甘々注意報 4
ぐうぅ。
「お腹すいたー」
ぱちり、と目を開けると、リヒャルト様が肩を震わせて笑っていた。
なんでリヒャルト様がベッドの横に座っているのだろうと首を傾げて、そう言えば知恵熱を出して寝込んだんだったと思い出す。
「君は、腹の音で目を覚ますのか……」
……む?
リヒャルト様は、何かのツボにでも入ったのか、ずっと笑っている。
わたしが自分の腹の虫の声で目を覚ましたのがよっぽど面白かったらしい。
「ほら、ちゃ、ちゃんと持って来てあるぞ」
クツクツと笑いながら、リヒャルト様がベッドサイドの棚の上から綺麗に剥いてあるリンゴの入ったお皿を取った。
皿ごとくれるのかと思ったのだが、どういうわけかリヒャルト様はフォークにリンゴを突き刺すと、「あーん」と言って口元に持ってくる。
……あーんと言われれば食べますけど、わたし、両手はちゃんと使えますよ?
何故食べさせてくれるのだろうと思いつつも、目の前に食べ物が出されたら口に入れるのが食いしん坊の性だ。
リンゴは一口サイズに切ってあったので、まるっと一かけらを口に入れて、シャリシャリと咀嚼する。みずみずしくて、甘酸っぱくて、大変美味しい‼
口の中のものをごくんと飲み込んだら、また次が差し出されたので口を開けた。
自分で食べられますよーと言う暇もなく次々とリンゴが差し出されるので、気づいたときにはわたしはすっかりリンゴを夢中になっていて、リヒャルト様に食べさせてもらうのも気にならなくなっていた。
わたしの食欲を理解しているリヒャルト様は、リンゴをまるまる三個分剥いて用意させていてくれたらしい。
全部ぺろっと完食したら、次は水を差し出されたので飲んでおく。
「腹の具合はどうだ?」
「まだ食べられます」
「まあそうだろうな。それだけ食欲があれば大丈夫か。……熱は?」
リヒャルト様がわたしの額に触れる。
リヒャルト様に触れられると、どきどきと、わたしの心臓がまたうるさくなりはじめた。
……本当にこれ、重たい病気じゃないよね?
こんなに心臓がドキドキいうことなんて、今までなかったのに。
「まだ熱があるな。念のため、今日はこのままベッドですごしなさい」
「夕ご飯は……」
「心配しなくともここに運ばせる」
リヒャルト様が時計を確認し、「夕食はあと二時間後だな」と教えてくれた。
「熱があるから水分の多いものの方がいいだろう。フリッツがゼリーを作っていたからそろそろ……ああ、持って来たみたいだな」
部屋の外からワゴンを押す音が聞こえてきた。
ベティーナさんが扉を開けると、メイドさんがワゴンを押して入って来る。
ワゴンの上には、色とりどりのゼリーがぷるんぷるんと揺れていた。
……ほわああああ! 宝石! 宝石ですか⁉ 食べる宝石‼
ゼリーは神殿で過去に二度ほど食べたことはあるけれど、あんなにキラキラしていなかった。よく見ると、中にカットしたフルーツが入っている。神! フリッツさんは神様ですか!
「本当は夏によく食べるんだが、熱がある君にはちょうどいいだろう」
色とりどりのゼリーたちの中から、リヒャルト様は薄い赤色のゼリーを取った。色からしてイチゴ味だと思う。そうに違いない! だって中にカットしたイチゴが入っているもん!
リヒャルト様がゼリーをスプーンですくって口に近づけてくれたので、わたしは素早い動作でぱくりとそれに食いついた。
気分は釣り針にかかる魚の気分だ。我慢できない!
「ん~~~~っ」
「美味いか?」
「ひゃい!」
つるんとして、口の中でほろっとほどけて溶けていく。
たまらない。もう一口‼
あーんと口を開けると、リヒャルト様がゼリーをすくったスプーンを口の中に入れてくれる。
……うまうま、さいこー!
「……これは癖になるな」
わたしにゼリーを食べさせながら、リヒャルト様がぼそりと言う。
わたしは大きく頷いた。
「はい! 癖になるお味です!」
「そういう意味ではないんだが」
リヒャルト様が苦笑して、次のゼリーを手に取った。今度はオレンジ色をしているので、柑橘系のお味だと思う。
次々にゼリーを口に運んでもらって、ワゴンの上に載っていたゼリーをすっからかんにしたわたしは、そこでハッとした。
……わたし、リヒャルト様に全部食べさせてもらっちゃったよ!
ゼリーに夢中になりすぎて気が付かなかったが、リヒャルト様はさぞ大変だっただろう。
お礼と謝罪とどちらを口にすべきかと悩んでいると、リヒャルト様に優しく肩を押されて、ぽすんとベッドに倒れ込む。
「ほら、腹が膨れたなら夕食まで休んでいなさい。まだ熱が高いからな」
「あ、あ、あのっ」
「うん?」
「……リンゴとゼリー、ありがとうございました」
悩んだ末にお礼を言ったが、どうやら正解だったみたいだ。
リヒャルト様はとっても綺麗に微笑まれて、わたしの心臓がまたどきどきしはじめた。
……今は触れられたわけじゃないのにね。どうしてだろう。やっぱり病気かなあ?
熱が下がったらベティーナさんに訊いてみようと思いながら、わたしはゆっくり目を閉じた。
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