3.1回目のさよなら

 あっという間に1週間がすぎ、今日は転校前最後の登校日。

その日は1日をいつもより大切に過ごした気がする。

 「奈那」

 放課後、持ち帰りきれなかった荷物をまとめていると伊織が廊下から私を呼ぶ。

 「先生いないんだから入ってきたらいいのに。」

 他クラスの生徒は教室に入ってはいけないという謎ルール。一体どんな意味があるんだろう。 

 「どうしたの?」

 無言のまま入ってくる伊織が不思議で聞いてみる。

 「今日最後だから一緒に帰りたいなーって。」

 そんなこと、一言も言われたことないのに。私は心底嬉しかった。

 「うん!帰りたい!」

 「俺にもそれ持たせて。」

 ランドセルだけで隣を歩くのも申し訳ないと思ったのか、それともただの親切心なのかはわからないけど、あの時の特別な幸せな空気感、交わした何気ない会話は、今でもはっきりと思い出せる。

 「転校してもさ、また会おうね」

 私の家に着いた時、伊織がふとそんなことを呟いた。

 「寂しいの?」

 少しイタズラっぽく、伊織の顔を覗き込んで聞いてみる。

 「まあ…そりゃあ寂しいよ」

 昔のように話さなくなっても、伊織の中で私は同じポジションにいれたんだということが伝わって、私はそれだけで十分だった。

 「また会えるよ!」

 伊織を不安にさせたくないという気持ちで、また会える確証もないのにそんなことを言ってしまった。

 「新しい学校、楽しんでね。何かあったらすぐ行くから。」

 口だけの言葉でも、嬉しかった。

 そうして、私達は1回目のさよならをした。

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