2.容疑者NO.1 勇者エクレア
「いつにも増して辛そうな表情をしていますが、大丈夫ですかマスター?」
窓を開けて、朝日を浴びる俺に心配そうに話しかける声がある。人ではない。机の上に置かれた剣が喋っていた。
「大丈夫だ。ちょっと不安事があってね。考えてたらこんな感じだ。
まぁ何とかなると思うよ」
「1人で抱え込まないでください。マスターには私がついています。」
「ありがとう、デュランダル」
喋る剣は俺の相棒と言える魔剣デュランダル。フリーの傭兵として活動している時に、とある遺跡に刺さっているの見つけそれから俺の武器として使用している。
抜いた当初は喋る事はなく良く切れる剣として使っていたが、ある日突然喋り出したから驚いた覚えがある。
デュランダル曰く眠っていたが、マスターの魔力を食べて目が覚めたらしい。
こうして1人でいるとデュランダルが話しかけてくる事が多い。他の人がいる時より、2人きりの時にマスターとしっかりお喋りしたいとかそんな事を言っていた。
「マスター、今日は休息を取る日ですがどうしますか?」
「そうだな、もう少しゆっくりしたら町を散歩しようかと思う。ずっと部屋で居てもする事はないし」
「私がいるのでお喋りは出来ますよ!」
「何時も傍にいるから何時でも話せるだろ」
「それはそうですが…」
デュランダルの声がどこか不満そうに聞こえる。
「魔王城の在り処も分からないし、情報を集める為にもしばらくはこの町でゆっくりする予定だ。
デュランダルと話す時間なんていくらでも作れるよ」
「約束ですよ!ちゃんと私とお喋りする時間作ってくださいね!」
「分かってる。そうだな、夜にもゆっくりはなそうか」
「はい!マスター!」
嬉しくて仕方ない、そんな響きを感じる。
それからしばらくデュランダルと話をして、現在拠点にしている宿の一室を出た。
町にいる為魔物が襲って来る事は滅多にないが、魔族が人に化けて潜んでいるという事は有り得る。過去にそういった潜伏をした魔族がいたので念の為、デュランダルは腰に備えている。
現在、俺たち勇者パーティーは大陸の中心地に位置する町『マンナカ』で休息を取っていた。一日目はみんな宿でゆっくりしていたが、数日経てば思い思いに行動している為俺が起きた時には宿には誰もいなかった。
情報収集が目的ではあるが、その為に行動しているのが何人いるかという話だ。どうせみんな自分が好きなように行動してるに違いない。
勇者パーティーとして今1番欲しい情報は主目的である魔王討伐、その為に魔族達が拠点としている魔王城の在り処を探す事である。
狡猾で用心深い彼らの拠点である事から探し出すことは至難であろう。第2に魔王直属の部下としておとぎ話でも名が上がる四天王と呼ばれる魔族の情報だ。
四天王なのに5人いる、意味不明な魔族達だ。おとぎ話ではそれぞれが突出した力を持っていて人類に猛威を奮ったと言われている。勇者によって魔王共々封印され世界は平和になりましたみたいな感じ話は終わっているが、魔王が復活して魔族の活動が見え始めた以上おとぎ話で済む話ではなくなった。
大きな損害が出る前に四天王を見つけて討伐したいのが俺たちの思いだ。
さて、話は戻すが俺たちが探している魔王城の在り処。はっきり言って俺には必要がないと言えるだろう。魔王城を探す理由は、そこに魔王がいるからだ。仲間のみんなは魔王を討伐する為にその在り処を探しているが俺はどこに魔王が居るのかを知っている。
悲しい話であるが俺たち勇者パーティーに魔王が混じっているという事実がある以上、俺が探すべきは魔王城の在り処ではなくこいつが魔王だと確証を得るための証拠である。
その為に仲間を疑うのは心苦しいが、仕方ないと割り切ろう。そうじゃないと胃が持たない。
「ん、彼処にいるのはエクレアか?」
宿を出て町の丁度中心部に設置された噴水に腰掛ける女性を見つけた。
この世界では珍しい黒い髪が風で靡いていた。普段身に付けている鎧ではなく私服だろうか、白いワンピースの服を着ていた。
彼女こそが勇者パーティーの要、勇者エクレアである。
「エクレア、おはよう。よく眠れたか?」
「…………。」コクン。
「それなら良かった。昨日は遅くまでトラさんに付き合ってたから、大変じゃなかったか?」
「…………」ブンブンブン。
「俺からもトラさんには言っておくよ。エクレアは嫌な時はしっかり断れよ」
「…………」コクン。
見ての通り彼女は無口だ。話しかけたら頷いたり首を振ったりで意志を示してくれるが、如何せん話してくれない。3年ほど一緒に旅をしているが彼女の声を聞いた事がないという。
さて、仲間の中に魔王がいる以上彼女も容疑者の1人に入る訳だが勇者を入れていいものか。
そもそも彼女は無口で殆ど話さないから、行動から読み取るしかないのが困る。
魔王として証拠という意味で考えるなら、仲間が行った言い方は悪いが悪行から探していくのが早いかも知れない。
悲しいかな、勇者パーティーと名乗っている俺たちであるが仲間の殆ど1回は捕まっている。早い話前科者だ。誰が魔王でも不思議ではないだろう。そうこの勇者さえも。
彼女がした悪行。それはパーティーとして旅立って直ぐに起きた事だからよく分かっている。
勇者である彼女をリーダーとして先頭を歩く彼女について街中を歩いていると、唐突に彼女は見知らぬ民家の扉を開いて入った。
「え?どちら様ですか?」
困惑してる家の主の声を無視して彼女はグイグイと家の中を進み、勝手にタンスを開けて中に入っていたお金を取るとカバンにしまった。
日中の、家の主が目の前にいる堂々とした犯行だった。
正直驚いて何が起きたか分からなかったが、家の主が怒声を上げて彼女に掴みかかって投げ飛ばされたり、一悶着してるうちに衛兵がこちらに来て晴れて勇者は御用となった。
罪状は強盗と暴行。何か言いたげな彼女の顔が特徴的だった。私何か悪い事した?みたいな。
人の物を取ったら泥棒、そんな事子供でも知っているがまさか勇者がこんな堂々と犯行に及ぶなどの誰も思わないだろう。
いきなり勇者が捕まる事態に仲間がザワついてるのをひとまず落ち着かせ、衛兵の元へと向かった。
結果から言おう。言い方は悪いが買収した。俺たちがこれから救世の旅に向かう勇者パーティーである事を伝えた上で、保釈金と賠償金を払って許して貰った。
勇者パーティーと名乗った時の、驚いた衛兵の顔は忘れられない。
一応助けた事になるのか? それから勇者に懐かれた、そんな気がする。道中歩いている時も、町で休息してる時も何かと近くでいる事が多い。
無口な為、ただ横にいるだけだが。
彼女の悪行と言うのはそれくらいのモノだ。その後は変な行動を取る事もなかった。無口なせいで、何をしているが分からない時も多いが大体が善行を行っている。
容疑者ではあるが彼女は魔王とは遠い位置にいる気がする。
前世で馴染みのある黒髪黒目に親近感が湧くのもあるか? いや、それは除いてしっかり判断しよう。
「俺はもう行くけど、エクレアはどうする?」
「…………」
「要件言ってないから判断に困るよな。
サーシャを探してる所なんだが、エクレアも来るか?」
「…………」ブンブンブン。
「分かった!エクレアもゆっくり休めよ」
「…………」コクン。
頷く彼女を見てから、その場を後にして酒場を目指す事にした。魔法使いであるサーシャがいるのは間違いなくそこだ。
確信を持って俺は歩き出した。
───そう言えば最初に勇者が取った行動、国民的なRPGの勇者みたいだなって思って笑ってしまった。
もしかして、同郷の可能性がある?
「いや、そんな訳ないか」
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