エリザベス商会−2
薬師組合に移動中の馬車の中で、セオさんから俺とドリーの出自については聞いていると言われた。
「ベアトリス様から補助するようにと言われております」
「さっきみたいに商会の名前をベスの名前にしようとしたりして、間違えてしまったら教えてください」
「先ほどは驚き止める暇もありませんでしたが、次からは口を挟ませていただきます」
セオさんに迷惑をかけると謝って、今後の指摘をお願いした。
商会の運営に不慣れな俺を補助するのが、仕事だとセオさんが請け負ってくれた。
組合に着くとグレゴリーさんが出迎えてくれる。
以前と同じ流れで個室に案内される。グレゴリーさんに、商会の運営を任せるセオさんを紹介する。
「セオドア・フォン・マクラウケニアと申します」
「薬師組合職員、グレゴリーと申します。セオドア様、よろしくお願い致します」
「一応貴族ではありますが、魔法使いではないですし、三男なので家を継ぐことはありません。それに今は商人のつもりですので、是非セオドアとお呼びください」
グレゴリーさんがセオさんとの挨拶が終わったところで、俺の方を向いた。
「エドワード様、商会を立ち上げることになったのですね」
「はい。まだ立ち上げる前ですが」
グレゴリーさんと話しながら、今更ながら様付けで呼ばれていることに気がついた。
グレゴリーさんに俺もエドで構わないと伝えると、薬師組合の職員としてそれは難しいと返された。
「リング王国の国民は魔法使いを尊敬しているのもありますが、薬師は到達点として魔法薬や治療魔法を目指していることもあり、他の国民より尊敬の度合いが高いのです」
グレゴリーさんの言ったことは何となくだが理解できる。
前世の知識にあるような医療は存在しないが、それ以上の医療を魔法使いが行なっているようだ。
リング王国の薬師は医師のような立場にあり、魔法薬や治療魔法のような効果を目指すのは当然だと思う。
組合の職員として敬称をなしで呼ぶのが難しいのは理解できた。
グレゴリーさんに無理を言ったと謝ると、気にしないで欲しいと返された。
「エドワード様は魔法使いになられたばかりで、今までの生活と違って戸惑うことも多いでしょう。何かお困りになられたらご相談ください」
「ありがとうございます」
グレゴリーさんは俺とドリーの出自を知っているので心配してくれたのだろう。
トリス様から口止めされているようだし、濁して伝えてくれたのだと理解した。
グレゴリーさんが戸惑うと言ったが、確かに魔法使いになってから立場が大きく変わった。変化は俺とドリーを普通以上の生活にしてくれている。
今まで魔法使いたちが積み重ねてきたことで、今の尊敬される魔法使いがあるのだろう。
俺も魔法使いとして尊敬されるような存在になっていきたい。
魔法使いとしての将来像を考えていると、セオさんから小声で話しかけられた。
「エドさん、グレゴリーさんはエドさんの出自をご存知で?」
「組合に登録した時の担当がグレゴリーさんなので知っています」
「そうですか。それなら詳しく話しても良いかもしれません」
どう言うことかとセオさんに尋ねると、俺がベスの護衛騎士候補であることは話しているかと逆に尋ねてきた。
伝えていないことを話すと、セオさんは手伝ってもらいたいので話してしまいましょうと提案してくる。
何を手伝ってもらうのだろうかとは思ったが、小声で話し続けるのも怪しい。
隠している訳ではないのでセオさんの言う通りに、グレゴリーさんにベスの護衛騎士を打診されたことを伝える。
グレゴリーさんが「本当ですか?」と聞き返してきて、とても驚いているのが分かる。
「グレゴリーさん、エドさんが護衛騎士に誘われたのは、エリザベス様独特の問題があります。エリザベス様の噂についてはご存知で?」
「その、非常に活発的な方だと」
グレゴリーさんの口の濁し方からベスの戦い好きというか、鍛錬好きなのを知っているようだ。
ベスの鍛錬好きは貴族だけではなく、組合の職員にまで広がっているのか。
「ええ。活発すぎるようで騎士候補が辞退してしまうようです」
「辞退? そんな光栄なことを?」
「護衛対象に負ける騎士は辛くありませんか?」
「それは……」
セオさんが説明したことはトリス様も似たようなことを言っていた。
俺もベスと勝負をすれば負けるが、護衛が護衛対象に勝つ必要はないとトリス様から以前に説明されたことで、護衛のあり方を理解できるようになった。
「姉のテレサから、エリザベス様がエドを気に入っているのが、騎士に誘われた一番の理由だとは言われていますがね」
「なるほど」
何となくベスに気に入られているとは思っていたが、ベスと付き合いが長そうなテレサさんが言うのだから本当なのだろう。
俺もベスのいい意味で貴族らしくない姿は好感を持てる。
それにアルバトロスに来てからずっとベスと一緒にいるので、隣にいない方が違和感があるようになってきた。
セオさんがグレゴリーさんに俺とドリーの出自について口止めを再びした後、護衛騎士候補については今は秘密にしておいて欲しいと伝えている。次いで噂がグレゴリーさんまで流れてきたら事実だと認めて欲しいとお願いしている。
グレゴリーさんがセオさんに頷いて同意した。
セオさんが手伝ってもらうと言ったのは噂のことのようだ。
セオさんが騎士候補だと噂をばら撒くのだろうか? もしかしたら騎士候補としての噂を流す時に、俺とドリーの出自に関しても噂を流して偽装するのかもしれない。
「エドさんの話はこの程度にして、商会で作る商品のシャンプーとコンディショナーの材料について尋ねたいのですが」
「エドワード様とドロシー様が組合に所属していますので、材料に関しては販売することは可能です。しかし組合の在庫は無限にある訳ではありません」
「やはりそうなりますか」
組合に来る前に話した通りの展開になった。
材料がなければ作ることができない。
どうするかと悩んでいると、エマ師匠が魔法使いが作る素材であれば協会が用意できるかもしれないと言う。
「シャンプーとコンディショナーは協会で使い始めたこともあって、人伝に欲しいと頼まれ結構配ってしまっているのです」
エマ師匠が知り合いに渡しているのは知っていた。
協会内だけでもエマ師匠は知り合いが多く、声をかけられているのをよく見る。
シャンプーとコンディショナーを作ってから一ヶ月経っていないが、協会に置いてある分の減りが早いので相当な人数に渡っていそうだ。
「渡した人は気に入っている様子ですし、シャンプーとコンディショナーの材料だと説明すれば喜んで作ってくれると思いますよ」
エマ師匠の話を聞いたグレゴリーさんは、セオさんにどの程度の量を作るのかと尋ねている。
セオさんは確定ではないが水車を一基使って生産することを説明した。
「確実に用意できるとは言えませんが、協会の協力があるのでしたら生産に足りる素材は準備できる可能性が高いです」
「水車を増やした場合はどうですか?」
「元となる素材の問題がありますが比較的入手しやすい物なので、段階を踏めば可能かもしれません」
問題となっていたのは魔法使いが用意する材料だったようだ。
話し合った結果、材料の量産についてはエマ師匠から知り合いに説明するのと、グレゴリーさんが組合から協会に説明文付きで発注することになった。
エマ師匠の顔の広さによって解決するという、思わぬ形で材料の不足は解決した。
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