第38話 飛んで火に入る夏の虫

「総帥……時間です」


 副将にレオは、「ウム」と一つ頷く。見たところ王宮から、白旗は上がってない。


「攻撃準備」


 レオの『冷酷』な命令に、副将は「ハッ」と答える。総員が「ここで終わらせる」という『覚悟』があった。


 ◆ ◆ ◆


「キ……キサマ、ワシの『秘密』を暴露しおってッ! その業、刎頚ふんけいに値するッッ」


「うっせぇわッ! 悔しかったら増毛しとけッ!? ホントお前は、この世の『6職ニー○社不ロクデナシついでに53』の寄せ集めだよなァ!?」


 互いに『自分のこと』を棚に上げまくり、罵詈ばり雑言の限りを尽くす。王宮はレオ以外、ロクなのがいなかった。


「へ……陛下、それにロセナラ嬢。そろそろ時間……」


 側近も状況も、ガン無視するバカ二人。


――ドゴォオオオオンンッッ!!


 王宮に激しい震動が走り、天井から砂埃が舞い散った! ようやく我に返る皇帝ら。


「ほ……本当に撃ってきおった!? ロセナラよ、ここに残って人柱となれィ」

「バカかテメェ、ユカイなのは頭皮だけにしとけや!」


 とはいえ、王宮の崩壊は時間の問題だ。既にあちこちから、火の手が上がっている。そのうち反逆軍も、直接占拠しに雪崩れ込んでくる。


 ロセナラは歯噛みした。何故こうも全てが、裏目に出るのか? 皇帝を『魅了』で堕とし、影から帝都を支配する計画がパーだ。


 皇帝の『我欲』が強過ぎて、完全に支配できなかった。ロセナラにとって完全な誤算で、公爵令嬢というアドバンテージもフイになった。


 こうなったら、アレを使うしかない。まさかこんな老●ジジィに『切り札』を使わざるを得ないとは……。


「もうおしまいじゃあ! 『天下人』になるワシの夢がぁあぁ!?」

「落ち着けジジィ。まだはある」


 ロセナラに皇帝は、「なぬ? ヌシが戦うのか??」とか頓珍漢トンチンカンなことを言う。


「ンなワケねーだろっ、オメーが『人柱』になるんだよ! テメェの城くらいテメェで守れや!」


 こういう時だけ『正論』をかざし、ロセナラは皇帝に『指輪』をかざした! 瞬間……


「ヌォオオオオ~~カラダがぁああああッッ!?!?」


 皇帝のズラがボロンと落ち、衣服も張ち切れでっぷりと太った腹が露になった。さらに金歯もボロボロと抜け、元『皇帝』の威厳など微塵もない『怪物』に成り果てた。


 かつてのバレンシア夫妻やガイオスとの違いは、強制的に『魔物化』したこと。知能に大幅な『デバフ』が掛かっているが、まー時間稼ぎにはなる。


「さーて。粗大53の始末も終わったし、今のうちにズラかって……って、アレはヒメナ・アンジェロっ!?」


 不意に頭上を見上げ、ロセナラは驚いた。何故、シャルジャにいるハズのアイツが王宮ココに……? しかもどういうワケか、イーグルも一緒だ。


 だが、そんな事はロセナラにとって些細なことだった。ヒメナを発見したのも偶然ではなく、本能に近かった。


 ロセナラは、歪んだ笑みを浮かべた。


「ホホホホホ……『飛んで火に入る夏の虫』とはこのことですわ! この機を逃せば、いつ会えるか分かりませんからね。今までの屈辱、まとめて晴らしてあげますわ!」


 水を得た魚のように活気づくロセナラ。ここで、致命的な『判断ミス』を冒した。さっさと逃げればよかったものの、人生最高どころか『最後の日』を迎えるとは……(合掌)



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