みんなの行方不明

@ku-ro-usagi

読み切り


「いきなり昔話で恐縮なんだけど、みんな、普段は意識してないけど何となーくな癖ってあるでしょ。

私はね、朝は理由もなく学校に早く登校する癖と、いつも学校の校舎の階段を上がる時に、階段の平らな手摺部分を指先で撫でながら上がる癖があったんだ。

でも、その日はね、いつも通り朝早くに学校へ行ったんだけど、朝に軽く左手の人差し指を突き指してて、右肩にサブバッグ掛けて手で掴んでたから触らなかった。

そしたら、ふと手摺にチラッと光るものが視界に止まって、なんだと思ったら、画鋲が上向きでセロハンテープで固定してあった。

二階まで全部で4ヵ所。

危ないし剥がしながら教室向かったら、

「おはよう」

って、クラスメートには私同様に朝早く登校する友人が一人いてさ。

さらっと挨拶してきたけど、視線はあからさまに私の右手を見てきた。

そのあとは机の内側の上の部分に画鋲が貼り付けられていたな。

教科書やノート引っ張り出すときに何度か引っ掛かったよ。

後は椅子の座る部分の裏に。

ほら、座ってから位置を直すでしょ。

その時に手を添えるじゃない。

そこに合わせてね。

うん。

必ず朝だった。

でも痛みに耐えて絶対騒ぐことはしなかった。

なんでだろうね。

逆にその子に、周りに騒がれた挙げ句、自作自演とか思われたら嫌だし、とにかく目立ちたくなかったからかな。

下駄箱の中の上履きのね、アキレス腱辺りに貼ってあったこともあった。

指で引き抜くからちょうど当たるじゃない。

上履きに画鋲なんて古典的過ぎて新鮮だったよね。

指先の傷は趣味の裁縫のせいってことにした。

嘘から出たまことで今は本当に裁縫や編み物が趣味の1つだし」

友人は小さく笑って、静かにアイスコーヒーを啜る。

その細い綺麗な指先でストローを支えながら。

「それで私が騒ぎ立てないことや、少なくとも表面的にめげてないのが面白くないのか、卒業までは何かと物がなくなった。

小物から始まって、ノートを盗まれた時はちょっと困ったな。

卒業式は、やっと解放されるって意味で涙が出たよ。

それで、ほんのつい1週間前なんだけどね。

『この近くに引っ越してきたんだー』

って。

その画鋲の子がね、自分の子供連れて幼稚園に入園してきたんだよ。

言いたくないけど子供もそっくりな顔しててさ。

向こうは私に気付いて、

『え~嘘~久しぶりぃ!知ってる人いて嬉しい~!色々教えねぇ~?また仲良くしようねぇ~?』

って。

うん、頭おかしいでしょ?

でもその子にとっては普通なんだよ。

しかもそれだけじゃ済まなくて、うちの子の髪留めに目敏く気付いて。

『これハンドメイドでしょ~?』

『え~すごく可愛い~♪』

ってもうね。

そのにんまり細めた目がね、蛇だったんだよ。

その日に盗られない様にするだけでもう精一杯だった。


そう、昔なら、私だけなら我慢したけど。

今は、子供がいるからね、私が守らないといけないから」


久しぶりに会った友人が、

「子供の幼稚園変えるからちょっと忙しくて」

と溢し。

てっきり、親の自分達と幼稚園の教育理念の違い的な話かと思ったら、全然違ってたし、思ったより重くて怖い話だった。

この友人は初めて会った時から、裁縫が得意で器用さとセンスがあるんだなと呑気に思ってたけど、切っ掛けがヘビーで、才能ある人はいいなぁなんて思っていたことを、私は少し恥じた。

指の傷を誤魔化すための苦肉の言い訳からの始まり、だったとは。


友人の娘ちゃんは、今日は友人の両親に預かって貰っているから大丈夫だと言う。

幼稚園は今思えば幸いなことに、家から遠く幼稚園バスに乗って通う距離にあり、幼稚園の近所に引っ越してきたらしい蛇女と生活圏内は掠りはするだろけれど、被ってはいない。

友人にも娘ちゃんにも無事にいい幼稚園が見つかって欲しいし、何よりその見つかった先に、第二第三の蛇女が居ないことを祈ることくらいしか出来ない。


しばらくして、友人から、娘を新しい幼稚園に入れたよと連絡が来た。

そして案の定、蛇女は他のママたちを通じて友人の連絡先を聞き出そうと必死だったらしい。

友人は予めママ友には警告がてら蛇女の事は伝えていたし、

「元々幼稚園終わればママ友は全員連絡先消すしブロックするつもりだったから問題ない」

ってこれまたなかなかにシビアな事を言ってたけど、別に珍しい事でもないらしい。

それもまた怖いんですけど。

「そういうものなの?」

「そういうものだよ」

それでも少し寂しそうに友人は笑う。

そうか。

いつ蛇女と繋がるか分からないからそうせざるを得ないのだ。


でもね、何があったのか、今、その友人と取れなくなってるんだよ。

蛇女関係なことは確かだろうけど。

私たちには共通の友人も居なくてさ、うん、少し参ってる」



中学時代の、本当に昔の元カレと、部活のね、顧問のお通夜で再会したんだ。

同じ部活でほんの半年付き合った程度の元カレ。

元カレはまだ独身言ってた、後で本当はバツ2だと知ったけど。

その日も挨拶程度で別れたんだけどね。

私は結婚して、まだ一歳にも満たない子供までいるのに、なぜか分からないけど、今でも付き合いのある部活仲間とかに探りを入れまくって私の事を調べてたらしいんだ。

3週間後のクリスマスを前に、どちらも遠い実家から、娘宛のプレゼントが届いて、リビングのツリーの下にね、キレイな包装のまま飾っておいたんだ。

そしたら翌日辺りに、プレゼントの箱が増えてて、私は、

「夫かな」

とあまり気にしてもいなかった。

もう娘にデレデレで、日常的にお土産やら買ってきてたから。

でも、何日か後に、娘がツリーの下でプレゼントの箱を持って弄ってたの。

「あらら、まだダメよ、クリスマスまでお預け」

って手を離させようとしたら、箱に穴が開いてて、娘がそこに指を入れてたの。

「あーあ、穴開けちゃって」

って取り上げたんだ。

でも、包装の中の箱は厚手の紙っぽいし、娘が空けるにしては、妙に綺麗な円形。

「……?」

箱は縦は50センチ程度だったかな、幅は40奥行きも同じくらい。

振れば多分ぬいぐるみだろうなって分かる軽さと、中で柔らかいものが弾む弾力を感じる。

その穴は、ぬいぐるみならちょうど目のある部分。

私は、すっと血の気が引いて、無意識に包装を解いてた。

夫に確認してないけど、これ、夫が置いたものではないかもしれない。

包装の下は白い紙の箱、当然穴が空いてる。

中はやっぱりぬいぐるみで、取り出すと、娘が可愛いクマちゃんに手を伸ばしてきたけれど。

「……ちょっと、待ってね」

ぬいぐるみの瞳をじっと覗くと、無垢な黒い瞳の中に、反射で私が微かに映るのではなく、カメラのレンズがジーッとこちらを映していた。

夫に連絡して、警察も呼んだ。

あの男は、この部屋にも侵入してる。

しかも、多分、一度や二度ではなく。

ぬいぐるみにはカメラだけでなく、盗聴器も仕込まれてた。

幸いなことに部屋には設置されていなくて、このぬいぐるみにだけだった。

仕込んだ元カレは行方不明。

鍵は替えて増やして、窓の鍵も増やしてから二重窓にもしたけど、怖くて気味悪くて、その年はお通夜みたいなクリスマスになっちゃった。

それからも、元カレが捕まった、見付かったって連絡はないの」



「通ってる大学の建ってる場所がね、実家からギリギリ通える距離ではあるんだけど、それだとバイトも何も出来ないしで、アパートで一人暮らししてた。

女子の一人暮らしで一階は良くないと聞いてはいたけど、予算内で収まる所がそこしかなかったんだ。

一階なこと以外は特に不満もないし、仲のいい友達呼んでご飯食べたりして楽しく暮らしていたんだけど、ある日下着泥棒が出たんだよ。

アパートのベランダの向かいが道路なんだけど、うちのアパート、

ベランダの柵から1メートルくらいの無駄な砂利を敷き詰めた空間があって、その先にアパートの敷地の柵があるんだよ。

普通に柵から手を伸ばしてもベランダには届かないし、中に入れば砂利の音が聞こえる。

まぁ長いトング?でも使えば多分可能で、アパートでの被害は私の部屋だけ。

でも、右隣はお爺ちゃん、左は出張ばかりてほとんどアパートに帰ってこないサラリーマン。

ベランダの両隣は仕切りあるし、まぁやっぱり長いトングでも使えば何とか届くだろうけど。

半年で上下3セット。

多いのか少ないのか。

え?外に干すなって?

しばらく気付かなかったんだよ。

私、下着が好きで結構持ってたから、どこかに仕舞ってあるとしか思ってなくてさ、2セット目が消えてから、

「あれ?」

って気づいて。

初めて変だなと思って1セット目を探したらどこにもなかった。

それで3セット目は室内干しにしてたんだ。

だから、その3セット目がなくなって、

『部屋の中にまで入られている』

と青くなっていたら、程なくアパート近くでうろうろしている犯人らしき人が捕まった。

けど、蓋を空けてみれば、その人犯人じゃなくて探偵さんだった。

近所の一軒家に住む旦那さんに頼まれて、奥さんの不貞の証拠見付けてる興信所の人でね。

奥さんは旦那さんが留守の昼間に、家に間男を連れ込んでいるらしい、大胆ね。

それで探偵さんは、しばらくこの辺りをうろうろしていたけど、自分を除けば変な輩は見ていないとのこと。

あれ?

では下着は誰が?どこへ?


そう思ってたら犯人は同じ大学の私の部屋にも何度も遊びに来てる友人だった。


その子、eにしよう。

eはまず別件で捕まったんだ。

金曜日にeは私も知ってる友人の部屋で飲んで、友人は、土日はデートで彼氏の家に泊まって、日曜日の夜に帰ってきたら、冷蔵庫のチョコレートが箱ごとなくなっていた。

貴金属でも現金でもなくチョコレートのみだったけど、気持ち悪くて警察呼んだら防犯カメラに土曜日の午後、eがマンションの防犯カメラに映ってた。

宅飲みで冷蔵庫を覗いた時に、どうしても食べたかった限定のチョコレートがあったからだって。

「私には出してくれなかったのも腹立った」

って。

何度か前に部屋に来た時に隙を見て合鍵は作っておいたから、すぐ入れたんだって。

そのチョコレートは、友人のバイト先の後輩が辞める時に、

「先輩にはお世話になったから」

ってわざわざ並んで買ってきてくれた人気店のものだったから、大事に取っておいたんだって。

eには別にちゃんとお菓子を用意してたんだけど、不満だったみたい。


それで、eがチョコレートの犯人だと知った友人は、以前私が着けていたインポート製の下着を見て、

「いいな素敵だな」

と思ってくれていたんだそう。

そしたら、最近数人で行った日帰り温泉で同じものをeが身に付けていた。

その時は、

「あの下着流行ってるのかな」

と偶然で流そうとしたけれど、今回の妙に手慣れた犯行と、私がつい最近、

「下着泥棒の被害に遭っている」

と溢していた言葉を思い出し、こちらも発覚。

しかしe曰く、

「サイズ同じだから借りてただけ、盗んだつもりはない」

だって。


その後は、

「話し合い」

で終わったよ。

「示談」

と言う名のね、話し合い。

私も友人もそれぞれ両親と話し合った結果。

恩情とかじゃなくて逆恨みが怖くてさ、私は実家に連れ戻されるかなと覚悟してたけど、下着泥棒の相手が女の子って、しかも友人だと思ってた子ってことに親も驚いてて、そんなの防ぎようがないって何とか強制送還は免れた。


それからしばらしくて、チョコレートの友人から連絡きてさ。

待ち合わせして会ったのは木枯らし1号が吹いた日。

喫茶店の壁側の席に友人は座っていた。

「この間、休日に駅まで自転車乗ってたの。

信号でブレーキ踏んだらブチッてブレーキ切れてさ、びっくりした。

あぁスピード出てなかったから大丈夫。

仕方ないから自転車押して駅まで行ってね、帰りに自転車屋へ寄ったら、

『これ途中まで意図的に鋭利な物で切られてますね、分かります?』

って見せられた。

切られたのもそうだけど、知っての通り私、防犯面が心配だからって、あの後に大学の女子寮に放りこまれたでしょ。

彼氏の部屋に泊まってたのもバレて怒られちゃったし。

でも、敷地内の自転車置場までなら門扉からすぐで、わりと誰でも入れる場所だから、寮生のふりすれば女子なら尚更さらっと入れる。

だからね、考えすぎかもしれないけど、君にも少し気を付けてと伝えたかった」

親に伝えたら今度こそ実家に帰らされちゃうからと友人は、

「君にだけ話すことにした」

と珈琲の湯気に目を細める。

私は礼と、気を付けることを伝え、しばらくは警戒してたけど、特に何もなかった。

でもしばらくしてさ、あの時に担当してくれた警察の人から連絡が来たんだよ。

例の窃盗友人の行方が分からなくなっていると。

チョコレートの友人と違い、私はあれきり会うことは勿論、特に何もなくて過ごしてたから。

あぁうん、もうそれっきり、それでもね、まだ少し、怖いんだ」



気の置けない仲間同士での飲みの日。

私はさ、至極軽い気持ちで、

「ね、ね、身近な所で行方不明ってある?」

って、友人たちに聞いてみたんだよ。

私は、直属の上司がね、

「いやぁうちの嫁が、

『あと1ヶ月で私の誕生日よ』

って言ってきたから、

『もう誕生日祝うような年じゃないだろ』

って返したら、嫁が誕生日から行方不明になっちゃったよ、もう今日でかれこれ10日かな、あっはっは」

って笑ってて。

私も、

「あっはっは」

って笑い返したんだよ。

でもしばらくして、

「いや、笑い事じゃなくない?」

ってふと冷静になってさ。

それで、友人たちにもね、ホント、何も考えずに聞いてみたんだけど。

なんかみんな、

「あっはっは」

じゃ済まない話してくれた。

どうしようこの空気。

みんなそれぞれ物思いに耽った顔してて、賑やかな居酒屋でここのテーブルだけお通夜状態。

それで、ずっと黙ってみんなの話を聞いてくれてた1人に視線を合わせたらさ、バチッと目が合って、

「何とかしてくれ」

と目配せしたら、

「おぅ、任せろ!」

と言わんばかりにおもむろに頷いてくれて、友人が口を開いた。



中学生の兄が、よく家に友達を連れてきては部屋でゲームやってたんだ。

色んな子が、同級生だけじゃなくて下級生も先輩も遊びに来てた。

一人、別になんてことない普通の男の子だったけど、ネクタイの色からして先輩だったと思う。

リビングから兄の部屋へ行く時に、

「お邪魔します」

ってニコッて挨拶してくれる人だった。

しばらしくて、最近あの先輩、遊びに来なくなったな、受験で忙しいのかなと思ってたら、兄が母に、

「○○先輩、家族で夜逃げしたらしい」

って話してるのを聞いた。

それから間もなくして、地元の峠道で乗用車が崖下に落ちたってニュースが流れたの。

車に乗っていた家族3人の死亡が確認されたんだけど、それがあの○○先輩の家族で、○○先輩も乗ってたはずなのに、遺体も見付からず、行方不明のまま。

しばらくは騒がれた。

ただでさえセンセーショナルな事件だったけど、そもそも先輩のお家は別に夜逃げするような理由はなかったんだって。

でも先輩は見付からず、段々、そのうち誰も話題にしなくなっていった。

それでご存知の通り、私の特技って一度見た人の顔を絶対忘れないでしょ?

それから何年も経って私は上京して。

大学卒業してからこっちで就職して、配属された部署の仕事で、外装リフォームの店舗へ行ったの。

大手じゃなくて、町の小さな、業者に委託されるタイプのね。

そしたら、

「お待たせしました」

って出てきたのが、あの先輩だったんだよ。

でも名刺の名前は、全然違う名前だった。

先輩は当然、あの頃より顔も身体も成長はしてたけど。

あの夜逃げして、事故で家族三人が失くなって、一人だけ行方不明だった、あの家族のあの先輩。

間違えるはずもない。

私が驚いてしまったせいか、

「久しぶり、△△ちゃん」

って、まさかの先輩もね、私の事を覚えてた。

ほんの何回か、挨拶をしただけの人間なのに。

先輩も私と同じ特技を持ってるのかも。

でも、仕事だからさ、挨拶程度ならともかく、プライベートな話はできないでしょ。

隣に上司もいたし。

だけど、次に店に行ったら先輩はもう居なかった。

担当の人も急ですみませんって代わってしまった。

「あの、○○さんは?」

と聞いたら、

「急に実家に帰らなければならなくなったと……」

と、いきなり辞めた事は伝えられたけど、代わったその人も何か知ってそうな、何か含みのある顔してたけど、何も教えてはもらえなかった。

夜逃げとか事故は九州での出来事で、会ったのはこっち、関東。

私は、次の休みに実家に帰ったけど、何となく話せなくて、兄もいたけど、そのまま。

それっきり。

先輩に何が起きたのかなんて勿論わからない。

ただ、生きてた。

でも、昔の知り合いの、更に知り合い程度の私との再会程度で、姿を消すんだよ。

タイミング的に他の理由があったのかもしれないけど、何となく、先輩と共に地元にいた私だから、駄目な気がした。

何となくだけど。

それから何年経ったかな。

東北地方へ旅行へ行った時、宿でテレビ点けたらね、ニュースやってたの。

観光客だけでなく、地元の人にも人気の、見晴らしの良い観光道路で、深夜に車が崖下に落ちて炎上。

運転していた男性が車内から投げ出され死亡。

身元の分かるような所持品は残ってなくて、車はレンタカーだって。

警察はそれを足掛かりに男性の身元を追っていく。

的なね、そんな感じの内容だった。

気になって、旅行から帰ってもしばらくその事故のこと追ってたら、一ヶ月位してから、

『16年前、車で崖下に落ちた家族の、行方不明になっていた当時中学生だった男性だと警察の調べで明らかになった』

って。

行方不明者リストのDNA鑑定で一致したんだって。

結局、先輩と先輩の家族に何があったのか本当に分からなくなっちゃったけど、16年前に死んだ家族と同じ死に方したのは、偶然なのか、意図的なものなのか。

免許証もレンタカー借りられる程度には精度の高い偽装していたものを使っていたんだろうね。

それとさ、

「先輩、あんなところまで北上してたのか」

って、それにもびっくりした。

もし生きてたら、そのうち北海道まで行ってたのかな。

北海道まで行って、それから、それからはどうするつもりだったんだろう。

先輩は一人になっても、ただ、小さな町の小さなリフォーム会社の営業マンとして生きてた。

地味に、地味に、目立たず。

何かから隠れていた?

何から?

わからない。

でも、結局、何かからは逃げ切れずに、先輩は死んでしまった。



週末の賑やかな飲み屋で、私たちのテーブルだけ、

お通夜×4

くらいに重くなってしまった。

類友の友人に、空気を変えろと頼った私がそもそも馬鹿だったのだ。

ますます重くなった。

しかし、あの自信満々の任せろと言わんばかりの頷きはなんだったのか。

本人もどこか意識を遠くに飛ばした顔してるし。

私は、これからは飲み会での話題は慎重に選ぼうと反省し、

「すみません、ハイボールをおかわりで、濃い目でお願いします」

とりあえず、酒に逃げることにした。

















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