53.タブーな話
───サーシャがタケシさんの娘か。衝撃的すぎて頭が追いつかないんだが。まて、タケシさんの娘ならサーシャは何歳になるんだ?あの人が生きてたのは今から500年前だぞ。つまりサーシャは…。
「サーシャが父親の顔を知らぬのは何か原因があるのか? 亡くなったとは言っておったが?」
ダルが気になったのかサーシャに質問している。サーシャが産まれる前に亡くなったという事はタケシさんが処刑された時には既に母親のお腹にサーシャがいたと言う事だろう。うん。やっぱりそうだな。サーシャは500歳は超えてる。女性に歳を聞くのは失礼だったから聞いてなかったが、出来れば知りたくなかったな!
「カイルも調べていたわよね?」
「あぁ、そうだな。気になって調べていた」
「あたしの父さんは処刑されたのよ。エルフの王女の心を傷付けたとかふざけた罪で」
「メリル王女だな。どういう経緯かは知らないが、公開処刑になったのは知ってる」
「母さんのお腹にあたしが宿った事を知った父さんが責任を取るって言ったのをメリルが聞いてブチ切れて捕まったって聞いてるわ」
───タケシ!
タケシさんが5人の女性に好意を寄せられていたのは知っていたが、やっぱり対応を間違えたんだな。
俺もデュランダルから知識として聞いて、ノエルが爆発した瞬間を見て気付いた。エルフを怒らせるとヤバいって。想い人に執着するんだろうな。
自分が1番じゃないと許せない。タケシさんはサーシャの母親を奥さんに選ぼうとしたのか? それがメリルには許せなかった。
それで公開処刑になるのは流石に怖すぎるだろう。エルフはかなりめんどくさい種族という事になる。
俺はノエルの婚約者に相応しい男でありたい。ノエルに刺されて死ぬのは嫌だ。
「酷い話じゃの」
「父さんの処刑に巻き込まれそうになった所をそこの師匠が助けてくれたそうよ。母さんも弟子だったみたい」
「ほれ、母親の命の恩人じゃぞ!敬わぬかサーシャ」
「はいはい、ありがとねージジイ」
マクスウェルがサーシャにキレてる。メリルの嫉妬からタケシさんが死んだ可能性が高い。タケシさんの子を宿したサーシャの母親も命は危ないに決まってる。
これでタケシさんの手紙に物質強化をかけた人物が分かった。マクスウェルだな。サーシャの母親と師弟関係にあったみたいだし、タケシさんと知り合いでもあったようだ。
その当時からマクスウェルの名は世界に広がっていた。サーシャの母親を守る事は容易いか。
「そう言えばカイルが調べていたと言っておったが、昔の話なのか?」
「『動けるデブ』のタケシさんが活躍してた時代だよ」
「と言うと勇者ロイドの時代か…」
ふむ、と顎に手を当てダルが考え込む動作をしている。
「つまりサーシャはクソババアじゃな!」
「はっ倒すわよクソガキ!」
触れてはいけない禁忌にダルが触れた。流石にサーシャでも年齢の話はタブーか。いや、言葉は強かったがそこまで怒ってる様子はない。怒ったように見せて、同じような事を言わせないつもりか。だが、甘いぞサーシャ。お前の事を嫌ってるやつがいるんだ。
隙を見せたら、ほらきたぞ。
「500歳を超えるお婆さんなのに『若き賢者』なんて名乗ってるんですか?」
「あたしから名乗ってる訳じゃないわよ」
「マクスウェル様の事をジジイジジイって言ってましたけど、サーシャさんも十分過ぎるくらいババアですよ」
「ドワーフの中ではまだ若い方よ」
「それはエルフにも言える事ですし、僕から見てババアならババアだと思います」
「クソガキ…」
珍しい光景だ。サーシャがキレてるし、セシルに負けてる。飄々としているから気にしないかと思ったがサーシャも女性だったようだ。
ドワーフ、エルフ、魔族は長命種だ。1000年くらいは平気で生きる。そんなドワーフの中ではサーシャは若い方…若い方か? 人間で考えたら50歳くらいじゃないのか? いや、言うのはやめよう。間違いなくキレるだろう。
サーシャが『酒乱』の異名を呼ばれ始めたのを気にしない訳だ。若き賢者なんて呼ばれるのに抵抗があったんじゃないか?
サーシャがそういう異名で呼ばれるのは実年齢じゃなくて見た目の問題だろうな。ドワーフの特徴である小柄な体調と、幼く見える童顔。それに不釣り合いなくらい胸は大きいがパッと見で500を超えてるとは思えない。
お酒を豪快に飲んでる姿を見ると見た目のような幼さは感じないが。
マクスウェルさんの話をもう少し聞いておくべきだったな。見た目が若く見えるから最近の事かと思っていたが、この様子だと大分昔の話をしていたような気がするぞ。
前世の常識というか、マナー的な感じで女性に年齢を聞くのは躊躇いがあったからな。あの様子だとサーシャが自分から言うこともなかったと思う。
タケシさんがサーシャの父親か。彼女がデュランダルやタケシさんについて知ってる訳だな。父親の事だから色々と調べたんだろう。
500年生きてるなら5代目魔王について何か知っていないか? いや、知っていたら話しているか。勇者ハロルドの時代にサーシャの名前は聞いた事がない。表に出てきてない可能性が高い。彼女の性格を考えたら酒場に入り浸っているか、賢者の塔で魔法の研究をしているかのどっちかだろう。
そう言えばドワーフの魔法使いが勇者パーティーに参加していたな。確かトトレレって名前だった筈だ。もしかしたらサーシャが知っているかもしれないな。
今度聞いてみるのもいいかも知れない。今は止めておこう。年齢の事でキレてるみたいだし、昔の話は火に油だ。
それにそろそろサーシャとセシルのやり取りを止めた方がいい。2人とも理性はあるから大事にならないと思うがヒートアップして魔法を使う事態になったら困る。
それに当初の目的を進めたい。
「サーシャも言いたい事は色々あると思うが堪えてくれ」
「あたし悪くないと思うんだけど…」
「セシルも年長者は敬え。あまりにバカにするような事を言ったらダメだ」
「義兄さんが言うなら我慢します」
「ねぇ、今カイルもあたしの事ババア扱いしなかった?」
「してないぞ。俺たちよりずっと歳上だから敬えと言っただけだ」
「はっ倒すわよ」
サーシャがブツブツ言いながら席に戻ったのが見えた。よし、これで一安心だな。
あ、サーシャがまた魔法でお酒を出している。やけ酒を始めるつもりだろう。だが、先程と同じようにマクスウェルにお酒を仕舞われている。
「クソジジイ、なんで仕舞うのよ!」
「師匠に対してなんて口の利き方じゃ!それにここは禁酒じゃよ」
「何時からそうなったのよ」
「弟子が出て行って直ぐじゃな」
「ならいいじゃない」
「ダーメ!」
サーシャがまたマクスウェルの近くまで行って胸ぐらを掴んでいる。椅子に座っているマクスウェルの体が浮きかけている。いや、ほんとに師匠に対して何してるんだこいつ。
その人大賢者様って皆に敬われるお偉いさんだぞ。小さい頃から知ってる関係ならあんな感じになるのか?500年近い付き合いのようだし。
「すまない、話を進めてもいいか?」
「サーシャから話は聞いておるよ。そこの獣人のお嬢さんの魔道具の件じゃろ?」
マクスウェルがサーシャに胸ぐらを掴まれたまま答えてくれた。いや、そろそろ離せよサーシャ。あ、マクスウェルの体が浮いた。そんなガクンガクンとしたらいけない。マクスウェルは高齢だ、何かあったら危ないだろう。
「先に答えておくが、残念ながら魔道具は作れないんじゃよ」
サーシャに揺さぶられながらマクスウェルが続ける。特徴的な髭がブランブランと揺れている。なんでそのまま続けるんだ。
というよりそろそろやめろ! 流石に体に悪い気がして、サーシャの体を抑える。体に触った時に『カイルのエッチ!』なんて言ってきたから頭を叩いた。それに対してブツブツ言いながらサーシャは元の位置に戻って座っている。
漸くこれで落ち着いて話が出来る。マクスウェルは感心したように俺の事を見ている。
「珍しいのぅ、サーシャが素直に言う事を聞くとは」
「聞かないんですか?」
「今のを見ておれば分かるじゃろ?」
「そういう事ですか。ところで話を戻すのですが魔道具が作れないとは?」
サーシャの所為で話が脱線しかけたが、聞き逃せない事を言っていたな。魔道具を作れないと。
「作りたいんじゃが、素材が足りなくてのぅ」
「素材?」
「そこのお嬢さんの力に耐えるだけの魔石が必要でのぅ。残念ながら手持ちにないのじゃよ」
「トラさんの力に耐え切れる魔石か。どんなものになるんだ?」
「うむ。魔晶石が必要になると思うぞ!」
一気に難易度が上がった気がする。魔晶石なんてそんな簡単に手に入るものじゃないぞ。部屋を見渡せば仲間が困ったような表情をしている。そうだよな。一般には出回ってこないものだ。
どうやって手に入れるか…。
そんな事を考えていると、外が騒がしくなってるの気付いた。何かあったか?
仲間も不思議そうにしている。バンッと部屋の扉が開かれ、受付をしていたドワーフの男性が部屋に入ってきた。
「大変です!エンシェントドラゴンが近くの村を襲っているそうです!首長がマクスウェル様に対応して欲しいと!」
エンシェントドラゴン。ドラゴンの中でも上位に位置する強力な魔物だ。衛兵たちでもドラゴンの対処は難しいだろう。
だがこの国には大賢者がいる。それもあってマクスウェルの元に救援の使者が来たのだろう。
ドラゴンか。確か魔石を食べる事で力をつける種族だ。エンシェントドラゴンとなるとドラゴンの中でも長く生きてきたドラゴンになる。
ドラゴンを倒せば魔晶石が手に入ったよな。
仲間の顔を見る為に見渡せば頷くのが見えた。サーシャだけは面倒くさそうにしていたが。なるほどな。飛んで火に入る夏の虫、いや飛んで
───ドラゴン狩りだ!
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