遅くなった…小父さんが悪かった

それでも何とか立ち上がるとうずくまる女性のそばに行って「だいじょうぶですか?」と声をかける。殊勝にうなずくがまだ声は出せないようだ。見れば20代半ばくらいの女性でどこか東南アジア風の長いスカートを穿いた、半袖のブラウス姿である。するうちに下から女の子を引き連れていま1人の女性が上がって来た。「ビアク!だいじょうぶ?!」叫びざまうずくまる女性の肩を抱きいかにも心配気だ。その女性のそばで佇んでいる何ともやるせな気な、泣きべそをかいている幼女の姿に私は感極まってしまう。川に投げ込まれようとしただと?こんな幼気ない(いたいけない) 子を…思わず抱き上げて「かわいそうに!も、もう大丈夫だからね。遅くなった…小父さんが悪かった」と告げては涙ぐみもしてしまう。しかしその「遅くなった」という言葉を聞き咎めて連れを介抱していた女性が「あの、遅くなったって…あ、あなたは、その…この子のお知り合いですか?」と聞いてきた。「はい…」私が説明しようとすると下の車道に停車した車(さきほどのゆっくりと近づいて来た車だ)のドアが開いて男が声をかけてくる。「おい、どうした?終わったのか?」濃霧のために我々の姿をよく確かめも出来ずに聞いてきたようだ。剣呑な内容のその問いに私と一瞬顔を見合わせてから「誰ですか?あなたは。終わったのかって何のこと?」と女性が訊くのに「なに?女?…ちっ、いったいどうなっているんだ?」とばかりに鉄柵を乗り越えてこちらに上って来ようとしたがしかしこの時さらにもう一台の車がうしろに来て停車しバザーランプをたいた。

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