甘々注意報 3

「知恵熱ですね」


 着替えをすませて、ベッドではふはふと熱い息を吐いていると、やって来たお医者様がわたしを診察してそう言った。


 ……知恵熱⁉ それって重い病気ですか⁉ わたし、死んじゃうんですか⁉


 知らない単語にショックを受けているのは、どうやらわたし一人だけだったらしい。

 ベティーナさんもリヒャルト様も、心配で残ってくれていたサリー夫人も、ついでにメイドさんたちも、揃って微妙な顔をしていた。


「……知恵熱って、大人でも出るものなんですね」


 ベティーナさんのつぶやきに、お医者様は聴診器を片付けながら頷く。


「もちろんです。頭を使いすぎたときに知恵熱が出ることがありますよ」


 すると、ベティーナさんもリヒャルト様も、さらに不可解そうな顔になった。


「頭を使いすぎた……」

「スカーレットがか?」

「よほど、食べたいお菓子があったのでしょうか?」

「なるほど。食べたいけれど名前が思い出せなかったりしたんだろうな」


 ……あのぅ。お二人ともちょっとひどいですよ。さすがのわたしも傷つきます。


 だが、どうやら知恵熱とは頭を使いすぎたときに出る熱だそうだ。難病ではなかった。よかった、わたし死なない!


「知恵熱の場合、解熱剤はさほど効果がありませんので、安静にして様子を見られてください」


 お医者様はそう言って、アルムさんに案内されて帰って行く。

 サリー夫人も、大きな病気ではなかったと知って安心したようで、お医者様のあとを追って部屋を出て行った。

 ベティーナさんがわたしの頭の上に濡らしたタオルを置いてくれる。

 リヒャルト様がベッドの横に椅子を持ってきて座った。


「少し寝なさい」

「リヒャルト様は……」


 体調が悪いと人恋しくなるのか、いなくなったら嫌だなあと見上げると、リヒャルト様が優しく微笑む。


「君が目覚めるまでここにいる」

「お仕事は……?」

「急ぎで片づけなければならないものはないから大丈夫だ」


 リヒャルト様が腕を伸ばしてわたしの頭をゆっくりと撫でる。

 それが気持ちよくて、わたしはだんだんと瞼が重くなった。

 熱があるからだろうか、目を閉じると、急速に眠気が襲って来る。


「おやすみ、スカーレット」


 おやすみなさいと、返事をしたつもりだったけれど、声になったかどうかは怪しかった。





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