメインに攻略しようと思えば脆弱な彼女が前衛を努める事になる。故に却下。

 だから、彼女の役割はサポート、各々の身体を強化させるエンチャントを途切れないよう、補助魔法をかけ続けることだ。それが無ければ、如何な筋肉お化け2人とは言え化物の攻撃を無傷でこなすことは出来なかったであろうし、敵ガーゴイルが命を賭してでも仕留めようとしたことからも、その有用性は明らかだ。

「まったく・・・こちらは慣れないことを一生懸命ですのに」

 ただ、普段使わない魔術、それも得意分野で無い魔術だからか消耗は昨夜よりも激しいらしい。彼女の傍にはさっき投げ返されたものを含め、空になった瓶が2本転がっている。

 ・・・絵面だけ見れば、酒盛りをする浮浪者にしか見えないのは、内緒だ。

「あ、あの!ありがとうございま、した!」

「・・・素直なのは、この娘だけですわ」

「で、だ」

 よよとワザとらしく袖を目にあてるルーサは無視して切り出すと、

「何ですの!」

 と、途端に馬脚を現す。まあ、分かり易いのは良いことだ。

「気付いてるとは思うが・・・こりゃ、ただの洞穴じゃ無えな」

 その言葉に2人が頷き、1人は「え?え?」と辺りを見回す。それが誰かは名誉の為にも伏せさせて頂こう。

「そう言えば・・・いつの間にか、四角いですわね、通路」

「・・・もっとあるだろ、言い方」

 入ったところは石を掘り抜いたような通路だったのだが、あるところから急に石造りの通路へと変貌していた。それも俄か造りではない、キチンキチンと石が組んである本格的なものだ。

「オレが言いたいのは、だ。コレ、ダンジョンじゃ無えだろうな?」

 ダンジョン、即ち迷わせの遺跡。正確にはメイズとダンジョンは違うものだが、冒険者の間では同じものとして扱われている。

「ふうむ、拙僧もその類に潜ったことは御座らぬので・・・何とも」

「違うと思いますよ」


(まただ)

 そんな思いが漏れたか、つい鋭くなった目線にアイネはビクリと肩を震わせると、

「あ、あの、少し確認したいの、で。一緒にお願いして、も?」

 遠慮がちに、ロウトへと声をかける。かけられた方が「宜しいか?」と目で合図してくるが、それ以外にも何か言いたげなその視線から逃れるようにヒューは「良いぜ」と言いつつソッポを向いた。

「ではお嬢、どちらへ?」

「は、はい。では・・・来た方へ」

 ちょこちょこと、かつおっかなびっくり入口へと歩を進めるアイネ。そしてその後を付けるロウトをぼんやりと眺めていると、

「ねえ、アナタ」

「んだよ」

 珍しいのが、声をかけてくる。それも、気のせいか少し怒り気味だ。

「ワタクシもアナタと話したい訳ではありませんから、言うだけ言いますが・・・軽々に敵意を向けるのはお止しなさい」

「誰にだ?」

「しらばっくれるのはお止しになって。彼女にですわ」

 彼女。その言葉から、アイネのことらしい。

「別に、オレは・・・」

「嘘おっしゃい。目線に険が混じっておいでよ。それに・・・アナタもそれに気付いているからこそ、ロウトの目線から目を背けたのでしょう?」

「・・・お前には関係ない」

「ありますわ」

 なんとか絞り出した答えに返ってきたのは、慈愛の欠片も無い、鼻柱を打つような返答だ。

「パーティのリーダーが仲間を無思慮に威圧していては、生きて帰れやしませんもの」

「・・・別に、なりたくてなった訳じゃ」

 無い、と言い切る前に、

「関係ありませんわ、アナタの意志なんて。大事なのは、今現在アナタがリーダーであること。それだけですわ」

 そう言う彼女を見据えて見れば、どこかさっきまでより大人びて見えた。

「誰だって、己の意思とは無関係に役割が与えられます。それは、世捨て人にでもならなければ避けられませんわ」

「なら、お前がしてもいいぞ、リーダー」

「アナタねえ・・・出来るならとっくにやっています。ですが、ワタクシでは駄目なのです。アイネも、ロウトも、そして・・・不服ですがワタクシも。アナタがそれに相応しいと感じたからこそ、アナタにそれを求めるのです」

 そんな勝手な。そう口に出さないくらいの分別は、ヒューにもある。

「それに応えろ、とは言いませんわ。ですが・・・せめて、それらしく振る舞うくらいはなさいな。その気が無いにしても」

 そう、ルーサは言うだけ言うとくるりと背を向ける。ヒューがそっと手甲に映る自分の顔を見れば、それは何とも情けなくて。

(ぐだぐだ考え過ぎ、か・・・少なくとも、アイネに偽りは無し、謀りも無し。何より一生懸命。なら)

 なら、後は自分がそれを信じるだけ。何とも単純で、何とも難しい。

「・・・しゃあねえ、か。分かったよ」

 そう言ってガリガリと頭を掻くと、先の彼女と同じように彼も彼女へ背を向ける。

「・・・・・・ありがとよ」

 壁に向かって投げ込んだ言葉。だが何故か後ろから、

「どういたしまして」

 そんな言葉が返って来た。そんな気がした。


「た、ただ今戻りまし・・・た?」

 戻って来たアイネたちが見たのは、ヒューとルーサが背中を向け合って座っているさまだった。背中合わせとも警戒中とも言い難いその様子に、アイネたちが面喰ったのも無理は無い。

「・・・何でも無えよ」

「ですわ。何でもありませんわ」

「え?え?」

 どう考えても、何でも無かった人間がする態度では無い。むしろ、何かあったと白状しているようなものだ。

「んな事より、だ。何か分かったか?」

 不機嫌を隠そうとしない声音。しかし、さっきあった警戒心による険で無いことに安堵したか、アイネは少し相好を崩して「は、はい」と座り込む。

「え、と。まず・・・やっぱりここはダンジョンでは無いか、と」

「何故ですの?」

「えと、若しダンジョンなら、その・・・ここまで一直線に下ることは無いん、です。普通なら、入り口から2手に別れてたり、横道があったり、その」

「迷わすような造りになっておる。と、お嬢が申しておった」

「けどよ、こんな風になったトコ、何かでぶち抜かれたみてえだったが?」

 なら、入り口がどうこうは分からなく無いか。ヒューがそんな疑問を口にするも、

「それも、です。ダンジョンなら入り口以外から、入ることはですね、その、ダメなので」

 何とも言葉が足らないが、要するに定められた所以外から出入り出来てしまえばダンジョンの甲斐が無い。

「だから、壁なぞも容易に抜けぬようになっている、と?」

 そう上手く纏めてくれたロウトに、アイネは嬉しそうに「はい」と頷いた。

 平然と、持っている知識を当然のように使う。ただ知識をひけらかすのでは無く、それを使い理を説くその姿はまるで歴戦の冒険者のようだ。相変わらずそう考えてしまうヒューだが、それを努めて顔に出さないよう話を戻す。

「で、だ。じゃあアイネ、何だと思う?」

「え・・・と、お墓かな、と」

「ふうむ・・・確か、陵墓と言いましたか。さもありなん」

「ちょっと待って下さいまし。お墓と言われましたけど・・・じゃあこの奥にお墓があるんですの?」

「違うぞルーサ殿。この場所がお墓なのだ」

 トントンとその太い指で床を指すが、ルーサは「はあ?」という怪訝な顔をするばかり。

 ロウトは少し困った顔で「やれやれ」と肩を竦める。

「であるから、拙僧は『陵墓』と申した。今の御世より遥か昔、時の権力者は己の権勢を誇示するために、山のような墓を造ったのだ」

 その発言に、アイネは少し悩んでフルフルと首を横に振る。

「正確には、山を掘り抜いて、そこに遺体を安置したもの、です。確か」

 そう思って通路の壁などをよく見れば、そこには恐らく昔の儀式の様子だろうか、何かを抽象化したような文様や図が刻まれている。

「であれば、先程の疑問も氷解しよう。恐らく封じてあったであろう入り口、それを敵の首魁が破り、己が根拠と為した。・・・それで如何であろう、頭目殿?」

「じゃあよ・・・」

 その問いかけを思い切り無視して立ち上がったヒューは、緩やかな下り通路の先を見据える。それは奥から光が差しており、まるで出口のようでもあり入り口のようでもあった。

「あの先が敵さんの本丸ってことか?」

「かもしれません」

「しかし、その割には・・・」

 守りが薄すぎる気がする。そう言いかけたヒューを追い抜いて、ルーサがズンズンと前に出る。

「埒が明きませんわ。行ってみれば分かるでしょう」

「おい待て、魔術師が前に出てどうする!?」

「見てくるだけですわ。貴方がたはそこで小田原評定でもしてたして―」

 無視して先を進むルーサの手を、アイネがはっしと掴み止める。

「何ですの、ちょっと見てくるだけと言って・・・」

「ダメ、です」

「え、ええ?」

「なんでも、ダメ、です」

 きゅう、と掴む手の強さはさほどでも無かった。振りほどくのも容易だっただろう。

 しかしルーサを見つめ、決して視線を逸らそうとしないアイネの目から感じる思いの強さが、彼女にそれをさせなかった。

「いるのか?」

「はい。・・・多分」

 ルーサの手を掴んだまま頷いたアイネの二の腕は、離して擦りたいほど嫌な予感にソワソワと逆立っている。

「しかし頭目殿、仮に敵・・・恐らくは先と同じガーゴイルであろう。それがこちらへ攻めて来ぬということは・・・作麼生そもさん?」

説破せっぱ。待ち伏せの心算か」

 通路は緩いスロープになっており、今の位置からではその部屋らしき場所を伺うことは出来ない。ヒューが地面に這いずるようにして何とか部屋の半ばくらいまで見通せたが、そこに敵の影は伺えない。

「結構広そうな部屋に見えるな、広間か?しかし、見える限りで言えば先には居そうにない。て、ことは・・・」

「入り口脇か・・・上、であるかな?」

 スッと、ロウトは太い指で天井を指さす。

「ガーゴイルは翼で飛べるのであるから、天井にへばりつくくらいはお茶の子さいさいであろうが、頭目殿はどう見まする?」

「オレもそう思う」

 入り口脇に控えていて、入って来た奴をズンバラリ!というのは確かに有効な伏撃ではある。しかし、入って来る敵から見えないということは、裏を返せば入って来る敵を見ることが出来ないということでもある。仮に待ち伏せがバレている場合、良からぬ目に遭わされることも十分にあり得る。タネの割れた手品師ほど、扱いが惨めなものは無い。

 対して、天井に潜んだ場合。その場合は入り口から入って来たことを確認してから飛び出せば良いから、そういった危険は少ない。天井からの方が距離はあるだろうから気付かれて備えられる恐れはあるが、その場合は強襲にスイッチすればいいだけだ。

「ま、実際のところは少しずつ前進して・・・ん、どうしたアイネ?」

「い、いえ・・・何故だか『広間』と聞いたら、その、寒気が・・・」

 カタカタと身を震わせるアイネの肩をぐっと掴み、

「安心召されよ。如何な頭目殿とは申せ、あの中の様子を探って来いとは言いますまいよ」

 のう?と意味ありげな笑みを向けるロウトに、ヒューは不満げに「言わねえよ」と吐き捨てる。しかし、先ほどとは異なり視線までは逸らさぬ様子に、ロウトはこれも先までとは異なる柔らかそうな笑みを浮かべた。

「しっかし・・・どうすっかな」

 敵が待ち構えているのは間違い無い。しかし、奥へ進むためにはそれを突破しなければならないのだ。さっきロウトが言ったようにアイネを斥候に行かせるのは論外として、さすれど他に良案も出て来ず。

 その場でウロウロしながら「ああでも無い、こうでも無い」と独り言ちるヒューの背中に、不意にドンと衝撃が襲った。

「痛え!」

「どうやら・・・ワタクシの出番のようですわね!」

「出番って・・・その石ころで何か出来んのか?」

「いえ。これはアナタを叩くのに使っただけですわ」

 そう言って、握っていた手のひら大の石をお役御免と放り捨てる。ビンタなら兎も角、石で殴りつけるなぞ淑女のやることか?とはその時ロウトが胸中で吐いた言葉。

「それより・・・行きますわよ」

 その凶行を悪びれもせず、ルーサはアイネの手を掴んで入り口まで歩き出す。

「わ!わ!る、ルーサさん!?」

「ちょ、おま!」

 待てよ、とひゅーが制止をかける前に、ルーサはピタリと立ち止まった。思わずガックリとずっこけたヒューたちをひとしきりニマニマと意地悪く嗤ったルーサは一転、真剣な顔で黙りこくる。

「る、ルーサさん?」

「静かに。・・・・・・・・・・確かに、結構天井は高そうですわね」

「分かるのか?」

「ええ。空気の感じから察して、天井まで2~4階分くらいはあるかしら?広いですわね」

 それは魔術師というよりむしろ斥候のスキルではないのか、と突っ込む無粋者はこのパーティにはいない。後で言おうと心に刻む者は2人ほどいたが。

「ところでアイネさん、その敵の気配とやらはまだ感じまして?」

「え?ええっと、はい」

 むしろヒリつくような感覚は増々強くなっており、延髄あたりがチクチクと針を刺すように痛む。

「ですか・・・・・・それと、もう一つ」

「は、はい」

「あのガーゴイルのことですわ。長時間飛んでいられない、というのは本当でして?」

 その問いにアイネがしっかりと頷いた事を確認し、そっと自分の豊満な胸に手をあてて何かを確認したルーサは「うんうん」と一人合点のように頷くと、

「では、行きましょう。ワタクシに策有り、ですわ!」

 自信満々に、まるで悪戯を思いついた猫のように微笑んだ。高笑いと共に。

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