3話 溢れるサンドウィッチ
「……」
駄目だ。
どうにもこうにもアカネってどこのクラスにいんだよ……。
昨夜の決意も虚しく僕はアカネに話しかける事はおろかどこのクラスなのかすらも見つけられずにいた。
探し方が悪い、と言われれば否定はできない。
そもそも部活以外で友達がいないんだから、友達のいないクラスの人に話しかけるなんて高等技術が僕にあるわけがないんだから。
そんなこんなで昼休みになってしまっていた。
部活があった頃は部員友達と弁当を持参してよく体育館に集まって昼休みもうだうだとバレーボールで遊んでいたっけな。
売店で焼きそばパンを買った僕はそんなことを思いながら未練がましく体育館に向かって歩いてしまっていた。
「なんというかやっぱり体育館が一番落ち着くよな、僕は」
そうそう、よく体育館の非常口付近で集まって──
「……」
「あ」
僕の足は止まった。
相変わらず僕らは腐ったような縁に支配されているようだ。
アカネが目の前で僕と同じように立ち止まっていた。
──ただ、アカネはすぐに僕から視線を外し特に気にしていないとでも言いたげに非常口付近にちょこんと座り込んだ。
──この光景に僕は戸惑う事はない。
なにせいつもの僕らは学校内では挨拶すらしない赤の他人のように振る舞っているからだ。
別にどちらかがそう取り決めたわけじゃないけど、気がつけばそう決まっていた。
暗黙の了解というやつだ。
──ただ。
ただ今回はそういうわけにはいかなかった。
アカネの変化の理由を、アカネの事を知るためにはとにかく友達になるしかない。
いつまでも暗黙の了解の下に隠れていてはいけないんだ。
僕はごくりと眉唾を飲みアカネの近くに向かった。
平常を装っていたが内心は緊張していたのだろう。隣に座り込むと安堵したのか思ったよりも大きくため息をこぼしてしまった。
やっとアカネと話す機会を得た。
試しにまずは何か話してみよう。そうだな、えーと、とりあえず自己紹介か?
いや、意味ないだろ。
……とは言え僕はどこまでアカネに知られているのだろうか。
もしかしたら名前以外あまり知らないってこともあり得るな。
「……」
自己紹介をしようと本気で意気込んでいたんだから焦っていたんだろう。
僕は話しかける事が不可能だと考えて、なんとなく焼きそばパンを齧り始めた。
ちなみに僕は隣にいるであろうアカネの姿を全く見ていない。
見ようと思っても出来ないのである。
僕が焼きそばパンを食べると隣でアカネもゴソゴソと動き始めた。
離れようとしないのだから多分、嫌ではないはずなんだけど。
──だからと言ってそれが勇気にはならないのが僕である。
焼きそばパンを半分ほど食べたくらいで僕はさすがにせめてアカネの姿だけは見ようと考えた。
タイミングを見て、絶対にアカネが気づかないような一瞬を狙う。
──が。
「見ないで!」
「え?」
アカネの張った声が響いた。
しかし、突然そんな大きな声を出されては余計に気になるというのが人間の面倒くさい仕組み。
あっさりとアカネの方を見てしまった。
「……」
「──見るなって、言ったんだけど……」
「ふふ、……はは、はは」
「──っ!」
思わず、本当に思わず、にやけてしまった。
それも仕方がないと全僕が代弁するほどに。
だって、アカネの手の上にサンドウィッチの具材であろう卵焼きが零れ落ちていたんだから。
「お前さ、もしかして食べるの下手?」
「これは、なんて言うか。えーと……」
アカネは手に零れ落ちた卵焼きを口に運びモゾモゾと口を動かした。
「──いや、なんでもない」
「てかどうしてここでご飯食ってんの?」
「えぇ? あぁ、いやそれは……」
「?」
「──恥ずかしかったから」
「え?」
アカネは頬を赤くしていた。
「ご飯食べるの苦手で、それを知られるのが恥ずかしくて誰もいないところで食べようと思ってたの!」
「なるほど……」
「そしたら、なんかミカタが来て……」
「あぁ、そういう事か。いつからここで?」
「一週間くらい前から。それまでは昼ごはん食べてない」
「えぇ! マジですか」
「……変かもしんないけど、そうしないと恥ずかしかったから」
「ふふ、そっか。──じゃあ一口で食べてみたら?」
「え? あぁ」
僕は本気で言ったわけでは無かったが、アカネはそれを間に受けてしまったようで──
「うぐ」
口にサンドウィッチを詰め込む、なんともおバカそうなアカネがそこにはいた。
「うわ、すごい顔」
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