第31話 『欲望の化身』/レオ

      ◆ レオ視点 ◆


「皇帝陛下! ロセナラ・へクセ・プロブデス、ただいま戻りましたわ!」


 ロセナラは、ドヤ顔で凱旋がいせんした。


ごく潰しの貴様も、少しは役に立ったか。さて、レオよ」


 皇帝が視線を向けると、レオも「…………」と皇帝を見据えた。


「訊きたいことは山ほどあるが、なぜ皇国をワシの無許可で抜けた。返答次第では、貴様とてタダでは済まぬぞ?」


「父上こそ、なぜ私を呼び戻したのです?」


 間髪かんはつを容れず、問いただすレオ。これに皇帝は、玉座の肘を殴りながら立ち上がった。


「また『逆質問』かっ! 貴様も偉くなったものだな!? 『反抗期』にしても、いささか長過ぎるわっっ」


「へ……陛下! 落ち着いてくださいませ!」


 ロセナラと側近がなだめ、皇帝は大きく深呼吸して着席した。


「……まぁよい。これからワシの言い付けを守れば、貴様の蛮行は大目に見てやろう」


 レオはどうせロクでもない事だと思ったが、皇帝は予想の『斜め上』以上を突き付けてきた。


「レオよ、かねてから計画していたシャルジャへ『軍事侵攻』せよ。貴様を『御大将』とし、数万規模の軍勢を展開する」


「なっ…………!?」


 これにはレオも、驚きを禁じ得なかった。


「お待ちください、父上っ! シャルジャを攻め入るのは、専門家も事実上『不可能』と申してます!」


 地形的には、圧倒的にシャルジャ有利。周囲を熱波が襲う砂漠に囲まれ、進軍だけでも相当消耗する。

 それだけではなく、街全体を『巨人の進撃』すら防ぐと云われている高い城壁に囲まれ、突破するのは困難を極める。


 加えてシャルジャは最新式の投石器カタパルトを備え、遮蔽しゃへい物などない砂漠で発見されたら、投石が雨霰あめあられの如く降ってくる。

 こちらから打って出るなど、文字通り自○行為の『4の行軍』である。


「案ずるな。技術部が、砂漠専用『戦車』の開発に成功した。結構なカネが掛かったぞ。責任重大だな、御大将?」


 もうレオが『引き受ける』前提で、話を進める皇帝。もし強行するなら、帝都史上『最悪の作戦』となり被害は甚大。最悪、全滅もありる。


「それにシャルジャは『石油』なるモノで、利益を独占しておるそうだ。でなきゃ、あんななーんもない地域が潤うワケがない。これを我が帝都がせしめれば、造船の開発もはかどるであろう」


 そこから先は、容易に想像がついた。レオは目の前の『ヒトの皮を被った怪物』に戦慄した。


「帝都の『海外侵略』も、いよいよ現実味を帯びてくる。その為には、是が非でもシャルジャを墜とす必要がある」


 そんな理由で、一国を滅ぼそうというのか……この男は。民に何かとかこつけ『贅キン』を踏んだくり、自らはなんのリスクも背負わず『安全圏』で傍観する。


 この大陸だけでは飽き足らず、地上『全土』を我が物にしようというのか? まさに『欲望の化身』だ。


「それでも……シャルジャには、ヒメナが居るのです!」

「ヒメナ……? はて、聞いたことがあるようなないような」


 すっとぼける記憶障●ボ○老人。学園時代、何度か会ってるハズだが。


「おぉ思い出したわ。お前の『友人』の一人であったな。まーシャルジャが、速やかに『降伏』すれば無事であろう。その辺は、お前が上手くやれ」


「……………………」


 もう何を言っても無駄だ。レオは静かに『決意』した。敵はシャルジャにあらず。



     『敵は帝都にあり・・・・・・・

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