メガロケロス−4
俺が恥ずかしがっているのを分かっていたのだろう、トリス様が楽しそうに笑いながら無理に呼ぶ必要はないと言う。
「少々、悪ふざけが過ぎましたね」
恥ずかしかったので助かった。
トリス様は俺とドリーから改めてターブ村での生活を聞きたがった。
俺とドリーは日々の食事のために狩猟をしたり、行商で物を買うために薬師として薬を作ってお金を貯めていたことを説明する。
俺の説明に、貧しい農村ならあるとトリス様も納得している。
続けて村を出た時の説明をしていく。
兄に家を追い出されたので、お世話になった村人に相談をしたことを伝え。村人から俺とドリーを村に残すように説得していた事実を教えられ、さらに村の協会で魔法が使えたことを知ったのだと話す。
追い出されたのは理解ができないとトリス様が言う。
「村長は実質世襲制ですが、領主が任命や解任できます。薬師を追い出すのも問題ですが、国が厚遇している魔法使いを追い出すなんて、そんなことをすれば解任されてしまいます。よく村長をできていますね」
村で相談した時に、皆が魔法を使える才能を忘れるのかと驚き呆れていた。
アルバトロスに来てからも、同様に魔法を使える才能を忘れるのかと驚かれているので、普通は忘れるようなことではないのだろう。
村長は随分と酷い対応をしてしまっているようだ。
トリス様は更にターブ村がある領主はロスコー男爵だと言う。
ロスコー男爵は悪い噂は聞かないが、前男爵の急死で家を継いだので、見落としがあるのかもしれないともトリス様が教えてくれた。
「村長は税を納めていれば良いのだと誤解をしているのかもしれませんが、そんなことはありません。メガロケロスから調査に冒険者を送ったことで、ロスコー男爵も知ることになるでしょう」
トリス様の言い方だと、村長の解任は目前なのかも知れない。
俺は村長との接点がほとんどなくて、特に意識をしたことはなかったが、そんなに酷かったのか……。
ドリーを抱き寄せながら話をしていたトリス様は座っていた椅子へと戻っていく。
トリス様はドリーを連れて行くと、横に椅子を用意して座らせた。
ドリーは座ってからも、当たり前のようにトリス様に抱きついている。
「エドとドリーの出自についてはわかりました」
トリス様はドリーが抱きついていても気にしないようだ。
ベスは隣に来たドリーの頭を撫でている。ドリーがトリス様に抱きついているのは気にしていないようだ。
「エド、お願いしたいことがあります」
「なんでしょうか?」
「ベスの服選びを手伝って欲しいのです」
ベスの服選び?
何故俺が手伝う必要があるのだろうか?
意味がよくわからないのでトリス様に尋ねてみた。
トリス様は最もな疑問だと、ベスが服を自ら進んで注文したことが大変珍しく、テレサさんから注文をしたと聞いた時は奇跡だと驚いたのだと話した。
なのでベスに今後も服を注文して欲しいので、手伝って欲しいのだとトリス様が言う。
ベスがポンチョを欲しがった時、テレサさんは即決に近い形で作ることを許可していた。
テレサさんもベスが服を自ら欲しがることが珍しいと知っていたのか?
「お母様、奇跡は言い過ぎではありませんの?」
「ベス、あなたが防具以外で服の注文を自らしたことがありますか?」
「………」
トリス様の質問に、ベスは考え込んで止まってしまった。
トリス様の言い方からすると、防具だったら注文はしているのだろう。しかし普段着は考えても思いつかないのだろうと俺にも予想ができる。
「いくら考えても自ら注文したことはないのですから、思い出せませんよ」
「エドにポンチョを頼みましたわ」
「ですから奇跡を起こした、エドにお願いをしているのです」
トリス様の説明にベスも納得したようで、頷いている。
ベスは反論していた奇跡という言葉に納得してしまったようだ。
送ってもらった服からすると、ベスは動きやすい服を好むだけで、服の選び方は悪くないと思う。
動きやすいというのが、貴族の服装と合っていないのかもしれない。
貴族の服とはなんだろうと考えていると、トリス様が顔の向きをベスから俺に移して、改めて俺に服選びを手伝うことを頼んできた。
「トリス様、服選びを手伝うのは良いのですが、貴族の服装がよくわかりません」
「裁縫師が社交に向いた服装は心得ています。それに確認は私もする予定なので心配は入りません」
裁縫師が修正をしてくれるのなら安心できる。
俺はベスが良いのなら手伝うとトリス様に伝えた。
トリス様がベスにどうするかと尋ねると、ベスが俺なら良いと言う。
ベスと服を作ることが決まったようだ。
トリス様が早速今日から作りなさいと言うので、話し合いが終わった後に服を考えることになった。
ベスに似合う服はどういう物が良いだろうと考えていると、トリス様が自分がいては口を出してしまいそうだと言う。
トリス様は抱きついているドリーにどうするか尋ねている。
ドリーは俺とトリス様を見比べて迷っているようだ。
「ドリーも、ふくが気になる」
「そうですね。ドリーも勉強のために一緒に作ると良いですね。一緒にエドも作った方が良さそうです」
「そうする!」
俺とドリーまで服を作ることになったようだ。
普段着を何着か準備するのと、社交用の服も準備しておくようにとトリス様から指示された。
俺とドリーが社交?
社交用についてトリス様に尋ねると、作法の練習で服を着ていた方が覚えやすいとのことだった。
確かに当日とあまりに違う服だと勝手が違いそうだ。
「それではドリー、好きな時に尋ねてきて」
「うん! お母さん!」
あまりに自然なドリーに、これで良いのかと再び疑問になる。
「エレン、エマ。ベスに魔法を教えるのは大変だとは思いますが、今後も頼みます」
「承知いたしました」
エレン師匠とエマ師匠が頭を下げている。
トリス様はドリーと抱き合った後に、アビゲイルさんを連れて部屋を出ていった。
「屋敷を案内しながら、私の部屋に移動しますわ」
ベスの案内で部屋を出る。
屋敷はかなり大きく、辺境伯の家族が住む区画から、政務をするための区画まで色々とあるようだ。
ベスが普段稽古をしている場所は、騎士が訓練に使う場所だと屋敷の近くにある広場に案内してくれた。
「お母様の呼び出しが多いようでしたら、この広場で魔法の練習をした方がいいかもしれませんわ」
魔法の練習で思い出したが、今日はまだ練習をしていない。
俺はエマ師匠とエレン師匠にどうするかと尋ねる。
エマ師匠とエレン師匠が相談すると、魔法の練習をする時間があるか分からないとなって、場所を借りて練習することに決まった。
テレサさんが許可を出してくれたので、騎士が訓練に使う場所の一角を借りて魔法の練習をすることに。
三人同時に魔法を練習するので、魔力を分割して魔法を使っているがすぐに終わった。
魔法の練習を終えたところで、侍女が近づいてきているのが見えた。
「エリザベスお嬢様、準備が整いました」
「部屋に戻りますわ」
どうやら屋敷の案内をしている間に、服を作る準備を整えていたようだ。
侍女の案内で屋敷の中に戻る。
トリス様と会った部屋とは違う部屋へと入る。
部屋の作りは似ているが、どことなく無骨な印象を受けるのはベスが使う部屋だからだろうか。
花より甲冑が似合いそうな雰囲気だ。
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