1.探偵役 傭兵カイル

 ───隙があったので自分語りをさせて貰おう。

 俺の名はカイル。カイル・グラフェム。28歳、独身の傭兵だ。今は勇者パーティーの前衛を務めている。

 国に招集され、魔王討伐の旅に出てはや3年。信頼出来る仲間に魔王が混じっているとミラベルに告げられたのがつい最近だ。

 この世界に転生した時はこんな胃痛に苦しむとは思っていなかった。


 分かっての通り俺は所謂転生者と呼ばれる者だ。トラックに轢かれそうになってる同僚を助けて死ぬという、テンプレみたいな流れで神ミラベルと出逢った。


 よくある展開だが、俺はどうやら死ぬ予定では無かったみたいでミラベルのミスで亡くなったらしい。その埋め合わせとして、特典を付けて転生しないか?という提案を受けた。


 正直に言って未練だったりやり残した事があったので受け入れ難い話であったが、どうしようもないみたいなので諦めて受けた。


「転生特典って言ってもそんなに凄いのは付けれないのよね」

「無から物を創造したり?」

「無理無理」

「見ただけで相手を殺せる魔眼的な?」

「物騒ねー。無理よ」

「女性に凄いモテるとか」

「本人が努力すべきじゃない?」

「無限の魔力とか」

「神でもいないわよ」

「不老不死」

「神にでもなる気?」


 意外と融通が効かないらしい。逆に何が出来るのか聞いたら他の人より才能が優れてるとかは出来ると。

 剣の天才とかそんな感じの。

 もうそれでいいやと、特典を決めて俺は転生した。さらば前世。さらば高橋たかはしあつしだった俺。



 かくして転生を果たした俺だが待っていたのは思っていた以上に波乱万丈な人生だった。

 王様だったり貴族だったりがいるみたいだが、ごくごく平凡な農家の次男として俺は生まれた。

 成長の流れは割愛するとして、俺が7歳の時に住んでいた村が山賊に襲われた。転生特典で他の人より才能があると言っても所詮7歳の体。身体能力は大人には敵わなかったし、この世界に魔法は存在するが扱える才能が残念ながらなかった。結果から言うと俺は何も出来なかった。


 この世界は現実で、俺が想像していた以上に過酷で、残酷だった。

 村は焼かれた。男や子供は殺され、女は凌辱の末に殺された。


 弱肉強食の言葉が表すように弱い者が貪り喰われた。村で生きていたのは俺だけだった。何か出来た訳ではない。俺のこの世界での家族が命懸けで守ってくれたから、奇跡的に生き残った。それだけの話だ。


 両親や兄と姉、その死体に隠されるように俺は埋もれていてそのお陰でバレずに生き残っていた。

 死体に埋もれる俺を助け、そう教えてくれたのがこの世界の育ての親となる傭兵のリゼットだった。


「間に合わなくてごめん、生きていて良かった」


 俺を抱きしめてそう言う彼女の言葉を受け入れられなくて、彼女を振り解いて見た先に映ったのが折り重なった家族の死体。

 前世では成人して20代も後半に差し掛かっていた。今世を含めたら30は超えていたというのに悲しく、心が耐えきれなくて泣くしか出来なかった。



「私が引き取って育てる!」

「傭兵の仕事をしながら育てられる訳がないだろ!可哀想だが置いていくしかない」

「育てるよ!みんなには迷惑をかけない!傭兵の仕事をしながら育てるのが難しいのは分かってる。

それでも姉さんの子供だから、私が引き取りたいの!」

「リゼット…」


 俺を引き取るかどうかで揉めている現場がどこか他人事のように見えた。

 結局はリゼットが周りを押し切って俺を引き取る事になった。

 ───俺は7歳の時に家族を失って、傭兵の仲間になった。



 傭兵に引き取られてからの俺はそれまで以上に自分を鍛えた。努力はしたつもりだった。けど、才能に甘えてた所はあった。もっと努力しておけば村は無理でも家族を救えたんじゃないかと。所詮、ただの後悔だ。


 初めて人を殺したのは10歳の時だった。傭兵の仕事で山賊討伐に向かった時だ。心配したリゼットが常に近くに居たのを覚えている。


 初めての戦闘は無我夢中で、死にたくなくて必死な思いで山賊を殺した。人を切った感触が手から無くならなかった。血の匂いや切った山賊の顔が浮かんでその日は、リゼットに背中をさすられながら吐いたものだ。


 次第に人を切る事も慣れた。と言うより感覚が麻痺していった。それに殺す嫌悪よりも仲間を殺される方が嫌だった。その頃からミラベルが夢に出てくるようなった。


 久しぶりに会ったミラベルは悲しそうな、どこか申し訳なさそうな表情だった。


「ごめんなさい、こんな事になるなんて思ってなくて。恨んでるわよね?」

「いや、恨んでないよ。恨んでるとしたら何も出来なかった自分自身だ」

「そう…」


 何か言おうとして、我慢するように口を噤んだ。

 30秒程無言が続いた後、ミラベルがこちらに右手を向けた。


「本当はこんな事は規則違反だからやったらダメなんだけど、今回だけは特別。

この先の貴方の人生が少しでも楽になるように、受け取って」


 淡い水色の光がミラベルの手に集まって、それが一直線にこちら向かってきた。身構える間もなく、体に当たり溶けるように消えていった。


「貴方に与えたのは干渉を拒絶する力。分かり易く貴方に説明するなら状態異常無効って所かしら?

貴方はこれから毒も受けないし、麻痺も呪いも洗脳だって受けない。貴方に干渉し悪影響を及ぼす物を全て拒絶出来る。

あくまでも干渉するものだけだから、魔法も剣も普通に効くから気を付けてね!」


 ───追加特典というやつを貰った。

 その日を境に度々、ミラベルが現れるようになった。決まって夢の中。無理しないように、しっかり休めとか口煩い母親のようにこちらを気にかけてくれた。


 鍛錬の仕方や、剣の扱い方等も丁寧に教えてくれた。そのお陰か俺の実力はみるみる伸びていった。15歳の頃には既に、傭兵団の誰より強くなっていた。ミラベルの与えた才能と、指導のお陰だろう。


 20歳の頃に傭兵の仲間を庇ってリゼットが亡くなった。また家族を失ってしまった。その日は沢山泣いた気がする。心配してミラベルも夢に出てきたっけ。振り返って見るとよく泣いているな俺。


 リゼットが亡くなってから半年後に傭兵団を抜けた。家族がいなくなったのもあるが、1人でもやっていけるだけの実力を身に付けたとミラベルに太鼓判を押されたのが大きい。


 それからフリーの傭兵として、魔物の討伐や山賊退治で路銀を稼ぎながら旅をしていた。次第に腕のある傭兵として俺の名は広がっていった。


 25歳の時に魔王が復活しただの、人類は滅びるだのそんな話を聞くようになった。その頃から魔物の数や凶暴性が以前より上がっているのに気付いた。おとぎ話として聞いていた魔族を見たという声も聞いた。何かが起きてる。そう直感させて。


 それから国に招集されたのは直ぐだった。

 魔物が増え、魔族が現れるようになったのは魔王が復活したから。このままでは世界は魔族に滅ぼされてしまう。

 魔王を討伐して世界を救って欲しい。要約するとそんな感じだ。


 こうして俺は勇者パーティーの1人となった。

 俺の家族やリゼットが生まれたこの世界を守る為、魔王を倒す為に俺たちは旅立った。


 そして3年後仲間に魔王が混じっている事が分かった。

 魔王と思われる容疑者は勇者パーティーの5人。言い方は悪いが皆が過去に何かしらやっている前科者だ。証拠を探せば出てくるような気がする。

 気分は探偵だ。

 さて、自分語りが長くなったがこの胃痛に耐えながら魔王を探すとしよう。 

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