5.父と母

 理想の家族、というものはまるで私の家族を言い表した言葉のようだった。

父と母、5つ上の姉が1人の4人家族。父は祖父が作った会社を継ぎ、母はレストランのシェフ。大きな家で不自由なく暮らしていた。昔から欲しいものは手に入ったし、家族の愛を一身に受けているのを幼い頃から感じていた。

 「自分の言動には責任を持ちなさい。」

 「愛してくれる人を愛してあげてね。」

 それが両親の教えだった。2人を尊敬していた私は、その教えを守れる人にならなければと努力していた。


 そんな幸せな家庭が崩れるのは、あまりにも簡単だった。

最初は小さな喧嘩だった。姉と2人で寝ている時、言い争う声が聞こえた。何をいっていたのかははっきりとは思い出せないけど、いつも穏やかな2人の声じゃ無いようで、大泣きしている私にこれ以上声が聞こえないように、と耳を塞いでくれた姉。

その日から2人の喧嘩はエスカレートしていき、母は物に当たるようになった。

 「お母さん…」

 勇気を出して話しかけても、

 「うるさい!!今忙しいの!!」 

 まともに会話も出来なくなっていた。

 父は帰ってこなくなり、家庭での会話は無くなった。

 母が仕事で帰りが遅くなったあの日、久しぶりに帰ってきた父は女を連れてきた。

 「お母さんに言ったら怒るよ。」

 そう言って父と女は寝室に入っていった。姉は部活でいなかった。

別に母に告げ口をするつもりはないし、きっと母も気づいていたと思う。


 「どっちに着いて行きたい?」

 数ヶ月後、リビングに呼ばれた私と姉は突然、そんな質問をされた。

姉は全てを知っているかのような顔だった。

 「お父さんについて行くよ。」

 考える暇もなく姉は言った。

 「じゃあ奈那も俺のところだな」

 私の意見なんか聞こうともしない。そもそもなぜどちらか選ばないといけないのか。母の方を見るとこちらを見ようともせず、つまらなさそうだった。

 後々知った事だが、父は昔から浮気をしていたようで、それに耐えられなくなった母から離婚を切り出したらしい。

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