第12話 手紙
荷物の整理をしていると、古い手紙の束から、レターセットの便せんを折りたたんだ手紙が2枚出てきた。
そういえば、カナとはずいぶん手紙のやり取りをした。
携帯がまだなかった時、僕たちの間でメッセージをやり取りする手段は、「交換ノート」か「手紙」。僕たちは「手紙」だった。
レポート用紙や折り紙、レターセットなど、結構な量を買い、また毎日のように書いた。折り方もいろんな折り方があるのを、カナからもらう手紙で知り、マネをして折った。時には「戻し方」が分からず、悪戦苦闘したことも。
文字もいろんなパターンを試した。書道的なマジメな書体(一番楽だと聞いて選んだ書道が、実は一番しんどくてメンドーだった。なんだよ筆に10000円、墨に5000円、清書の半紙1枚200円に毎週レポート20枚書いて来いって!おかげさまで字は上手になったけど!)から、カナの書体をまねたまるっこい文字まで。
出てきた2枚の手紙を広げる。
・・・ああ。そうだった。
最初はカナは自分のことを「僕」って書いてたっけ。
こっちを下の名前で呼ぶの、半年もかかってたっけ?
バレンタインデーのお返し、瓶詰のお菓子選んだこととか、もう覚えてないや。でも、もらった手編みの手袋は、指の先っぽが1か所破れてしまったけど、まだ持っている。
この手紙、授業中に書いてたんだ?
そーいや、そんなこともしてたなあ。
こっちの封筒は・・・。
住所的には別れた後何年かたってるやつだ。さすがにフラれたときの、
あの「一通の手紙」は、辛すぎて処分してしまったけど・・・。
・・・あんまり見たくないけど、見てみよう。
・・・採用試験の勉強中かあ。また不安だったんだろうなあ。
・・・PS・・・?
いや、他の男性と付き合い始めたことをなんでこの人は毎回報告するかなあ??
今読んでもちょっとこう、ココロの中がグルグルなるんですけどねえ!?
箱いっぱいにあったカナからの手紙は、大学の時に当時の彼女が見つけてしまい、動揺してたので、彼女の目の前で焼却炉に放り込んで燃やしてしまった。(ベットの下に放り込んでたのも悪かったけど、なんでそんなところ見たんだろう???)
だから本当に「日常のなんてことない手紙」は、もう残ってないと思っていたよ。
今は思ったらすぐメールやSNSで伝えられる。
それはそれでいいけど、僕は「手紙」が好きだ。
場所はとるし、書き直しはめんどくさい。
隠しておく場所を考えなきゃいけない。
字も丁寧に書かないと。
でも、今改めて昔のカナの文字を見ると、
やっぱりその時の感情まで伝わってくる。
くせのあるちょっとまるっこい字。
勢いあまって、次の文字に時々「゛」を打ってしまうクセ。
そのときの学校や教室の様子、カナの表情が浮かんでくる。
「今」は今で大事にしたい。大事にしている。
けど、あの日々があったからこそ、今の僕が在る。
同じ道を歩くことはかなわなかったけど、
もう全てを覚えてはいないけれど、大切な日々。
嬉しいことも 辛かったことも
手紙は、そんな日々の情景を思い起こさせてくれる。
今はまた、しまっておこう。
いつか、あの日々のことを笑って話せる日が来ることを願って。
SUNNY DAYS @tsuji-dou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます