王都へゴー 3

 せっかく王都に来たのだから遊びましょうとシャルティーナ様に誘われて、わたしは、シャルティーナ様と二人でショッピングをすることになった。

 リヒャルト様は、いろいろなところから面談のお誘いが入っていてとっても忙しいので一緒にはいかないそうだ。

 パーティーは断ったが、会いたいという誘いを断り切れない相手もいるそうで、王都の情報収集も兼ねてしばらくは社交中心の毎日だそうだ。


 ……貴族って、大変!


 ただ、リヒャルト様がお出かけすると、決まってお土産を持って帰ってくれるので(ほとんどがお菓子!)、わたしはとっても大満足である。

 なんでも、訪問先の貴族がお菓子をお土産に持たせてくれるのは、わたしがお菓子が好きだという情報が出回っているからだという。

 神殿が聖女を大勢抱え込んでいるので、貴族たちは神殿の外にいる聖女とお近づきになりたいらしい。何かあった時に神殿を頼らず、順番待ちもせずに力を借りられる聖女は貴重なのだとか。


 ……リヒャルト様に拾われてから考えてたけど、神殿が聖女を抱え込むメリットって、神殿以外には全然ないんじゃないかなあ。


 貴族も平民も関係なく、多額の寄付金を積まなければ聖女の力が借りられない状態は問題だと思う。

 それに、聖女にしても、外の世界を知らないだけで、知ったら神殿から出たいと考えると思う。

 だって、神殿の外には美味しいものもたくさんあるし、綺麗なものもたくさんある。

 おしゃれが大好きな聖女仲間は、絶対外の暮らしの方が好きだと思うなあ。

 聖女は神殿が保護するもの、という決まりをなくしてしまえばいいのに。

 そうすると神殿はお金が入らなくて大変になるかもしれないけど、本来神殿はお金儲けをするところじゃないもんね。


 ……うん。今度リヒャルト様に言ってみよーっと。リヒャルト様は賢いから、きっと方法を考えてくれるんじゃないかな。


 リヒャルト様は神殿と敵対すると言っていたけど、聖女が神殿以外にもたくさんいたら、神殿と敵対することで被る不利益も少ないはずだもんね?


 ……わたしにしては、冴えてるぅ!


 じゃあ具体的にどうすればいいのかは、わたしの頭じゃ考えたって思いつかないからスルーする。こういうことは、考えるのが得意な賢い人に任せるに限るのだ。


「スカーレット、このお店に入りましょう。新作の帽子が見たいわ」


 シャルティーナ様がわたしの手をぐいぐいと引いて、ショーウインドウに帽子が飾られているお店に入った。

 わたしとシャルティーナ様以外に、ベティーナさんとシャルティーナ様の侍女さんも一緒だが、お店が狭いので外で待っているようである。

 もうすぐ春になるからなのか、春物のカラフルな帽子がたくさん並んでいる。

 シャルティーナ様はミントグリーンの、つばの大きな帽子を手に取って姿見の前に立った。


「ちょっと若作りしすぎかしら? でも可愛いわね、これ。あ、スカーレットはこっちが似合いそうだわ」


 シャルティーナ様が、白地にピンク色のリボンがかかっている帽子を手に取ってわたしの頭にのせた。

 おしゃれについてはチンプンカンプンなので、わたしはされるがままである。


「あら、あっちのクリーム色もいいわね。悩むわあ……」


 シャルティーナ様が今度はクリーム色の帽子をわたしの頭に乗せた。

 そして「悩むわあ」と言いながら十数秒考えて、ポンと手を打つ。


「両方買いましょう」


 ……貴族の方は思い切りがよくていらっしゃる。


 わたしが口を挟む間もなく、シャルティーナ様が最初に手に取ったミントグリーンの帽子と、白い帽子、クリーム色の帽子の清算が終了していた。

 荷物は邸へ届けてくれるそうだ。


「次に行きましょう」


 帽子はもういいようで、次はアクセサリーを扱うお店に行くという。

 シャルティーナ様は、見かけによらずパワフルで、あっち、こっち、と次々に店によってはぽんぽんと即決でお買い物をしていく。

 わたしのものもたくさん買ってくれて、いいのかなあと不安に思ったのだけど、これは、妙な噂が流れてしまったことへのお詫びだから気にしないでと言われた。


 ……お詫びにしては、いっぱい買ってもらったような。


 五つのお店をはしごしたあとで、わたしのお腹がぐうと鳴ったので、カフェに入ることになった。

 シャルティーナ様の好きなフルーツサンドのお店だそうだ。


「とりあえずそうねえ、全種類、くださる?」


 席に着いた後で、にっこりと笑ってシャルティーナ様が注文すると、店員さんの顔が笑顔のまま固まった。


 ……うーん、この光景、前にも見た気が。


 リヒャルト様と一緒に行ったチョコレートのお店でも最初は同じ反応をされたなと思い出して、なんだか懐かしくなった。それほど前のことではないのにね。


「好きなだけ食べてちょうだい。今日は食べられるドレスでしょう?」


 今日のドレスはコルセット不要のものなので、たくさん食べてもお腹が苦しくならない。


「はい!」


 食べていいと言われて我慢するわたしではないので、遠慮なくもりもりいただくことにした。歩き回ってお腹がすいていたのだ。

 クリームたっぷりのフルーツサンドを次々に口に入れていると、シャルティーナ様がふと真面目な顔になって、声のトーンを落とした。


「ねえ、スカーレット、食べながらでいいから聞いてくれるかしら?」

「むぐ」


 口にサンドイッチを詰め込んでいたので、わたしは頷くことで返事をする。

 シャルティーナ様は目を細めて「ふふ、リスみたい」と笑う。


 ……おっといけない。口の中にたくさん食べ物を詰めたらだめってリヒャルト様にも言われていたんだった。お腹が減っていたからついつい……。


 わたしは食べ物で頬がぷっくりしないように気を付けながら食事を続ける。

 シャルティーナ様が紅茶を一口飲んでから続けた。


「リヒャルト様を王にしたい派閥があることは、知っているわよね?」

「むぐ」


 今回も、口の中に食べ物があるので頷くことで返事をする。


「おそらく噂の件もあるんだろうけど、最近になってその一派が、あなたのことをやたらと嗅ぎまわっているようなの。リヒャルト様もベルンハルト様も警戒して情報を集めているようなんだけど、彼らがどういうつもりであなたのことを調べているのか、まだわかっていないんですって。リヒャルト様は神殿は絡んでいないと思うとおっしゃっていたけど、確証が得られるまでは気を付けた方がいいのではないかと思うのよね」

「むぐぐ?」


 わたしも神殿は関係ないと思うけれど、貴族たちがわたしのことを探っているのは確かに不思議だ。

 わたしは気が付かなかったが、実は、シャルティーナ様は今日のお買い物にも、大勢の護衛を用意しているらしい。


 ……気づかれないようにこっそり護衛してくれているなんて、すごいね!


 どこにいるのだろうかときょろきょろと視線を動かすと、シャルティーナ様が苦笑した。

 もし誰かがわたしたちのあとをつけていたりした場合、相手に護衛の存在を気づかれるからきょろきょろしたらダメなんだそうだ。護衛、奥深い!


 そして、今日わたしをお買い物に誘ったのも、相手がどう動くか探るためでもあったという。

 わたしやシャルティーナ様の安全が確保できるだけの護衛を動員し、もし相手が釣れるなら釣り上げようという作戦だったらしい。

 お店の前にベティーナさんとシャルティーナ様の侍女さんが立っていたのも、お店が狭いからではなくて、入り口から不審な人物が入ってこないか見張るためだったんだそうだ。


 ……なんかすごいね。わたし、すっごく守られてる。数か月前は、燃費が悪すぎていらないって捨てられたダメな子だったのに、こんなによくしてもらっていいのかなあ。


 本当、いい人に拾われたなあって思う。だって、すっごく大切にしてもらっている。リヒャルト様は拾った以上、面倒を見る義務があるなんて言っていたけど、普通は義務でここまでしないよ。

 とくんとくんと心臓が音を立てる。


 ……やっぱりわたし、ずっとリヒャルト様のそばにいたいなあ。






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