2.転校
「奈那転校するの?どこに?」
休み時間、伊織が私の教室に訪ねて来た。来てくれた嬉しさと、伊織に聞かれたことで沸いてくる転校の実感。
「遠くないよ。大丈夫」
新しい学校は確かに遠くない。県外や海外に行くわけでもない。それでも小学生だった私達には、とても遠くに感じた。
「なんか久しぶりに話した気がする!」
「そうだね、」
なんだかバツが悪そうに言う伊織。久しぶりに接した伊織は、なんだか雰囲気が大人びていた。
今日なら、今なら沢山話せる気がする。そう思った私がもう一度伊織に話そうとした時、始業のチャイムが鳴った。
「あ…」
もっと話したかったのに、なんて思っても仕方がない。
「じゃあ俺教室戻る」
そう言って伊織は自分の教室へ走って行った。
「えー、今日はみんなにとっても大事なお知らせがあります。
来週で奈那ちゃんが他の学校に行ってしまいます。とっても悲しいけど、みんな
は最後まで奈那ちゃんと沢山遊んでくださいね。」
帰りの会で先生がみんなの前で話した。クラスのみんなが振り返って私を見ている。
なぜか背中に冷や汗が伝う。みんなが見ているという緊張か、ただ単に転校したくないという焦りからか。あの時の私は、恐怖心のようなもので押し潰されそうだった。
「奈那ちゃん転校しちゃうの…?」
「転校なんてダメだよ!」
帰りの会が終わったあと、特に仲の良かった友達が私を取り囲んだ。
「でも来週までいるよ?」
なんでもない事のように言う。
「そういう事じゃないの!!」
友達の目に浮かぶ涙を見ると本気で悲しんでくれているようで、とうとう私は何も言えなくなってしまった。
その時どこかで「伊織」と呼ぶ声が聞こえた気がした。私は無意識にその方向を見つめる。伊織は私のクラスの男の子とふざけ合っているようだった。
なんとなく見ているとバチっと目が合った。その瞬間全ての熱が顔に集まるのを感じた。
「もしかして奈那ちゃん、伊織君のこと好きなんでしょ〜!」
「ち、違うし!!!」
思っていたより大きな声が出てしまい自分でも驚く。
「まあでもわかる!伊織君かっこいいもん!」
確かに伊織は綺麗な顔をしていた。名前こそ純日本人だけど実は中国と日本のハーフで、すらっと伸びた手足に小さな顔。薄い唇に鋭くキリッとした目元。小学2年生にして一目惚れされることも少なくない。
だからといって私が伊織を好きなわけ…
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