第2話 聖天リーケルはワーカーホリック

ー天界−蒼玉の塔-塔長室ー


「やぁ『リーケル』君。こないだの件はありがとう。迅速に動いてくれて助かるよ。」


「こんにちは。『モル』様。天界と地上の秩序の安定を担う蒼玉の塔。その塔長からの直々の司令ならば、いの一番に事に当たりますよ。」


「ハハハッ。キミはホントに優秀だね。同じ『輝聖天』の中では1番じゃないかな。」


「いいえ、そんなことはないですよ。皆さんそれぞれ優秀です。」


「謙虚だね~。」


「そういえば。先ほどの任務なのですが。」


「なんだい?」


「あの任務は私ではなく下位の聖天でも良かったのではないでしょうか。」


「ふむ?」


「私はてっきり下位聖天では手に負えない大物でもいるのかと探しましたが、発見したのはランク『5』以下の天魔だけでした。」


「ハハハ。事前観測でも確認されたのはそうだったよ。」


「…。ではなぜ私に任務を渡したのでしょう?」


「ん〜。大した理由では無いんだけどね。キミって主がこの世界を去る前に授かった任務があったじゃない?」


「ええ。」


「そんでもってその任務をキミは早々と終わらせた。」


「主様より与えられた使命ですから当然かと。」


「終わりの無い任務の者は除いて、大半の者が未だ終わらせて居ないけどね。」


「すみません。私から皆に早く終わらせるよう伝えておきます。」


「そうじゃない。そうじゃないんだ。僕が言いたかったことはキミは働き過ぎってことさ。」


「?働き過ぎですか?」


「そうさ。キミは特別任務が終わった後、ずっと雑用を引き受けてくれていただろう?」


「ええそうですね。しかし当然かと。」


「もっと周りを見てご覧よ。他の奴は遊び呆けている奴ばかりじゃないか。」


「?そうでしょうか。皆さんテキパキと働いてますよ。」


「ハハハッ。ここの蒼玉の塔の連中はカウントしないで。…いや、ここの連中でさえ休む日を取っているよ。キミは最後に休んだのはいつ?」


「…1週間ほど前に同期の者と2時間ほど飲み会をしました。」


「その飲み会の前は何してた?」


「その前は確か翠玉の塔から琥珀玉の塔に荷物の配達を行っておりました。」


「そうか〜。じゃあまる1日休みを取ったのはいつ?」


「……。」


「……。」


「……6年前ぐらいに取ったような?」


「という訳さ。」


「何がでしょうか?」


「キミは働き過ぎ。僕たち最上位の聖天、『燦聖天』を含めて全ての聖天の中でキミが1番労働時間が長いよ。」


「…。そうで…しょうか…?」


「そうなんだよ。そもそもキミの直属の上司の『パンモ』君から相談があったんだよ。キミがなかなか休んでくれないって。」


「パンモ様が。」


「キミに休んでと言っても休んでくれないから、キミに仕事がいかないようにしたけど、どこかしらから仕事を取ってきてしまうって。」


「…そうでしたか。パンモ様がそのような気づかいを。パンモ様が仕事を振ってこないので不思議とは思ってはいたのです。」


「ん~一応は不思議には思っていたんだね。実はこないだの討伐の任務は彼と話して、地上の観光地にある箇所の任務をキミに振り分けたんだ。仕事終わりにでもちょっと観光してこれるように。」


「そうだったのですか。」


「まぁキミは見向きもせずに帰還してきたけどね。」


「すみません。パンモ様に謝罪をしてこようと思います。」


「んー、彼に謝罪するよりもキミが休暇を取ってくれた方が彼は喜ぶと思うよ。」


「…そうですか。」


「ハハハ。なんか不服そうだね。」


「休めと言われましても何をしたらいいか分からないのです。」


「1日中、眠とけばいいさ。」


「1日中睡眠ですか?聖天のこの身体は丈夫で少し休めば全快しますのに?」


「ん~~。何て言えばいいのかな。」


「休むとは難しいですね…。」


「難しいか〜。僕はいくつでも思いつくけどな~。」


「…。」


「ハハハッ。それにしてもオモシロいよね。」


「?何がでしょう。」


「昔の僕は休みどころかよく仕事をサボっていたからさ。それでもってよく『アイ』に叱られていたよ。」


「そういえばそうでしたね。『アイザック』様が時たまモル様の態度について小言を漏らしておりました。」


「かつてキミやパンモ君の上司であったアイに、サボりについて注意を受けていた僕が、今やキミたちと休み方について話し合っている。人生どうなるもんか分からないものだな〜。」


「……フフ。そうですね。」


「ん。閃いた。」


「?」


「僕も労働についてアレコレ言われる気持ちはよくわかるからね。それぞれやりたいようにやるのがいいよ。特に今は大きな仕事なんてないしね。」


「では私は休まず仕事をしていいと?」


「うん。ただ。」


「ただ?」


「キミには僕から特別な任務を与えてあげるよ。」


「特別な任務ですか。大物魔獣の討伐でしょうか?」


「ハハハッ。いやいや違うよ。キミには余り重要ではない仕事をしてもらう。」


「えっ…。」


「キミが仕事をしまくると他の者が育たないからさ。」


「それは…考えたことありませんでした。」


「というわけでこの資料を読んで。」


「…影響度極小戦争紛失物一覧とその推測地ですか。」


「そうさ。かつての大戦で僕ら聖天が使用していた一部の備品や兵器が戦の混乱でいくつか失くなっているのは知っているよね。」


「はい。人間達に使われてはいけない危険なモノなどですね。いくつか以前の任務で回収したことがあります。」


「そうだね。下手したら人類を滅ぼしてしまうものとかあったからね。それで今回はその一覧のものを回収してほしい。題名に書いてあるとおり人間達が見つけてもほとんど問題無い代物ばかりだ。」


「…確かに大したモノは書かれておりませんね。」


「今すぐにでもやらなくていいけど、いつかはやった方がいい仕事。今のキミにピッタリでしょ?」


「そうですね。やりがいがありそうです。」


「ま、キミが休まないことについてはパンモ君には良い感じに言っておくからさ。」


「モル様ありがとうございます。」


「かと言って、根を詰めてやらなくていいからね?パンモ君の想いも汲み取ってあげなよ?」


「わかりました。」


「場合によってはキミを捕縛して強制的に休ませるからね。」


「肝に銘じておきます…。」


「というわけで、最初はコレがいいんじゃないかな。」


「『聖天のカンテラ』ですか。最終確認地はモガル王国レパンの山林の地下洞窟。」


「モガル王国のレパンはのどかな所だし自然が豊かだからさ。森林浴でもしてくるといいよ。」


「…森林浴ですね。わかりました。」


「ハハハッ。森林浴は必須の任務だからね。」


「…フフ。承知しました。聖天のカンテラ捜索と森林浴をやってきます。」


「それでは輝聖天リーケル。任務よろしく!」

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