第3話

「はぁ、はぁ……見つけた!」


必死の思いで駆け抜け、ようやく雑貨屋に辿り着いた私たち。

息を切らしながら、店内へと駆け込む。


「クロエールさーん!」


店内を見渡すと、クロエールの後ろ姿が見えた。


「あら、フェリシアちゃん!」


振り返ったクロエールの手には、見覚えのある七色のペンダント。


「見つかったの!よかった……」

「うん、本当にありがとうペコ!このお礼に、ステキなものをあげるペコ!」


そう言って、クロエールはキラキラ輝く宝石をちらつかせた。


「わぁ……!綺麗……!」


思わず息を呑む。

透明度の高い、澄んだ輝きを放つその宝石は、まるで夜空の星々を思わせる。


「これ、記憶の欠片メモリーフラグメントって言うんだペコ。アナタの探し物のヒントになるかもペコ♪」


「え……!本当に、私にくれるの……?」


信じられない思いで尋ねると、クロエールはこくこくと頷いた。


「もちろんペコ!アナタのおかげでペンダントが見つかったんだから、お礼するのは当然ペコ!」


そう言って、サラリとその宝石を手渡してくる。

その重みは、予想以上に軽い。


「ありがとう、クロエールさん……!大切にするね」


感激の思いを伝えると、クロエールはにっこりと微笑んだ。


「うん、がんばるペコ!応援してるペコよ~♪」


元気いっぱいに手を振って、クロエールは店を後にした。

キラキラ輝く後ろ姿が、まるで妖精のようだ。


「やったね、フェリシア!手がかりが見つかったよ!」


「ええ……!これで、少しは記憶を取り戻せるかも」


希望に胸を膨らませながら、私は記憶の欠片を胸に抱いた。

果たして、この宝石はどんな意味を持つのだろう。

きっと、長い旅の始まりなのだ。


***


記憶の欠片メモリーフラグメント、か……」


古びた宿屋の一室。

ベッドに腰掛けて、私はその宝石をじっくりと見つめていた。


透明な結晶の中で、虹色の光が柔らかく揺れている。

澄んだ輝きに、どこか懐かしさを覚える。


「何か、思い出せそうで……でも、まだぼんやりしてるの」


もどかしさに眉を顰めながら、私はペンダントを握りしめる。


「大丈夫だよ、フェリシア。少しずつでも、必ず取り戻せるはずだよ」


ポックが優しく寄り添い、頭を撫でてくれる。

その言葉に、胸が熱くなるのを感じた。


「ええ……ありがとう。一緒にいてくれて、心強いわ」


ポックの大きな瞳を見つめて微笑む。

傍にいてくれる大切な友の存在に、勇気が湧いてくる。


「それじゃあ、そろそろ眠りにつこっか。明日からまた、頑張ろうね」


「うん、おやすみ、ポック」


小さな手とぎゅっと握り合い、私たちは夢の中へと旅立っていった。

遠い記憶を探す、長く険しい旅の途上。

それでも心強い仲間と共に歩んでいける。

そう信じて、瞼を閉じるのだった。


***


「なぁ、アンタ……昨日の娘、見なかった?」


翌朝。

宿屋を出たところで、がさつな声に呼び止められた。


振り返れば、刺々しい金髪に筋骨隆々とした体格の男が、不敵な笑みを浮かべて立っていた。


「昨日の娘……?」


訝しむ私に、男は舌打ちをしながら言葉を継ぐ。


「ったく、とぼけんなっつーの。黒髪の三つ編み、見た目は可愛いけどなんか宇宙人みてーな喋り方する娘だよ」


「ああ、クロエールさんのこと?」


「おう、そうそう。で、アイツを見なかったかって聞いてんの」


威圧的な態度に、私は思わず身を竦めてしまう。


「いえ、昨日お礼をもらってから、特に……」


「チッ、使えねーな」


舌打ちをしながら、男は苛立たしげに髪をかき上げる。

そのとき、ふいに腕に刻まれた見慣れないタトゥーが目に入った。


「あの……どうしてクロエールさんを探してるんですか?」


恐る恐る問いかけると、男はニヤリと不気味な笑みを浮かべた。


「アイツはな、俺たちギルドの稼ぎ頭ドル箱なんだよ。それが勝手に脱走しやがってよ」


「ギルド……?」


聞き慣れない単語に首を傾げる。

もしかして、何か裏社会の組織だろうか。


「あぁン? 『ヴァニタス』を知らねーのか?この辺じゃ名の知れたギルドだぜ」


そう言って、男は腕のタトゥーを見せつける。

よく見れば、そこには見覚えのあるシンボルが……。


「ま、お前には関係ねーか。見つけたら連絡しろよ。じゃあな」


投げやりに手を上げて、男は行ってしまった。

がさつな後ろ姿が通りの向こうに消えるのを見送り、私は重い溜息をついた。


「フェリシア、大丈夫?なんだかこわい人だったね……」


ポックが心配そうに覗き込んでくる。


「ええ……クロエールさん、何かトラブルに巻き込まれてるのかも」


アイドルを脱走したなんて、一体何があったのだろう。

胸騒ぎを覚えながら、私は空を仰いだ。


「とりあえず、手がかりを探しに行こう。きっとクロエールさんのことも、分かるはず」


「うん、そうだね!フェリシア、一緒に頑張ろう!」


ポックの満面の笑顔に、不安も吹き飛ぶ。

うん、大丈夫。

この子と一緒なら、どんなことにも立ち向かえる。


希望を胸に、再び記憶を求める旅が始まった。

静かな田舎町を抜け、広大な森や草原が広がる世界へ。

いつかきっと、失われた真実に辿り着ける。

そう信じながら、一歩一歩前へと進んでいく。

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