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鍾乳洞に入って数分、六つ目の角を曲がった先に大きな空間が広がっていた。
サッカーコート一面分にも匹敵する広さに、凸凹とした岩と悠久の時を感じさせる大きな鍾乳石の柱と垂れ下がる氷柱、見る人を圧倒する幻想的な風景。
二人は思わず感嘆の声をあげた。
見た瞬間に誰でも分かるが、そこには何百ともしれない猫が思い思いに寝そべり、駆け回り、お互いの体を舐めあったりしている。
ニャガニャガ、ミャンミャン、ミギャミギャと洞窟内で反響する鳴き声の大きさに、二人が眉をしかめた直後。
「いっぎゃああああああああああ」
人生で今まで聞いたことのないような絶叫が相田の口から発せられた。
驚いて坂上が振り向いたときには、相田は口から泡を吹き地面に横たわっていた。
「おいっ相田っどうしたっ」
坂本はしゃがみ込むと直ぐに相田の口元に手を当て、次に胸の鼓動を確かめる。
(良かった、息はある…しかし)
何が何だかわからない、周りには人の気配もない、一体何が起こっているのかと相田の横にしゃがんだまま警戒をしてると、一匹の猫が坂本の腕にじゃれついてきた。
ニャガアァ。
「ごめんな、今ちょっとそれどころじゃっ…」
いきなり猫が坂本の腕に”嚙みついた”、刹那、尋常ではない激痛が身体を貫く。
「うがっあああああああいいいい」
その痛みは意識を刈り取ってしまうほどの衝撃を与え、坂上は泡を吹いて倒れこんでしまった。
目を開けた。頭が徐々に覚醒してくる。ここはどこだ。身体を起こそうとするが動かせない。心なしか息もし辛い気がする。
「目が覚めたみたいですね」
この声は…聞いたことがある。
「あっそうか、ちょっと待ってください」
声の主はそういうと俺の頭を掴んで左の方へ向ける。
(あれ?)
坂上は声の主を視界に捉え、漸く思い出した。公民所の管理人の柿原であった。
何とか自由にできる眼球をまわして景色を探ると、相も変わらず鍾乳洞の中にいるようだったが、何故か自分は地面に横たわり体の自由も効かない。
「動かせないでしょ、カラダ」
柿原は坂上の視界に入りやすよう、少し離れた場所で盛り上がっている鍾乳石に腰かけている。
「…な…ぜ」
舌がうまく動かせない。
「この島の猫はね、神経毒を持っているからね。咬まれると運動機能が酷く低下しちゃうから気をつけないとね」
柿原はサラリととんでもない事を告げた。
(猫が神経毒?噛みつく?何言ってんだこいつ?)
今は言語より思考の方が早いと判断した坂上は一旦話すのを止めた。
「色々疑問に思ってるだろうから、なるべく簡潔に説明しようか」
「まず始めに言っておくと、今ここはあんたのいる次元とは違う世界と思って欲しい」
(はっ何を?ここで急にアニメの話しか?)
「だよな、まぁ黙って聞いてくれ、って話せないか」
柿原は同情を込めた視線を坂上に送ると話の続きを始めた。
「世界ってのは沢山の次元があってね。今あんたがいるのは三つ隣の次元なんだ。次元ってのは不思議なもんで、一回繋がりが出来ると繋がりが切れても、ふとした拍子でまた繋がっちまうみたいなんだ」
口調から少なくとも、ふざけているわけではなさそうだと、坂上は思った。
(だとすると何かしらの心の病か?)
「それで今回の繋がりでやって来たのが、あんた三人ってわけだ」
坂上は暫く何も反応しない事に決めた。
「OKとにかく話しを聞こうってわけだ。次元っていうのは繋がると世界が解け混ざるから、異常事態が起こっていてもそれが当たり前になってしまう」
ここで柿原は声のトーンを落とした。
「例えば、あんた達の世界に神降島なんてあったかい?」
(何を言い出すかと思えば、神降島は東京の新島の先の……あれ?)
「なっ、ないんだよ。この島は俺達の世界に存在するけど、あんた達の世界には存在しない島なんだ」
(いや、でも…確かに神降島なんて今まで聞いたこともない、いや、でも実際失踪事件は起きて俺達はその捜査で…)
坂上は自分の身体が冷え固まっていくのを感じた。その感覚が物理的に身体に反映されてるのかは今は確かめられないのだが。
「言ったろ、繋がってる時だけは世界が違和感なく混じってしまうんだよ。理解しにくいだろうけど、繋がっている時の次元では失踪事件が起きていて、繋がりが切れる時はそんな事実はどっかに行ってしまうんだよ」
鵜呑みに出来る話しではないが、妙に納得できるのはこの異様な自体と空間のせいだろうか?
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