第34話 『一目惚れ』/ヒメナ

「え…………?」


 私は一瞬、何を言われたのか分からなかった。目の前のイーグルは、真剣そのものだ。


「ヒメナ。君の一生は、オレが保証する。だから、我と共に歩んでほしい」


 私は『聞いてなかった』……もちろん声は聞こえていたけど、それを『受け止める』余裕などまるでなかった。


 どうしてこうなるの……?


 これが『あの時』なら、どんなにいいことやら……。


 私は『現実』を受け止めることが出来ず……


 イーグルに背を向けて、無我夢中で走った。


「……っ!? 待てヒメナっ、なぜ逃げる!?」


 イーグルが追ってるみたいだけど、私は他には目をくれず走った。パーティーの参加者は呆気に取られ、反射的に道を空けた。

 しかもイーグル、意外と足が速く危うく追いつかれそうになる。私は足を『強化』して、なんとか振り切った。


 ◇ ◇ ◇


……どこまで走ったんだろう?


 振り返ると、宮殿が小さく見えた。月明かりが射し込む湖には、小動物が喉を潤しに来ていた。

 やがて、羽を休めた小鳥が空へと羽ばたいていく。私もあんな風に自由に飛べたらな……。


「ヒメナ」

「……っ!?」


 振り向いたら、イーグルが居た。振り切ったのになんで……?


「悪い。意外と速かったもんだから、馬車を使わせてもらった」


 馬車……? そこまでして、追ってくるなんてね (-_-;)


「男らしくないって思うか? だが、そんなのは些細なことだ。ヒメナ……お前を『逃がす』くらいならな」


「…………なんでよ」


 うつむきながら呟く私にイーグルは、「ヒメナ……?」と近寄ろうとする。


「なんで私に構うの!? 放っておいてよ! そもそもイーグルは、学園時代からレオ様に次いでモテたでしょ!?」


「……まぁ平たく言えば、一目惚れだ」


 え…………? 思わぬ返答に、私はきょとんとなった。


「ちょっと、こんな時に何をふざけて……」

「いーや、オレは大真面目だぞ?」


 イーグルは一切迷いなく、即答した。


「……ヒメナは、常にクラスのムードメーカーだったよな? 我はそんなヒメナを見て、一目で『我の女』にしたいと思った」


「だからって……知ってたでしょ? 当時、私とレオ様が付き合ってたの」

「いや……我はロセナラから、ヒメナとレオは『別れた』って聞いた」


 ハァ……? なに勝手に破局扱いしてんの? まさかその隙に、レオ様を狙ってたんじゃ (-_-;)


「イーグル。あなたにどう思われようと、私が『心変わり』することは……」


「助けたいんだ」


 イーグルはただ『真っ直ぐ』私を見つめ、短く告げた。


「なんでそこまで……」

「それは……ムッ」


 イーグルが、急に明後日の方向を向いた。すると、急に深紅のローブを纏った人物が現れた。


「な……何?」


「驚かせて悪い。こいつは宮殿ご自慢の『諜報部』だ。深紅のローブってことは、緊急事態・・・・か」


 緊急……事態?


「お頭、お取り込み中すまない」

「許す。余程のことか?」


 ローブの人は、素早くイーグルに耳打ちした。言伝ことづてを聞き、イーグルの目が見開かれた。なになに……(´・ω・`)?


「……誠か?」

「遊撃部が確認済みです」


 イーグルはチラリと私を見て、すぐに『決断』を下した。


「迎撃準備」


 その一言で、ローブの人は「御意ぎょい」と素早く消えた。迎撃って、聞くからに物騒だけど。


「ヒメナ、お前は逃げろ・・・。出来るだけ『遠く』へな!」

「いきなり何なの……!? 説明くらいしてよ!」


 イーグルはわずかに逡巡しゅんじゅんしたけど、やがて信じられないことを口走った。


「……帝都軍が『総力』を挙げて、攻めてきた。皇太子のレオを筆頭にな。やはり、これがレオの『本性』だったか!」



…………………………………………ウソ

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