3.容疑者NO.2 魔法使いサーシャ
魔法についての話をしよう。
何度か話には出たがこの世界には魔法と呼ばれる力が存在する。
最も誰でも使える力という訳ではなく、適性と才能が必要になる。残念ながら俺は適性はあったが肝心の才能がなかった。
この場合における才能とは、魔法を使う際に必要な根本的な力『魔力』の事だ。
ゲーム風に言うなら
どういう原理で魔力が宿っているか、1度ミラベルに聞いたが専門的過ぎて頭に入らなかった。
この世界の人間には心臓と同じような器官がもう一つあって、血と同じように魔力を体に巡らせている事だけは分かった。
魔力とはこの世界の誰もが持つものだ。それが戦闘や研究に使えるだけの量があるかないか、それが才能だ。
俺にも魔力があり、一般の人よりかは多かった。それでも魔法として使える程の魔力はなくて、魔法を使うのを諦めた。
適性についても話をしよう。
魔法は幾つかのカテゴリーに分かれているとされる。細かく言えば『火』の属性の『ファイアボール』を使えるが他は使えないみたいな、適性によって使える魔法の属性や数が異なると言われている。
魔法の属性は『火』『水』『風』『雷』『土』『聖』『闇』の7属性。
適性とは属性の中からどの魔法が使えるかを差す。これは生まれた時に決まるもので努力でどうこう出来るものでは無いとされている。
唯一例外とされているのが『聖』属性。教会に属し神に信仰を捧げている者が後天的に聖属性の魔法を使えるようになったと聞いた事がある。
ミラベルのような神が存在するのだから、教会が信仰を捧げている神が与えてるんじゃないかと俺は思っている。
この魔法の適性について知る手段も教会の神父やシスターに聞くしかない事から、何らかの干渉はあると見ていい。
話を戻そう。魔法を使うのに必要なのは適性と
適性はあるが魔力がなくて使えない、逆に魔力はあるが適性がなくて使えないなんて者も多くいる。
俺の場合は『火』の属性の『メテオ』を使う事が出来るが、それに必要な魔力が足りなかった。
神父に聞いた時、メテオが使える俺すげーって思ったが使えない事を知って悲しんだ。
基本的に魔法の適性は7属性の何れかの属性と一つの魔法だ。火属性の魔法を2つ使えるみたい者もいるが、1人1つの魔法が一般的だ。
だがごく稀に複数の属性と魔法を使える適性を持つ者がいる。
複数の属性を扱える適性と、その為の
俺たちの仲間サーシャも魔法使いだ。
───エクレアと別れ路地を進んでいると次第にざわめきが聞こえるようになった。音の発生源が目的の酒場である事から嫌な予感を感じながら酒場に入った。
「うぇーーい!あたしの勝ちぃぃ!」
「…………」
最初に目に入ったのが、酒が入っていたであろう木製の酒器を高々に上げ勝利宣言をする栗毛の女性と、同じテーブルで机に突っ伏して動かない屈強な男。
彼女こそが俺たちの仲間、魔法使いのサーシャである。
先程のざわめきは女性としても小柄な彼女が、見るかに屈強な男との飲み比べに勝利した事によるものらしい。
「あたしに勝てるって思う奴はかかってこーい!」
「俺が相手だ!」
どうやらまた飲み比べをするらしい。朝からお酒飲んで何してんだというのが俺の感想だが、それだけこの町が平和な証拠だろう。
見た目だけは可愛いらしいサーシャに周りの男がだらしなく顔を崩しているのが見えた。お酒に酔い潰してあわよくばなんて考えているだろうが、彼女のお酒の強さと魔法使いとしての実力を知っているのでまぁ大丈夫だろう。
彼女に相談したい事があったのだが、これは長くなりそうだ。
手暇になったので彼女について語ろうか。その前にまず魔力について話をしよう。
この世界の魔力の回復手段は自然回復だ。ゲームのように魔力を回復するポーションのような便利なアイテムは存在しない。
心臓と同じような器官が体の中で働いているので、魔法を使わなければ自然と魔力は回復する。
魔力の回復量に個人差はあるが、たとえ魔力を使い切っても1晩寝れば全快しているだろう。
基本的に魔力の回復量はその者の魔力の量に比例すると言われている。魔力の量が多ければその分多く回復する。
魔法使いはその魔力の回復力をしっかり計算した上で闘わないといけない。
強い魔法を使えばその分多くの魔力を消費するし、戦闘の数が増えれば魔力を使う頻度は当然増える。
言い方は悪いが魔力を使い切った魔法使いは戦闘において役立たずだ。剣を扱うために肉体を鍛えるように、魔法を使うにはそれ相応の知識が必要になる。その為、魔法使いが魔力を使い切ったから剣を振るうなんて者は滅多にいない。
魔力切れを考えて肉体を鍛えどっちでもいけるようにする者もまぁいるが、大体は器用貧乏に終わる事の方が多い。肉体の鍛錬に時間を費やす分、魔法への理解度が低くなり魔法の威力が弱くなってしまうからだ。
それ故、魔法使いの最大の敵は魔力の管理だと言われている。
さて話をサーシャについて戻そう。
彼女は酒飲みである。前世のように言うならばアルコール中毒者でもある。
彼女がそうなった経緯については彼女の師匠に教えて貰ったので知っている。
言ってしまえば先程話した魔力の回復量が関係していた。
アルコール中毒になる前の当時のサーシャは魔法の研究に熱心だった。
魔力が切れるまで魔法を使った回数は両手の指では数え切れない程だ。
魔力が尽きれば当然魔法は使えない。回復するのを待つしかない。その間、魔法を研究が出来ない事を歯痒く思った彼女が魔力の回復手段を探したのは当然の事であった。
さて、察しの良い人は分かったと思うがあろう事か
何もアルコールじゃなくても良いじゃないかと思ったが、ミラベル曰く魔力を生み出し回復しているのは結局体の器官でしかない。
その器官が最も反応したのがアルコールだという。
良くも悪くも彼女は天才で、最適解を選んでいた。
こうして魔力の回復手段を得たサーシャは、それまで以上に魔法の研究に力を注いだ。
魔力が尽きればアルコールを摂取し、回復したら魔法の研究をする。
その繰り返しを師匠の制止を振り切って続けた結果、出来上がったのが
魔法の研究はまだしっかりやってはいるが、今では魔力の回復の為ではなくアルコールが欲しくてお酒を飲んでいる。
見事なまでに本末転倒だ。
「んんぅ!あたしの勝ちぃぃ!いひひ!」
空になった酒器をドンッと音を立て机に起き、笑うサーシャ。
彼女もまた魔王の疑いがある容疑者である。
次の挑戦者がサーシャに挑んいる姿を後目に、彼女の悪行を振り返ってみた。
彼女の悪行の殆どはお酒に酔った勢いのものが多い。エクレアと違い、それが1度や2度で済まない事から酒癖の悪さがよく分かる。
1番大きな被害で言えば酔った勢いの魔法の使用だろう。彼女曰く。
「お酒を飲んで魔力が有り余っていた。
しつこく絡んでくる酔っ払いが鬱陶しくてカッとなってやった」
その結果、酒場は吹き飛んだ。奇跡的に死者こそ出なかったが怪我人が多数出る大騒ぎとなり当然のようにサーシャは捕まった。
───我が国の王様の気遣いと、魔王の脅威について各国がしっかり認識していた為、救世の為に勇者パーティーが旅立った事は世界に知られている。
汚い話をしよう。彼女を捕まえた衛兵に勇者パーティーである事を明かした上、怪我人の治療と被害者に対して多額の賠償金を払う事で彼女を解放して貰った。保釈金は彼女に払わせた。
勇者パーティーであると明かした時の衛兵の顔は今でも忘れられない。
さて、当初の目的である事をサーシャに相談したいのだが、
「次の奴かかってこい!」
まだまだ飲み比べが続きそうな光景にため息が出た。
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