エリザベス商会−7
水車の見学が終わったところで、セオさんが寄るところがあると御者に指示を出している。
馬車は来た道を戻って走り始めた。
「商会の建物が仮で見つかりましたので、確認をしていただきたい」
「以前に候補が複数あると言ってましたが、決まったんですか」
「ええ。状態が良さそうなものを探し出しました。後は皆さんが良ければ決まりですね」
最初は建物から作るという話にもなっていたが、シャンプーとコンディショナーを作る速度が速いので、既存の建物から探す方向に途中から変わったと聞いている。
馬車はアルバトロスの中心である屋敷近くまで戻ってきた。
アルバトロスは中心に行くほど建物が立派になっていく。家がある場所と店がある場所は別になっており、店が並ぶ一角は石造りで三階や四階の建物が並んでいる。
馬車が建物の前で停まった。
俺たちが降りると、セオさんが建物の鍵を開けている。
店の外観を見ると、他の営業している店より立派に見え、シャンプーとコンディショナーを売るだけにしては大きすぎるのではないかと思うほどだ。
大きな店は馬車を停められるような場所も用意されているが、セオさんが選んだ店舗の候補も馬車を停められるようになっているようだ。
「開きました。中へどうぞ」
店の中に入ると木が張り巡らされ外の石の外観とは違って、暖かみを感じる作りになっている。
一部は吹き抜けになっているようで、天井はかなり高い。二階に続く階段が用意され、一階から二階があるのも分かる。
一階もかなりの広さなのに二階まであるとか、広過ぎじゃないか?
「セオさん、広過ぎませんか? シャンプーとコンディショナーを売るだけですよね?」
「ええ、正直今の段階ですと広過ぎます。しかしエリザベス様のエリザベス商会ですから立地が悪いのもダメですし、店が小さいのも問題があって最終的にこの大きさになりました」
ここでエリザベス商会という名前が問題になってくるのか。
確かにベスの名前がついた商会が辺鄙なところで、小さいなんて問題になる。
十三地区から随分と離れた場所に店を構えるのだなと思ったが、理由が理由なので仕方がなさそうだ。
セオさんの案内で店の中を見て回る。
広い店だと思っていたが扉で区切られた奥があって、従業員が商会に出入りするための扉が別である。
三階部分からは従業員が作業をするための大きな部屋が用意されている。建物自体は四階まであるようだ。
各階には倉庫として使用できる大きな部屋が複数あった。簡易のエレベーターのようなものまであり、荷物を上げ下げできるようだ。
「広いですね」
「ええ。エドさん頑張って商品を作ってください」
「急には思いつきませんよ?」
セオさんは「ですよね」と言ってため息をついている。
シャンプーとコンディショナーは作れば無くなっていくという現状だし、今のままだと店の陳列に本当に困りそうだ。
「売り物に困るのでしたら、エドの考えた服を並べれば良いのですわ」
「服ってポンチョくらいしか無いんじゃ?」
「ポンチョ以外にも裁縫師と服を考えていますわ」
すっかり服について忘れていた。
前世の知識から作ったものなので、自分の作ったものかと言われると違和感がある。気が進まないでいると、セオさんからトリス様に相談してみようと提案してきた。
「お母様もエドの考えた服を気に入っていましたから、相談してみるのに賛成ですわ」
「セオさんとベスがそう言うのなら」
言いくるめられている気もするが、服に興味のないと言われていたベスが乗り気のようだしトリス様に聞いてみるか。
俺たちは再び馬車に乗って屋敷へと向かうことになった。
元々水車を見学した後はトリス様と会う予定だったので、屋敷に着くといつもと同じ部屋へと案内された。
「水車はどうでしたか?」
「人が混ぜて作るよりかなり効率が良さそうでした」
「そうですか。急ぎ配ったので量が間に合うか心配でしたが間に合いそうですね」
トリス様もすでに配っていたのか。
「トリス様、そこまで急ぐ必要があるんですか?」
「先に別の場所で配っていますから、作られて売られてしまう可能性があります。辺境伯の後ろ盾があることを知らしめる必要がありました」
薬師なら素材が分かってしまうかもしれないし、配ってしまっているのだから売りに出る可能性はあるか。
商会の建物についても話していく。
想像以上に商会の建物が大きいことを伝え、陳列するための商品が足りなさそうなことを話し、ベスの案で俺が考えた服はどうかと言う話になったと伝えた。
「エドの考えた服ですか。私かベスが着た後なら構いませんよ」
「お母様か私ですの?」
「見た目が今までと違いますから、先に着る必要があります」
今までと違う服を置いても売れるか怪しいのか。
「でしたらポンチョはどうですの?」
「ポンチョは少し簡易過ぎます」
「でしたら雨具としてならどうですの?」
「雨具としてなら問題はなさそうですね」
俺たちのポンチョは魔道具となっているから高いが、布の生地自体はそう高いものではない。
エリザベス商会に置くには少々生地の品質が足りないと言う話になって、裁縫師と相談して生地を変えてポンチョを準備することになった。
ポンチョは雨具にするので大きさをある程度決めて、店に陳列しておかないかとセオさんに相談する。
雨具として使うのは雨の日になるし、買ってすぐに使えたほうが良さそうだ。
「確かに雨具を欲しがるのは雨の日ですね。古着かと誤解されるかもしれませんが、説明すれば問題ないですし良いかもしれません」
「それに売り物を置いておけるなら商品が多く見えます」
「現状だと空間を埋められるのは嬉しいですね」
トリス様も俺とセオさんの考えに同意したところで、ポンチョは何種類かの大きさを作って置いておくことが決まった。
「では、私の名前が商会で、ドリーは薬屋ですから、エドは服屋ですわね」
「え?」
ベスから急に提案された。
一瞬理解できなかったが、俺の名前が服屋になるのか?
「エドだけ店の名前にないのは問題ですね。ベスに服屋を任せるのは……」
「お母様、商会に服を置こうと提案したのは私ですわよ?」
「! 成長しましたねベス」
トリス様はベスが言ったことに目を見開いて驚いている。しみじみとした感じでベスを誉めている。
しかしトリス様まで賛成なのか。
恥ずかしさもあったから商会の名前を遠慮したのに、結局服屋の名前になるのか。一応違う名前にならないかと足掻いてみる。
「俺の名前で決定なんですか?」
「エドは不満ですの?」
「若干恥ずかしさが」
「私の名前は商会ですわよ?」
「それを言われると何も言い返せないな」
商会の名前をベスにお願いをしたのは俺だし、これは言い返せない。
完全に言い負かされてしまった。
「三人の名前があるのが良いのですわ」
ベスに言われて気づくが、確かに三人の名前が一緒になってるのが良いのかもしれない。
恥ずかしいとは言ったが、実際には前世の知識から作り出したものだという罪悪感の方が強い。三人で店をやるのだと思えばそれも薄れる気がする。
結局は俺の気分の問題なのだと再認識した。
「確かにそうかも。分かった、服屋は俺の名前にしよう」
「決まりですわ」
店の名前はエドワード衣装店と決まった。
服を置くことが決まったことで、空間が少しでも埋まりそうだと商会の建物も今日見た建物に決まった。
「セオさん、ポンチョを十三地区で作れたりしないんですか?」
「今は難しいですね。将来的には商会に置けるようにお針子を育成してみますか。安い布でポンチョを作って売りに出せば売れそうですし」
セオさんは悩みつつ安く作れれば、旅をする冒険者や商人に売れそうだと言った後、バーバラさんに相談してみると言う。
仕事を増やしてしまったようで申し訳ないが、十三地区で作れるポンチョについてはセオさんにお願いした。
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