エリザベス商会−1

 協会で魔法の練習が終わった後に、ベスがテレサさんの弟に会いに行こうと言われた。


「商会の運営を手伝ってもらえそうなの?」

「ええ。随分と乗り気のようだと聞いていますわ。お母様ともすでに会っているようですの」


 テレサさんの弟に商会を手伝ってもらうと言う話をして、三日が経っている。

 自分の店もあると言っていたし、時間がかかると思っていたが、思った以上に決まるのが早かった。


 協会からメガロケロス辺境伯の屋敷へと向かう。

 トリス様は今日忙しいとのことで、話し合いに参加しないとベスから説明された。

 話した内容は後でベスが説明するようだ。


「テレサの弟でセオドア・フォン・マクラウケニアと申します。気軽にセオとお呼びください」

「セオさん、エドワードです。エドと呼んでください」

「ドリーは、ドロシーっていうの」


 テレサさんと家名が違うことを尋ねると、テレサさんは騎士になった時点で家を独立しているのだとセオさんが教えてくれた。

 セオさんは独立したテレサさんを手伝っているのだと言う。


「そうはと言っても姉のテレサは優秀なので、手伝う必要はあまりないのですが。なので普段は商売をして過ごすことが多いです」


 セオさんはテレサさんからの希望もあるし、辺境伯が後ろ盾となる商会の立ち上げから参加できるなど、滅多にないことだと興奮した様子だ。


 どうやらテレサさんが後押ししてくれたようだ。

 しかし辺境伯が後ろ盾となる商会は滅多にないのか……。


 セオさんに商会で売る予定のシャンプーとコンディショナーを見せて説明しようとすると、すでに使っていると言われた。


「シャンプーとコンディショナーは良いものですね。男性にも人気が出そうだ」

「男性用の香りを考えた方がいいですかね?」

「香りを変えられるのでしたね。確かに男性用の香りを作った方が良さそうです」


 セオさんは説明をある程度聞いているようで、すぐに香りについて理解してくれた。

 セオさんも乗り気だし今度、男性が好む香りをいくつか試作してみよう。


 セオさんから、他にも香りを変えたものをいくつか用意して欲しいとお願いされたので、ベスとトリス様とは別の香りを作って用意することになった。

 セオさんに材料と作り方を伝えてどのように作って、原価がどの程度になりそうかを伝えていく。


「販売する価格は高めに設定する予定なので、利益が十分出るでしょう。問題は生産方法ですね」

「薬師組合で人を探してもらっています」

「輸出を考えると人が混ぜていたのでは生産が追いつきません」


 ドリーとベスがやったように、薬師か薬師見習いが計量して、他の人が混ぜるだけでも良さそうだ。

 しかしそれでは生産量が大きく上がらない気もする。

 前世のような、混ぜるような機械があればいいが、アルバトロスでそのような機械があるか分からない。


 セオさんに、作業を分けて生産する方法の説明をした後に、人力ではなく混ぜるだけの方法がないかと尋ねてみた。


「混ぜるだけですか。それなら水車を使えませんか?」


 セオさんに水車と言われてアルバトロスに来た時、川の横には大量の水車が並べられていたのを思い出す。

 確かに水車なら川の流れという制限はあるが、混ぜるのに向いていそうだ。


「水車でしたら、私の権限でも使えますわ」

「ベスの権限で水車が使えるの?」

「水車はメガロケロス家の所有物ですから、私でも使用許可は出せますわ」


 メガロケロス領では全ての水車はメガロケロス家が使用方法を決め、水車の管理を任されている管理者が使用を采配しているのだとベスが教えてくれた。


 アルバトロスの川に設置された水車は全てメガロケロス家のものなのか。

 しかし大量に設置されているなら、今現在使っている水車が大半なのではないだろうか?

 ベスに尋ねると、時期によるが水車の空きはあると言う。


「多くの水車を必要とする可能性がありますし、お母様に水車の空きがあるか聞いておきますわ」


 水車のことはベスがトリス様に聞いてくるまで保留となった。


 他に相談することは何かあるかと考えるが、今話せることはあまりないと気づく。

 セオさんに他に何か話すべきことがあるかと尋ねる。


「いくつかありますが、一番重要なことが決まっていません」


 重要なことが決まっていないと言われて、考えてみるが思いつかない。


「すみません、何を決める必要があるんでしょうか?」

「商会の名前を決めなければ、商会を作る書類を製作できません」


 アルバトロスでは店舗を用意して営業するような場合は、事前に登録が必要なのだとセオさんが教えてくれた。


 商会の名前か。

 どのようなものが良いのか思いつかない。


「セオさん、紹介の名前は普通どういうものなんですか?」

「紹介を立ち上げた人の名前が多いですね」


 立ち上げた人の名前か。

 俺の名前が商会の名前になるのは恥ずかしさがある。ドリーのドロシー商会はなくはない。後はベスのエリザベス商会か。

 なんとなくだが、エリザベス商会という響きがいい気がしてきた。


「ベスの名前を借りていい?」

「え? 私ですの?」

「俺の名前を商会につけるの抵抗があって、なんとなくなんだけどエリザベス商会が良いなって」

「私は良いですが、ドリーは良いのですか?」

「ドリーは薬屋さんがいいな!」

「そうですわね」


 俺も将来的に薬屋もできれば良いかと思っていたが、ドリーとしては薬屋をやるのは決定事項だったようだ。

 ベスもドリーの提案を受け入れている。


 そうなるとエリザベス商会にドロシーの薬屋か?

 悪くないかもしれないと考えていると、セオさんが何も意見を言っていないことに気がついた。


 セオさんを見ると焦っているのが俺でも分かるほど表情に出ている。


「エリザベス様。商会にエリザベス様の名前をつけてよろしいので?」

「そうですわね……。私の名前をつければ、辺境伯が関わっていると理解できるとは思いますが……」


 俺が語呂でベスの名前を使ってしまったのは軽率だった。

 トリス様に相談すべきだろう。


「ベス、トリス様に相談しないか?」

「そうですわね。お母様に尋ねておきますわ」


 結局商会の名前は一旦保留となった。

 最悪エドワード商会かドロシー商会にすれば良いので、先に店の場所や工場を探すのを優先することにセオさんと話して決まった。


 他にも何か話す必要がありそうだったので、セオさんに確認をする。

 セオさんは材料がどの程度搬入されるかが問題だと言う。


「トリス様やエリザベス様が関わっているとはいえ、材料はあるだけしか存在しませんからね。ないものは出せません」

「確かに」

「直接材料を買いつけても良いですが、一度薬師組合に行って尋ねてみるべきでしょう」


 一部は魔法使いが用意する材料なので、協会から直接買うこともできそうだが、魔法使いが関係していない素材もあるので組合に尋ねた方が良さそうだ。

 セオさんがまだ時間があるので、今日訪ねて話してみないかと言う。


 実質担当になってしまっているグレゴリーさんが忙しくなければ、直接聞きに行くのはありかもしれない。

 ベスが組合に使いをだして確認をしてくれる。


 ベスはこの後用事があるようで、グレゴリーさんが空いていても組合には一緒に行かないことになった。

 トリス様への組合で話した内容の報告は、セオさんが担当するようだ。


 連絡をお願いした使いが帰ってきて、グレゴリーさんの時間が取れると分かったのでベスと別れて移動する。

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