第2話(後日談)

 アカネは部活を辞めた。


 あの時アカネが体育館に来ていたのは恐らく僕と似たような事だと察した。

 バレーが身に染みていると何かある度に何故か無性にボールに触りたくなってしまう。

 この性質は僕だけの特殊な癖なんじゃないのか、と言われれば絶対に違うなんて断言は出来ないけれど、でもアカネとは腐れ縁で小学生からの付き合いだからそれくらいは分かっているつもりだ。


 あの後結局アカネと数分だけトスをして適当に切り上げていた。

 そもそもそういう関係ではなかったし何があったのかを聞くことも出来なかった。

 談笑すらも交わすことなく淡々とボールを投げ合い、そして「帰ろっか」とどちらが言ったのか覚えてないけれど、その一言で解散したのだ。

 それに心境も会話どころの騒ぎじゃなかった。

 背中でほんのりと湿っぽさを感じてしまい、頭の中がそれでぼんやりとしていた。


 自宅に着いてからもその感覚が抜ける事は無かった。

 多分、アカネに対して何か特別な感情があったからなのかもしれない。

 ──いや、単純に僕がそういう出来事に巡ったのが初めてだったからなのかもしれないけど。

 でもどうでもいい人にはそう簡単にドキドキはしないはずだ。

 ともかく、きっと僕は腐れ縁と言いながらもアカネのことを意識していたのだろう、と結論付けた。

 でなければそもそも毎回英語の補習授業をあえて受けるなんて意味の分からない事をするわけがないんだよ。

「……」

 ──あいつの異変はきっと何か原因があるはずなんだ。

 ただ──腐れ縁。

 正規の繋がりとは言えない僕とアカネの関係上、どうしてもプライベートの事を聞く事が出来ない。

 それに、もしも僕のアカネに対する感情が確かならこの関係のままじゃ駄目だ。


 僕は徹夜明けの真夜中も同じく眼を開きただただ天井を眺めていた。

 そして──一つ結論を出した。


「今の関係を変えよう」


 現状の脱却。

 腐れ縁として紡がれた関係から恋人でも友達でも良い。──出来れば多分恋人になりたいのかもしれないが。

 それがたとえ一時の感情だったとしてもこのままでは正常にいられなさそうなのは確かだ。

 だから──まずはちゃんと友達になる。

 アカネの事を知るんだ。

 

 

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