メガロケロス−5

 ベスが俺とドリーに隣に座るように言うので、俺とドリーはベスを挟むように両隣に座った。

 椅子に座ると、侍女と裁縫師だと思われる女性が、荷物を持って入室してきた。

 軽く挨拶をした後に、どのような服を作るか話し合う。


 裁縫師が言うには、夏用の服はすでに用意されているらしく、秋から冬の服を考える必要があるようだ。


「エド、ポンチョに似た服は何かありませんの?」

「ポンチョみたいな服か」


 裁縫師がポンチョがどのようなものか気になったので、ベスがポンチョを出すように侍女に言っている。

 ポンチョを受け取った裁縫師が確認した後に、作ったものは腕が良いと褒められた。

 本職の人に褒められるとは嬉しい。


「ポンチョはエドが作りましたわ」

「若いのにいい腕をしています」

「ありがとうございます」


 秋冬ということで、服を提案する前にアルバトロスの冬がどの程度寒くなるのかを尋ねる。

 冬には雪が積ったりもするくらいには寒いのだとベスが教えてくれた。


 寒さを念頭に、ポンチョに似た服ということで、ケープコートを提案してみる。

 提案すると言っても前世の記憶から、形状を裁縫師に伝えてどのような形状かを伝えていく。

 俺が伝えた基本の形状に、裁縫師が装飾を施していった。


「エリザベス様が御使いになられるのでしたら、装飾はこの程度は必要になります」


 裁縫師が描いたケープコートの図案は分かりやすく、流石というしかない。

 ベスが納得したところで一着目の服が決まった。


 ドレスも考えていくが、やはり貴族が着る物は形式が決まっている部分も多く、前世の知識で形状を伝えても無理なものが多い。

 前世の古い形状のドレスとも、若干違うので合わせるのが難しい。

 それでもなんとか動きやすそうなドレスを裁縫師と考えた。


「見ない形ですが、エリザベス様が流行を作るという意味ではよろしいかと」

「いつもの動きにくいドレスより動きやすそうですわ」


 ドレスの案にベスも満足したようだ。

 裁縫師はそんなベスを見たからか、やる気を出し始めた。

 ドレスを更に数着考え、上着にトレンチコートやPコートはどうかと伝える。


 女性物以外にも、男性も着られるスーツやブレザーを伝える。

 似たような服はあるようだが、一度作ってみることになった。

 俺とドリーの分も作ると、体の大きさを測られた。


「ドリー、ふく楽しみ」

「楽しみですわね」


 俺がほとんど決めてしまったが、ドリーとベスが楽しめたようで良かった。

 裁縫師から型紙に起こした時や、仮縫いの時に意見を聞きたいと言われたので、俺は了承した。

 裁縫師が持ってきた荷物をまとめると、侍女と一緒に持って出て行った。


 ベスから遅めになってしまったが、昼食を食べようと誘われる。

 作法が分からないと断ろうとしたが、気にする必要はないとベスに言われてご馳走になることにした。

 美味しい料理に舌鼓していると、ドリーも美味しいと嬉しそうだ。


 食後、侍女によってお茶が配られ、俺たちはゆったりとお茶を飲む。

 俺はベスにドリーがトリス様をお母さんと呼んで良いのか、ドリーに伝わらないように濁して聞いてみる。


「そういえばベス、トリス様のこと良かったの?」

「お母様ですの? 暴走気味でしたが、問題ありませんわ」


 ベスは悩むことなく言い切った。

 ベスの年齢だと嫉妬するようなことは無さそうだとは思っていた。しかし貴族としては気にするのかと思ったが、そうでもないようだ。

 前世だと貴族は血縁関係が重要視されていたが、リング王国は違うのだろうか?


「俺とドリーだとトリス様やベスと血縁がなさすぎない?」

「お母様も言っていたと思いますが、リング王国では魔法使いであることが重要ですわ」

「血縁より魔法使いなの?」

「そうですわ」


 ベスがリング王国は魔法使いが起こした国なので、魔法使いを優先しているのだと教えてくれた。

 他国では血縁を優先する国もあるとベスが言う。


 魔法があるからか、前世とは全然違うのだな。

 しかし貴族の家に生まれて魔力がなかった場合は大変そうだ。

 魔法使い同士が子供を作れば魔法使いが生まれやすいと言っていたが、絶対魔法使いが生まれるわけではないだろう。


「それとエドとドリーの魔力量は私とほぼ同等ですわ。お母様が後ろ盾にならなくとも、エドとドリーなら他の貴族が後ろ盾、もしくは養子に迎えますわ」

「魔力量なのか」

「魔力量は、リング王国の貴族として十分な理由になりますわ」


 魔力量が多いだけで貴族が養子に迎えるのか。

 トリス様がターブ村の村長は解任されるだろうと言っていたが、ベスの話を聞いて解任されるだけの理由になりそうだと理解した。


 一応、ベスは心情的に良いのかと尋ねてみる。

 ベスとしてはドリーを気に入っているし、トリス様が面倒を見る人が増えればベスへの小言が減ると喜んでいるようだ。


「お父様と弟のレーヴェが王都にいますから、私への小言が増えていますの」


 お父様というのは辺境伯だろう。弟がいるというのは初めて聞いた。

 弟が次期辺境伯なのかと尋ねると、ベスがそうだと言う。


「帰ってきたらお父様とレーヴェを紹介しますわ」

「流石に緊張するな」

「今から緊張しなくて良いですわ。お父様とレーヴェは最低でも半年は帰ってきませんわ」


 どういうことかと尋ねると、アルバトロスから王都に行ったのは最近なのだと言う。

 海流の流れが夏と冬で違うので、王都に向かうと半年間は滞在することが前提になるのだと教えてくれた。


 海流ということは船で王都へ向かったのか。

 船で移動するのだから王都は遠そうだ。


「それにドリーが妹なら嬉しいですわ」

「ドリーも!」


 ドリーがベスに抱きついている。

 ベスもドリーを抱きしめているようだ。


 ドリーが問題ないのは分かった。

 そうなると、俺の対応は良かったのだろうか? 不安になってベスに聞いてみることにした。


「ベス、俺がトリス様をお母さんと呼ぶのは恥ずかしさがあるんだけど……」

「エドが兄弟というのも違和感がありますから、私としても今のままがいいですわ」

「良いのかな?」

「お母様の我儘ですから問題ありませんわ」


 ベスの話を聞いて安心する。

 今後はトリス様と呼ぶことにしよう。


 今日は稽古をしたりする時間は無さそうだと帰ることになった。


「明日は先に薬師組合で話をしてくるよ」

「私も一緒に行きますわ」


 いつも通りに先に魔法の練習をして、薬師組合で話をすることになった。

 テレサさんが、ベスが薬師組合に行くことを先に伝えておくと請け負ってくれた。


 明日の予定が決まったところで帰ることにする。

 帰ろうとすると侍女からトリス様がしたためた手紙を渡してきた。

 お礼を言って受け取る。手紙は薬師組合に出すための物だった。


 ベスとは部屋で別れ、侍女の案内で屋敷を移動する。

 侍女が案内の途中でお礼を言ってきた。

 不思議に思っていると、ベスが最近楽しそうなのだと侍女が言う。どうやらベスは侍女に慕われているようだ。


「エリザベスお嬢様は私たち侍女にも心遣いをしてくれるのです」


 ベスが侍女と楽しそうに喋っているのが想像できた。

 とてもベスらしい気がする。


 更に侍女はシャンプーとコンディショナーをベスからもらって使っていると、俺とドリーにお礼を言ってきた。

 感想を聞くと、髪が綺麗になったと喜んでくれた。

 馬車の待つ玄関まで侍女と話をしながら進んでいく。


 侍女に見送られながら馬車に乗る。俺たちが乗り込むと馬車が走り出した。

 少しするとエマ師匠とエレン師匠が大きく息を吐いた。


「想定外のことが多かったですが無事に終わりました」

「エレン、そうですね。無事に終わって良かったです。ドリーとトリス様には驚かされましたが……」

「ええ……」


 エマ師匠とエレン師匠が顔を見合わせた後、遠い目をし始めた。

 何も言わないので良いのかと思っていたが、やはり師匠たちもドリーのお母さん呼びは予想外だったのか……。

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