大勢の住人が表に出ていた
※第三章に寄せて和歌を一首詠んでおきますね。
思い出せ夢の絆を名月に掛けてぞ頼まむおぼろなればや
先程来(さきほどらい)霧を払うように急に吹き出した夜風のお陰でそのビアクや、幼女の手を引きながら「本当にだいじょうぶ?ビアク」と心配そうに尋ねる栄子なる女性の顔をこの時ハッキリと確認できた。彼女はビアクを気遣う一方で泣きべそをかいたままの幼女をあやしている。私は『栄子?…A子』と脈路のない発想をしながら『それにしても美しい人だ』と心中でつぶやく。実際それほどに容姿が(オーラが?)風光るような美しい女性だったのだ。『この美しさは…ああ、そうだ、夢の中で会ったあの渋谷少女A子に匹敵するな。しかし年が…』などと年甲斐もなく且つ場違いな発想をしてしまう。幼児をあやすのがとても旨いようだ。明美ちゃんも女性の服を掴んで離さない。きっと醸す雰囲気でわかるのだろう。その栄子さんと明美ちゃん、そして山倉とビアクに支えられた私は、また男2人も、こちらは連行され気味に下の車道へと降りて行った。柵を越えるのではなく堤から車道に通じる小道を下りて行ったのだ。その際今さらのように気づいたのだが道を隔てた反対側にはいつの間にか大勢の住民たちが表に出ていて、事の成り行きを見守っていたのだった。道のこちら側には赤色灯を点灯させたパトカーが3台と男たちの車に山倉のタクシー、さらには救急車が縦列駐車しており、その前後で警官が誘導灯で車の片側通行を行っていた。まったくとんだ騒動になってしまったものだ。私はこの界隈では(と云うか何処でもそうだが)誰一人口を利く者もいない、プータロー然とした男だったので住民らに会釈ひとつしなかったのだが、今後は改めねばなるまい。こんな騒ぎを誘引してしまったのだから…。
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