俺の商売、タクシーはどうなのよ
自慢ではないが鉄製の階段は錆びモルタル造りの外壁はあちこちが崩れ落ちていて、部屋に入れば床はミシミシ鳴るし、天井に何本も走ったさお縁は曲がり天井板は剥がれ落ちそうになっているのが何枚もある。天井裏に上がったなら間違いなく崩れ落ちるだろう。本来間違っても誰も招じ入れたくない、文字通り狸が住んでいそうなオンボロアパートなのだ。はたして彼に入る度胸はあるだろうか。
「OK、わかったよ。場所はわかったけどさ、ついでに携帯の番号教えといてくれる?」自分の携帯を取り出しては私が伝える番号を山倉は記載した。その後山倉が断るのにも構わず私は見送りをする為に彼のタクシーの置いてある場所まで同行した。運転席に乗り込んでウインドウを下ろしてから「まあさ、俺もこの商売でいろんな人に会うから、もし役に立つ情報を摑んだら教えてやるよ。それとさ…どうなのよ、この、今の俺の商売なんかは。タクシーはよ。免許あるんでしょ?」と云うのに「ああ、あるけど年だしなあ…目もちょっとあれで、とても二種免許取る自信はないよ」と私は応ずる他はない。前記したフレディストーカー(※映画「エルム街の悪魔」から捩る)による災禍で左目が悪くなっているのだ。それを云いたいが今は呑みこむしかない。しかしその私の無念を感じ取ったように山倉は「そうかあ…いろいろありそうだな。まあさ、今度たっぷりと聞かせてもらうよ。じゃあ…」とフェアウエルを云いかけて口をつぐむ。その彼の視線を追うと小学校低学年生と思しき年頃の女の子を連れた、40年配の男が私の脇を今しも通り抜けるところだった。
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