第8話 友情の絆、困難を乗り越えて(1章エンディング)
「はぁっ!」
カーラの鋭い突きが、黒人少年の顔面を捉える。
「ぐっ…!」
少年は呻き声を上げながらも、なんとか踏みとどまる。カーラは水泳の金メダリストを両親に持ち、その遺伝子を受け継いだ俊敏な動きで、次々と少年の急所を突いていた。
一方の少年は、100mハードル走の銅メダリストの血を引いており、カーラよりもわずかに高いパワーを誇っていた。しかし、その攻撃は不器用で、カーラの華麗な動きについていけずにいる。
「くそっ…!何で上手くいかないんだ!」
少年は苛立ちを隠せない様子で、血走った目でカーラを睨みつける。
実は彼は、密かにカーラに好意を抱いていた。
そして、エリーナに想いを寄せるボスのザリスを利用して、
無理矢理カーラを連れ去ろうと企んだのだ。
子供のうちから女子を強引に妻にしろと言う、支配者の獣人王の命令を盾に、
自分の欲望を正当化しようとしていた。
「こんなことして、何になるの!?やめなさいよ!」
カーラは少年を厳しく見据えながら、言葉を投げかける。いつものように彼女らしい一言だった。
「うるさい!俺はお前が欲しいだけなんだよ!」
少年は剥き出しの欲望を叫ぶと、再びカーラに襲いかかる。
「ていっ!」
カーラは素早く身をかわし、少年の腹部に強烈な膝蹴りを叩き込む。
「ぐはっ!」
少年は苦痛に顔を歪めながら、よろめく。
「私はあなたのモノじゃない!いい加減わかって!」
カーラの怒りに満ちた声が、辺りに響き渡る。だが、少年はカーラの思いなど知ったことではない。ただ自分の欲望を満たすことだけを考えていた。
「くっ…!」
少年は唇を噛みしめ、再び構える。
その鼻からは、カーラのパンチによって血が流れ始めていた。
痛みと屈辱に、少年の目は血走っている。
「もう、わけがわからないわ!どうして私なの!?」
カーラは困惑しながらも、臨機応変に戦う姿勢だ。
そのとき、ふと少年の目が砂地に転がる物に留まった。少し棘のある枯れ木の棒だ。
「ふん…これで俺の勝ちだ!」
少年は嬉々とした表情で棒を手に取ると、カーラに向かって振りかざす。
「きゃっ!」
不意を突かれ、カーラは咄嗟に棒を避ける。しかし、少年は容赦なく棒を振るい続ける。
「はっはっは!逃げられるものなら逃げてみろ!」
少年の口から、高笑いが漏れる。カーラは必死で棒をかわし続けるが、次第に追い詰められていく。
「カーラー!」
その時、遠くから見覚えのある声が聞こえてきた。
振り返ると、そこにはエリーナの姿があった。
「エリーナ!」
カーラの顔に驚きと安堵の表情が浮かぶ。
「ザリスを倒したの!?」
「ええ、なんとかね!それよりも、これを使って!」
エリーナが何かを手に取り、力強く投げる。
それは野球ボールよりやや小さい中石だった。
鍛え抜かれた剛腕から放たれる遠投は、50メートルぐらいの距離を一気に縮めた。
「thanks!」
カーラは女子とは思えない華麗なキャッチを見せ、
迫り来る棒に向かって石を振り抜いた。
「えいっ!」
見事に石が棒に命中し、その衝撃で棒は大きく折れ曲がる。
「な、なんだと!?」
予想外の展開に、少年が目を見開く。
その隙を見逃さず、カーラは少年に飛びかかった。
「たあっ!」
だが、少年は咄嗟にバックステップを取り、カーラの突進をかわす。
「まだ終わっちゃいないぜ!」
少年は意地悪く笑うと、勢いよく回し蹴りを放つ。
「きゃあっ!」
カーラは咄嗟に頭を下げ、回し蹴りをかわす。だが、少年はすかさず次の攻撃に移る。
「くらえっ!」
少年の右足が、鋭い軌道を描いてカーラに迫る。
「!」
カーラは瞬時に判断し、少年の蹴り足の威力を両手で押さえて殺し、左腕で抱え込んだ。
「な、なんだと!?」
片足立ちのまま、動きを封じられた少年。その隙を見逃さず、カーラは 石 を振るう。
「これで終わりよ!」
石の一撃が、少年の鼻面にガツンと叩き込まれる。
「ぐぼっ!」
鼻を砕かれた少年は、悲鳴を上げながら後ろに倒れ込む。そして、そのまま地面に崩れ落ちた。
「う、うわぁぁん!」
たくさん鼻血を流しながら、少年は子供のように泣き出す。カーラとエリーナは顔を見合わせ、安堵の表情を浮かべた。
「ありがとう、エリーナ。あなたが来てくれて本当に良かったわ。」
「当然じゃない!困ったときはお互い様でしょ?」
エリーナはカーラの手を握り、力強く言葉を返す。
その瞳には、仲間を大切にする強い意志が宿っている。
カーラは少年を見やり、小さくため息をついた。
「この子、私のことが好きだったのかしら…。だからザリスを利用して、無理やり連れ去ろうとしたのね。」
「そんな卑怯な真似、許せないわ!」
エリーナは怒りを露わにするが、カーラは諭すように手を握り返した。
「でも、きっとこの子にも事情があるはず。ね、許してあげましょう?」
「うぅ…わかったわ。カーラに免じて、今回は大目に見てあげる!」
エリーナは渋々といった様子で頷く。カーラの包容力に、いつも助けられていた。
2人は固く手を握り合い、再会を喜び合った。
正反対の性格でありながら、困難に立ち向かう強い意志だけは同じなのだ。
そして、この一件から数日後。エリーナの耳に、興味深い情報が入ってきた。
「ザリスが、あのエリーナをかばって、
父上に今回の件を言わないようにしてくれたんですって。
おかげで、エリーナへの罰は無さそうだよ。」
「ふぅん、ザリスもたまには良いことするのね。」
「自分たちも私にしたことがやましいからじゃないかな?」
感心したように頷くエリーナとまだ少し気にしているカーラ。
「私たち、これからもっと強くならないと。心も、体も。」
「ええ、そうね。みんなで力を合わせて、もっと素敵な闘技都市を作りましょう!」
カーラの言葉に、エリーナも力強く頷いた。
すぐに近い将来に彼が現れるとも知らずに。
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