DV親子?

思わず私も口をつぐんだのだがその分けは、2人連れの雰囲気が何か異様なのと、何よりも私と山倉に訴えかけるような女の子の目が印象的だったからだ。悲しみを目にいっぱい浮かべたような、ちょっと放って置けないような危機感と切迫感をもよおされる。思わず山倉と目を合わせたがしかしどうにもなるものではない。おっつけ親子連れなのだろうが仮にそこにDVがあろうとも赤の他人の我々が詰問することなど出来ようか。黙って見送るしかなかった。それを首を上に振って示しながら山倉が云う。「今日日ああいうのが増えたな。DVの雰囲気がプンプンするよ。あれが客で車内にいるんだったら俺もそれとなく事情を聞くんだがな。まあ、仕方ないさ」私も同意するしかない。しかしどうにも女の子の目が気になって仕方がなかった。いつか、どこかで見たような気さえするのだ。しかし山倉ならともかくプータロー然とした私が何かを装って尋ねようものなら大変だろう。「何だ、お前は?!」そう威嚇されるに違いない。そうと諦めて山倉にフェアウエルの挨拶をしようとしたら今度はその山倉の目が気になった。最前の言葉とは裏腹な、俺を詰問するような色をそこに宿している。『おい、いいのかい?田中さん、女の子放って置いて』とでも云うような…?そしてこちらの目にも、いつか、どこかでお目に掛かったような気がするのだ。些かでもそれを凝視したあと私は首を振るような仕草をしてから「うん、そうだね。まあ、とにかく、今日はありがとうございました。いずれ職でも決まったらまた報告させてもらうから。じゃ」と云ってお辞儀する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る