43.残された言葉
───事の顛末を纏めよう。パーティーの仲間と騎士団の人にシルヴィ・エンパイアは既に亡くなった事を伝えた。俺がどうこうした訳ではなくタケシさんの功績によるものが大きいと話した。
仲間の反応はへぇーってものだったが、騎士の反応は違ったな。『流石は英雄タケシだ!』『我らが救国の英雄!』『死して尚我らを助けてくれる真の英雄だ!』と騒ぐ騒ぐ。
挙げ句の果てにタケシ!タケシ!タケシ!と謎のタケシコールが巻き起こった。仲間たちが冷めた目で見ていたな。
なんでこんなにタケシさんが慕われているんだと困惑した。後でデュランダルに教えて貰った事ではあるが、クレマトラスは一度壊滅の危機に陥った事がある。勇者パーティーが魔王を倒す少し前に起こった魔物による同時侵攻によるものだ。
魔族の手によるものであったが大陸に存在する5つの国を同時に魔物が襲うという事態に、勇者パーティーは対応を迫られた。難しい対応であったが、勇者ロイドはパーティーを別けて救援に向かった。
アルカディア王国に勇者ロイドと幼なじみの神官シェリルが。
テルマに竜騎士のエルザと魔法使いクロナが。
ジャングル大帝にシルフィことシルヴィ・エンパイアが。
タングマリンはその当時から存在していたサーシャの師匠、『大賢者』マクスウェルが。
そしてクレマトラスの救援に向かったのが盗賊のジェシカとタケシさんだった。
2人の活躍もあって、クレマトラスは窮地を救われ2人は救国の英雄となった。
その割にはタケシさんの名を聞かないと思ったが、タケシさんは容姿が優れた方ではなかったので万人受けはしなかったらしい。悲しい話だ。
それでも国の為に戦う騎士達にとってはタケシさんは憧れの英雄らしい。
さて、話を戻そう。騎士の配慮もありクレマトラスの王都の宿で休息を取る事になった。仲間にはそこで改めてシルヴィの事を話した。
とはいえあまりに転生の事は話すべきではないと判断し、デュランダルの前の使い手がタケシさんだったこと。そして今のデュランダルの使い手である俺にタケシさんから託されたものがあり、それを渡されたと伝えた。シルヴィはタケシさんからの頼み事を達成して、その後を追って亡くなったと。
トラさんはいつも通りだ。そうかそうかと頷くだけだ。もう少し考えてもいいんじゃないかトラさん?
ダルとエクレアは俺が無事であった事が何より嬉しいらしい。2人にはしっかりありがとうと感謝を伝えておいた。
最初から盗聴して話を聞いていたノエルは特に何も言わず、サーシャはまだ納得してない感じだった。喋っておいてアレだが俺たちを呼んだ理由としては弱い気がした。
転生者の話はともかくとして、タケシさんの頼み事が理由で呼ばれたのは事実だ。それで納得して貰うしかない。
さて、もう1つ大きな問題がある。宿屋で休息を取っていた俺たちというより、ノエルの元へ訪れた教会の使者からある情報を伝えられた。
それは教会の最高権力者である『法皇』が四天王の一人『赤竜』のドレイクによって殺されたというものだ。クロヴィカスの情報で俺たちをクレマトラスへと誘導し、『デケー山脈』で姿を見せることでテルマの防御を固めさせた。その隙に大陸の真ん中にある教会の自治領を襲い法王を殺した。大司教も何人か怪我を負ったらしい。
教会のトップが殺された事実は大きく、世界各地で騒ぎになっている。教会の使者がノエルの元へ訪れたのはこの情報を届ける事と、一度教会の本拠地である自治領『聖地エデン』に戻ってきて欲しいというものだ。
早い話が、世界各地で広がる混乱を沈める為に法皇の大葬を行いたい。そして次の法皇を決める為に大司教と大司祭に招集がかかっているという事だ。
教会の大事である事からノエルも断る事は出来ず5日後に聖地エデンに向かう事になっている。ただし俺たちの同行は許されていない。立ち入る事を許されたのは教会の神官だけらしい。その為、彼女とは一度ここで別れる事になる。
教会の法皇が決まり騒ぎが落ち着いたら合流するとノエルが言っていた。『離れている間、寂しいから僕の事をいっぱい愛してよ』と迫ってきたな。その話は今は関係ないから置いて置くとして。
パーティーの重要な回復役であるノエルが抜けた穴は大きく、どの道勇者パーティとして大きく動けないのでトラさんの義手を作る事を最優先にした。トラさんの義手が完成しノエルが合流したら改めて活動しようという事だ。
ノエルと同じように5日後にクレマトラスを出てタングマリンに向かう事になっている。その間は各自自由でという事、俺は宿で休息を取っている。
ダルやトラさんに一緒に王都を回らないかと誘われたが、タケシさんから託された物を確認したくて部屋に残った。
「デュランダルはこれの存在を知っていたか?」
「そうですね、まだ封印される前だったので前のマスターがシルヴィに託していたのは知っています。ただ手紙の内容までは存じ上げません」
机の上に置かれた箱を開けてみれば、シルヴィが言っていたように小さな鍵と地図。折り畳まれた手紙が入っている。地図はこの鍵で開ける家を記したものと言っていた。
開いて確認するが、言い方は悪いが絵が下手でイマイチ分からない。タケシさん、もう少し分かりやすいものでお願いします。
「デュランダル、タケシさんの家は覚えているか?」
「まだテルマに残っているようでしたら案内出来ますよ。何度も通った家なので道は覚えています」
地図で場所が分からなかったのでデュランダルが覚えていてくれて助かった。ただ500年前の家だ。既に無くなっている可能性が高いな。
手紙を読んでみるか。折り畳まれた紙を広げると2枚ある事に気付く。500年前に書いたものだと思うが傷んだ様子はない。
「魔法がかけられていますね」
「魔法が?」
「はい。紙を保護する為の物質強化魔法でしょうか? 随分強力なものがかかっていますね」
物質強化の魔法は使える者は限られる筈だ。デュランダルから聞いた話だとタケシさんが使える魔法は『聖』属性の魔法だけ。物質強化の魔法は『土』属性に該当する。魔法としても最上位に位置するため使える者はこの世界で探しても1人か2人だろう。
タケシさんは物質強化の魔法が使える人と知り合いだったのか?
うちのパーティーの魔法使いサーシャでも使えない。師匠であるマクスウェルは使えるんだったか?
今回のように手紙を強化すれば500年経っても形状を変わらず維持出来たりする。剣に強化をかければナマクラであっても1級品の剣と変わらない切れ味を持つ。
その為、物質強化の魔法を使える魔法使いを国は確保しようとする。マクスウェルもまた宮廷魔導師としてタングマリンに仕えていた筈だ。もう高齢なので、一線からは引いているが。
改めて手紙を開いて中身を確認する。地図の時点で何となく察していたが、字が汚い。読めない事はないが非常に読みにくいし癖字もある。
この世界の字で書いたから慣れなかったのか? 俺も慣れるまで苦労した覚えがある。
手紙の内容を要約するとタケシさんが同じ転生者である事。タケシさんが今まで調べた情報を纏めたものをテルマの家の隠し部屋に置いてあるから読んで欲しいというものだ。魔法の事、魔族の事、歴代魔王の事、歴代勇者の事、そしてこの世界の神の事。それら全ての情報を纏めたらしい。
タケシさんが何の目的を持って同じ転生者に託そうとしているのかは分からない。もしまだタケシの家があって、彼が纏めた情報があるなら俺にとって心強い助けになるだろう。
そしてもう1枚。その紙には1枚目と違い書かれていたのは一文だけ。そして書かれた言葉はこの世界の言葉ではなく、前世で馴染みのある日本語。
正直に言おう。タケシさんが俺に何を伝えたいのかが分からない。字が汚いとかそういう事ではなく、書かれた内容を上手く理解出来ない。
理解をしようとはしている。だが混乱の方が大きい。その為上手く受け止められずにいる。何を思ってこれを同じ転生者に向けて書いたのだろうか。
紙には一文だけ書かれていた。
───『ミラベルを信じるな』
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