3
ハッキリしない思考の中、突然大切な事を思い出した。
(相田っそうだ相田はどうしたっ?)
感情を押し殺していた坂上の瞳に焦燥の色が灯った。柿原はそれを察したように話題を変えた。
「ところで、あんた達の世界と俺たちの世界とでは、少しばかり倫理観ってのが違っていてね」
柿原は立ち上がり自身が座っていた鍾乳石の後ろから、何かを取り出した。
「ほら、これ分かるかな」
「ううううあああいいあああ」
柿原が手にした”それ”みた坂上は思い通りにならない口を使い、全力の雄叫びをあげた。
坂上の目に映ったそれは人間の首であった。眼鏡こそかけていないが、それは間違いなく相田の首だったのだ。
「言っとくけど、俺が犯人じゃないからね。さっきこの島、いやこの次元か。この次元の猫には毒があるんだ…なんの為だと思う?」
言葉に含みを持たせると柿原は手にした相田の首を放り投げた。自分の少し後ろ、坂上がかろうじて視認できる範囲だった。
刹那、相田の首に無数の猫が群がった。
「狩りの為だよ」
ザリザリという音とペチャペチャという音が広間の中を木霊し続ける。本能に訴える到底我慢できな様な不快な音。
目を見開き、目の前の光景に何とか理屈をつけて精神を少しでも楽にしようと、坂上がもがいていると、猫の群れが一斉に相田の首から離れる。
残ったのは奇麗に皮も肉も剥がされた真っ白な頭蓋骨だった。髪すら残っていない、猫が群がったのは恐らく一分ほどの僅かな時間であった。
(相田?…なん…だ、これは?)
「こいつらは肉食中の肉食でね。こうやって獲物の自由を奪って後は奇麗に喰っちまうんだ」
(嘘だろ、そんな猫なんているわけない…)
「言ったろ、ここは違う次元なんだって」
思考が混乱しすぎて脳が破裂しそうだった。
「信じられるようにしてやろうか?」
柿原が近づいてくる、嫌な予感しかしない。
「ほら、こうやって」
柿原は麻痺して動かせない坂上の左腕を掴むと、肘を曲げて丁度掌が目の前に来る位置に置いた。
次に一匹の猫をその腕に近づける。見た目は普通の茶虎の和猫だが、一般的な猫よりは一回り大きいかもしれない。
猫は鼻先を坂上の手首辺りに近づけると”ミャギィ”と鳴いた。
普通の猫とは違う鳴き声に坂上が気持ちの中で身を縮こませると、猫の首から何かが飛び出してきた。
(っ?)
それは小さな腕のようなものだった、記憶を辿り一番しっくりくるのはリスの手かもしれない、それが猫の首と前足の間から生えてきて、坂上の左手首を掴んでいる。
「ビックリした?俺らの次元の猫はこうやって獲物の身体を
説明の間に猫がとった行動は坂上の腕を舐めるだった。
「うううううううああああううううううああ」
猫の下は強力なヤスリのようになっていて、一舐め毎に坂上の皮膚を削っていく。数回舐められただけで坂上の前腕の手首付近は削ぎ落された皮膚の下から薄ピンクの脂肪がみえていた。
(うわ、うわ、うわ、うわ、なんだなんだなんだコレは)
坂上がどんなに気力を振り絞ろうと身体は動かない。その間にも手首は筋肉までもが、こそぎ取られ骨まで見え始めている。
こうなると痛覚も麻痺してるのが有難いとさえ思ってしまう。
(こんなのは猫なんかじゃない)
その心の声が聞こえたのか柿原は口を開いた。
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