経緯を聞く山倉
ビアクと呼ばれた女性は腹を抑えながらも立ち上がっていたが我々3人と幼女の醸す緊迫した雰囲気に山倉は一瞬で感応したようだ。唾をひとつ呑み込んでから「いったい何があったの?田中さん」と尋ねたあと「あ、この子は…」とばかり宵の内にすれ違った異様な雰囲気の親子連れを思い出した様子。山倉の鋭い視線に怯えて幼女が俺の胸に顔をうずめる。その子の頭を撫でながら「そうだよ、山倉さん。夕方にすれ違ったあの親子連れの子だよ。どうもこの子をあの男が川に投げ入れようとしていたらしい」「なに?!川へ投げ入れる?!」絶句する山倉に2人の女性のうちの1人が「はい。そうなんです。私たち河畔の散歩をしていたんですけど霧の中からこの子の〝いやあー!〟と泣き叫ぶ声が。近くに寄ってよく見るとあの男がこの子の足に何か重しを結んでいるような…まだあそこにある筈です」と云って川沿いのプロムナードを指さす。「よし」とばかり山倉がプロムナードへと降りる。すぐに「ああ、あった。あった。かーっ、重い。これは5キロのダンベルだ。しかも鎖と手錠まで付いてやがる。こんなものを括りつけて…」と絶句したあとで我々のもとへと戻って来た。「いやあ、まったくもう、こんなことがあるなんて…しかし田中さん、あの時の嫌な感じが当たったな」そう云いつつ改めて怯えたままの幼女の姿を見、青たんで口の左上が腫れあがった俺の顔を見た。「殴られたのか」「ああ」そううなずいてからここに来るまでの簡単な経緯を語る俺や、またなぜこんな夜遅くに自分たち2人が河畔を散歩していたのか等を語る女性の話を交互に聞きながら、山倉は何事かを考えている様子。
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