第3話 任務開始!初戦は暴走魔導士だ!

ーモガル王国レパン山林地帯−涼風と木漏れ日が交わる森のへそー


「すぅ…。」


「ふぅ…。」


「…だめですね。どうにも落ち着かない。」


「意外と森林浴というものは難しい。」


「すぅ…。」


「ふぅ…。」


「……。」


「(先に仕事の方を終わらせよう…。)」



ーモガル王国レパン山林の『聖天のカンテラ』眠る地下洞窟入口ー


「…おや。周辺の草木が荒らされていますね。」


「(獣でも住み着いているのでしょうか。)」


「輝聖天リーケルから蒼玉の塔管制局へ。」


「『…コチラ蒼玉ノ塔管制局フーリマス大陸支部。輝聖天リーケルドウゾ。』」


「統一歴849年翠季蕾節5天11時37分34秒。現在地より『聖天のカンテラ』の捜索を開始します。」


『輝聖天リーケルノ活動開始ヲ承認。良キ輝キヲ。』


「蒼の慈悲を。…では参りますか。」



ーモガル王国レパン山林の『聖天のカンテラ』眠る地下洞窟第1層ー


「…ん?」


「うひゃひゃ逃げろ〜。」

「うっせうっはうっひ。」


「なぜ天魔がこのようなところに。」


「!!」

「うわっ!なぜ聖天がいるんだ!」


「貴方がた、『サボり魔』ですね。主様より授かった使命を…。」


「うるせぇ!『シャドークロー』!」

「うわっ!軽々しく避けやがった!」


「…使命を忘れこのような人里離れた地で遊楽にふけるとは許されないことです。」


「おめぇも一緒にやれ!『シャドークロー』!」

「あいよ!『シャドークロー』!」


「略式豪え…「黒魔術『フレイム』!」…?」


「「あちゃちゃちゃちゃ!」」


「我が魔導の威光に恐れ慄く天魔達!ようやく追い付いたわ!」


「あちちっ。げっ。もう追ってきたのかよ!」

「ど、どうする!?」

「…こうなったらこの魔導士を盾にして奥に逃げるぞ!」


「あたしを盾にするとかいい度胸じゃない!雑魚天魔!」


「「誰が雑魚じゃあ!!」」 「舞式豪炎魔法『ヘラファラ』。」


「「どぎゃあ!?」」


「えっ!?なに!?急にあなた達燃え散らかしてどうしたの!?はっ!さては何かの術でも行う気ね!」


「「ぐべべべぇ…。」」


「あーーーー!?あたしの獲物が!!普通に燃え尽きてる!?」


「大丈夫だと思いますが被弾はしていないですか?」


「えっ!?」


「貴女が注意を引いていてくれたおかげで楽に魔界へ送ることができました。」


「こんな所に女の子が!?…!その白亜の法衣はもしかして聖天様!?」


「はい。私は聖天のリーケルと申します。」


「凄い!すごいすごい!初めて聖天様に会えたわ!」


「貴女はなぜこのような所に?」


「くぅぅぅ!これで我が魔導の道が一歩前進するわ!」


「あの。」


「おばばの占いも偶には当たるじゃない!」


「聞こえてますか?」


「しかも大当たり!強い天魔が居ればいいかなと思っていたらまさかの聖天様!」


「独り言が長いですね…。」


「あたしのお願いを聞いてくださるかしら?…うん、大丈夫なはずよ。だってここで会えたのはそういう運命だったに違いないわ!」


「…。」


「リーケル様!頼みがあります!」


「えっ、あっ、はい。何でしょう?」


「ん?リーケル?…え?お名前はリーケル様で合っていますか?」


「…ええ。いかがされました?」


「合ってる…つまり『輝聖天リーケル』!?高位聖天の!?」


「ええ。よくご存知で。」


「もちろん!高位の聖天の名前は全て頭に入っているわ!!えっ凄い!すごいすごいすごい!ありえない!夢?これは夢!?」


「うぐっ…。いきなり抱き着かれると危ないです。」


「はっ!!待って!」


「!?(今度は突き飛ばされた!?)」


「中位以上の聖天様は地上に出てこれないはず…。そして下位の聖天様が上位の聖天の名前を騙ることはあり得ないわ。つまり…。」


「私は主様より…「あなたは聖天の振りをした天魔ね!」…違います。」


「危なかった…。あたしとしたことが狡猾な天魔に騙されるところだったわ。」


「いえいえ私は天魔ではなく…。」


「ふふふ。愚かな天魔!無学な凡夫なら騙せたでしょうけど、あたしはそうはいかないわ!下位聖天の名を騙るべきだったわね!まぁそれでもあたしは騙されなかったでしょうけど!」


「(なんだか面倒なことになってきた気がします…。)」


「我が魔導に伏すがいい!ウンタラカンタラウンタラカンタラ黒魔術『サンダー』!」


「…。」ヒョイ


「!!雷撃を避けるなんて!」


「すみませんが、落ち着いて頂けませんか?」


「ウンタラカンタラウンタラカンタラ黒魔術『フリーズ』!」


「略式炎風魔法『ヒータランテ』」


「!!温風であたしの冷気が掻き消された!」


「略式影草魔法『マダンタ』」


「なっ!」


「すみませんが拘束させて頂きました。」


「解けない…。身体もまったく揺かせない。魔術とは違う…。これが魔法なのね!」


「魔導士さん、無理に身体を動かしますと痛めます。」


「あら、天魔の癖に気遣ってくれるのね。」


「私は人間である貴女を傷つけるつもりはありませんよ。」


「ふ〜ん?なら生け捕りにしたあたしをどうするつもり?」


「どうもこうもしませんよ。ただ私の話を聞いて頂きたいだけです。」


「堕道への誘いってやつね!あたしを天魔にするつもりなのね!」


「いえ、違います。私はあな…「しらばくれたって無駄よ!魔導の道を極めるあたしに誘惑なんて効かないわ!」……せめて最後まで話を聞いてください。」


「…まぁでも、あたしに魔法を教えてくれるって言うなら、天魔はダメだけど眷属ぐらいなら考えて上げてもいいわよ?」


「…えぇ?」


「何を隠そうあたしは魔法使いに憧れているの!そのためにこんな辺鄙なところまで来たんだから!」


「どういうことですか?」


「ふふふ。あたしを倒したご褒美に教えてあげる!」


「…(捕縛されているのに、かなり強いですねこの方…。)」


「先ずあたしは小さいころから『魔法』が好きだったのよ。」


「なぜです?」


「格好いいから!」


「…なるほど。」


「だって魔術は現実をごまかすのに対して、魔法は現実を書き換えるのよ!凄いじゃない!」


「…そうですか。」


「そうよ!!それになにより魔術と違って魔法は扱える人間がほとんどいないっていうのが何より良いわ!」


「魔法は人間には今はまだ難しいですからね。」


「だから天魔をボコして魔法を教えて貰おうと思ったの!」


「…普通に人間の魔法使いの方に教えを請えばいいのでは?」


「いやよ!突如として現れた謎の魔法使いって感じで世間を騒がせたいもの。魔法使いの弟子になんてなったら余り驚かれないわ!」


「そうですかね?」


「そうに決まっているわ。…それにしてもこんなに強い天魔が居たなんて。あたしは黒魔術でもけっこうイケてると思ってたんだけどな〜。」


「色々と言いたいことはあるのですが、ひとまずは落ち込まないでください。私は天魔ではないですので。」


「あなたってランクは『5』よね?『6』以上は聖天様と同じで地上にはでてこれないものね。」


「…はぁ。(この話を聞いてくれない感じは同期の『メル』を彷彿とさせてくれますね。)」


「ん〜〜。でもなんか『5』って感じがしないのよね。もっと強そうっていうか。今まで『2』『3』『4』と戦ってきたけど順当じゃないっていうか。」


「そろそろ拘束を解きますね。もう攻撃はしてこないでください。」


「!まだこのままでいいわよ。」


「えっ、何故ですか?」


「魔法を受けたのなんて初めてだからもっと味わっておきたいの!」


「…そうですか。わかりました、少し緩めるぐらいにしておきます。」


「あぁ…。締め付けもそのままで良かったのに。」


「質問よろしいですか?」


「いいわ!」


「貴女は聖天と天魔のことをよくご存知だとお見受けしますが、『特使聖天』についてはいかがですか?」


「もちろん知っているわ!かつて主の右腕で筆頭聖天であった『燦聖天アイザック』様に仕え、そして主より特別に任務を与えられた上位聖天のことよね!その上位聖天達だけは地上に降りてこれるのよ!それこそ『輝聖天リーケル』様とか…あっ…れ?」


「…。」


「…。…?…!?」


「気が付きましたか?」


「本物!!あなた本物の『輝聖天リーケル』様!?」


「そうですよ。」


「偽装していると言われればそれでおしまいですが、一応これが聖天の証です。」


「…薄暗くて見えないわ。」


「それは配慮に欠けておりました。少々お待ちを…舞式天光魔法『リュード』」


「眩しいっ!」


「すみません強すぎました。…これで見えますよね。」


「は、はい。…!?聖天様のうなじに刻まれているという紋様…書で見たものと同じだ。」


「信じて頂けますか?」


「あっ…はい。…ていうか薄暗くで見えづらかったけどリーケル様メッチャ美人!」


「貴女も素敵な顔立ちですよ。」


「あたしなんてそんな…照れます!」


「私こそそんなにですよ。仲間にはよくやつれていてブサイクだと言われますので。」


「いやいやいや!そのやつれ感がなんとも言えない儚げさを出していて…可愛いというかなんというか抱きしめたくなるような…。」


「ふふ。お世辞は大丈夫ですよ。」


「とんでもない!!…ていうかあたしこそとんでもない過ちを…。リーケル様を天魔と決めつけて攻撃するなんて!」


「気にしていないですよ。むしろ素晴らしいと思います。あそこであの判断は間違いないでは無いと思います。」


「聖天様に褒められた…。」


「もういいですよね?拘束を解いて。」


「はいもちろんです!」


「これでよし。」


「ありがとうございます!!」


「誤解も無事解けたところで私は先に進みますね。聖天としての仕事の途中でして。」


「えっ!?」


「その前に1つ助言を。天魔に魔法を教わるのは余りおすすめできませんが、どうしてもやるならしっかり契約を。それと相手は『青』系統の天魔がいいです。彼らは誇りを重んじるので。それでは。」


「あっ待ってください!!」


「?」


「なんでもやります!あたしを弟子にしてください!!」


「え。」


「ここで会ったのは運命!魔法を教われるなら天魔でも聖天様でもいいんです!いやむしろ聖天様がいい!」


「すみませんが私には仕事がありまして…。」


「仕事の邪魔を決してしません!むしろお手伝いします!片手間に教えて頂くだけでもいいんです!」


「しかし…。」


「お願いします!リーケル様の魔法をくらった時にまるで締め付けられるような衝撃をうけたのです!」


「いやそれは本当に縛りましたから。」


「お願いします!魔法使いになるのが本当に憧れで本当になりたいんです!」


「ど、土下座はおやめください…。」


「靴磨きでもなんでもしますから!」


「落ち着いてください。…わかりました。」


「!!」


「聖天の本来の役割は人々の成長を促すことです。…人にものを教える経験が浅く十全にできるか分かりませんが尽力いたしましょう。」


「ホントですか師匠!!」


「師匠は辞めてください。聖天は基本的に人の上に立つことを禁じられております。ですので友人として貴女を手助けいたします。」


「ありがとうございますリーケル様!」ギュウッ


「うぐっ!?急に抱きつかないでください…。」


「やった!やったやったーー!あたしもついに魔法使いだー!」


「…(息抜きしろと言われてますし、偶にはこんな事になってもいいでしょう。)」


「やったやったやったーー!」ギュウ〜


「そ、そろそろ離してくださいな…。」

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リーケルとダンジョン トマトとタケノコ @tomatake

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