メガロケロス−3
ベアトリス様がお茶を飲んだ後、ドリーに再び話しかけている。
「ドロシー、今後はドリーと呼びます。私のこともトリスと呼ぶことを許します」
「トリスさま?」
「ええ。今後好きに屋敷に遊びにきなさい」
「いいの?」
ベアトリス様は頷いている。
思った以上にドリーとベアトリス様が打ち解けていることに驚く。急な展開に驚いていると、ベアトリス様が俺の方を向いた。
ベアトリス様はターブ村への調査にアルバトロス家が関わっていることを教えてくれた。
テレサさんが調査をするための冒険者を用意していたが、実際に人を動かしたのはベアトリス様なのだろう。
「調査の結果を待つことも考えましたが、二人と話して考えを変えました。エドワード、ドリーの後ろ盾となり、学べる場所を用意しましょう」
急な展開に俺はついていけない。
後ろ盾は俺とドリーの生まれの問題だとなんとなく分かるが、学べる場所とはなんだろうか? 協会ですでに魔法は習っているので他に何か教えてくれると言うことか?
俺が混乱していると、ベアトリス様が俺のことを今後エドと呼ぶと言って、さらにトリスと呼ぶことを許してくれた。
混乱はさらに進む。
「トリス様?」
「はい。エド、今後は出自については人に言わないように。出自を知っている人はテレサが口止めしています」
俺とドリーの出自について口止めしていたと初めて知った。
テレサさんの方に顔を向けると頷いている。
どうやら本当のようだ。
「特に貴族に出自は言わないように」
俺とドリーが貴族に会うことは滅多にないと思うのだが、テレサさんやベスに出会っているから会わないということは無いとは言い切れないか。
ベアトリス様が魔法使いなら貴族に会う機会が無いとは言い切れないし、屋敷に出入りしていれば出会う機会が増えるだろうと言う。
そういえば魔法使いは貴族に呼び出されることが多いと言っていた気がする。
対応を間違えないように、俺とドリーには貴族としての知識を学べるように場所を準備すると、ベアトリス様が言った。
学ぶ場所を用意すると言うのは、貴族としての知識を教えてくれるということだったのか。
「それとエドは騎士として叙爵することも考えています。騎士に関しては望まなければ無理になる必要はありません」
俺が騎士?
俺はターブ村の出身で農民の子供だ。しかも逃げるように出てきてしまっている。
今更だが俺とドリーの身分ってどうなっているのだろうか? 平民なのか?
「俺が騎士ですか? その、それって可能なんですか?」
「可能です。リング王国の身分制度は魔法使いを准貴族として扱っています。協会に所属した時点で身分が変わっています」
魔法使いが准貴族?
そんな話は聞いたことがない。協会に登録した時にも聞いてないはずだ。
俺の疑問を理解していたのか、トリス様が准貴族について教えてくれた。
准貴族と言っても騎士に叙爵しやすい程度で、特に何かが変わるような身分ではないらしい。
逆に騎士を継ぐには魔法使いでないと難しいこともあるのだという。
「エド、今決める必要はありませんが、ベスの護衛騎士になる気はありますか?」
いきなり騎士になるかと問われて困惑する。
ベスの護衛騎士なら楽しそうではあるが、一つ問題がある。
俺の方がベスより弱い。
「ベスの護衛騎士は気にはなるんですが……。俺、ベスより弱いんですけど?」
俺の言葉にトリス様が大きくため息をついた。
トリス様は顔に手を当てている。
俺の言ったことはトリス様を困らせるような話題だったようだ。
「それに関しては頭の痛い問題よ。同年代の子供だとベスの方が強いの」
「そうなんですか? 貴族だったらベスより強い子供がいるのかと思ってました」
「居ないのよ……。性別関係なしにベスが勝ち続けています」
ベスは強いと思っていたが、小さい頃から鍛えていそうな貴族でも勝てないのか……。
性別関係なしということは、男にも勝っているということだ。年齢的にそこまで体格差が無いとはいえ凄いな。
俺が感心していると、トリス様としては問題だったようで護衛騎士が居ないと言う。
詳しく事情を聞くと、ベスが護衛騎士の候補を倒してしまうせいで、護衛騎士を辞退されているようだ。
「護衛騎士は護衛対象より強い必要はありません」
「守れればいいということですか?」
「そうです。ですがベスと同年代では納得できないのでしょう。護衛騎士を辞退されてしまっています」
俺もベスに勝てないと考えてしまったし、納得ができないのは理解ができる。
同時に前世があるからか、トリス様が言う護衛騎士が護衛対象より強い必要がないというのも理解できた。
護衛騎士になると言ってもすぐになれる訳ではないだろう。
それに騎士になれると言われたが、本当になれるかまだ疑問に思っている。
今決める必要はないとトリス様も言っていたし、護衛騎士になる前提でもう少し様子を見てもらえないだろうか?
「護衛騎士は受けたいと思いますが、もう少し様子を見てもらえませんか?」
「騎士に叙爵は先の話ですから、それで構いません」
「ありがとうございます」
トリス様が、近いうちに俺の教育をしてくれる人を紹介すると言う。
魔法使いが准貴族扱いを知らなかったりと、知識が不足しているので勉強して補えるようになりたい。
「ドリーには令嬢教育を学んでもらいます」
「ドリーは騎士ではないんですか?」
「ベスの二の舞いにはしたくありません」
トリス様の言葉に、何を返しても問題がありそうだと返事ができない。
だがドリーが令嬢教育な理由は理解した。
「ドリーは素直で良い子に育っているようですから、今から勉強すれば立派な令嬢となれるでしょう」
トリス様がドリーをベタ褒めしている。
俺は自分のことのように嬉しくなって、トリス様にお礼を言う。
トリス様が不思議そうな顔をした後、どうして俺がお礼を言うのかと聞いてきた。
トリス様に俺とドリーが育児放棄され、俺がドリーを連れて生きていたことを説明する。
「育児放棄されたことは報告で聞きましたが、エドがドリーを育てたのですか? 知り合いの村人に育てられたのではなく?」
「ドリーは、にーちゃとずっと一緒にいた」
「手助けはしてもらいましたが、基本は二人で過ごしてました」
俺とドリーの話を聞いたトリス様は、テレサさんやベスに確認をしている。
三人の話を聞いた限り、どうもうまく伝わっていなかったようだ。
というかトリス様は、八歳くらいの俺がドリーを連れて育てたことが信じられないようだ。
ドリーを育て始めた頃はすでに乳離れをしていたが、二歳程度で八歳が育てるのは確かに無理がある。
俺が転生者だから可能だっただけだ。
トリス様が俺とドリーに勘違いをしていたと謝ってきた。
「ドリーは、にーちゃがいれば良いの」
トリス様は椅子から立ち上がって、ドリーに近づいて抱き寄せている。
突然のことに俺は反応ができなかった。
「エド、ドリー。これからは私のことを母だと思って頼ってください」
さらなる急展開で俺は困惑する。
「お母さん?」
「はい、ドリー」
ドリーがトリス様に抱きついたのが分かった。
前世の知識がある俺とは違って、ドリーには親が必要だとは思っていた。親は用意しようと思って用意できるものではない。
俺が育てたに近いと言っても親とは別物だ。
親ができると言うのはドリーにとっては良いことだろう。トリス様が親というのが予想外だが……。
「エド」
「はい?」
「エドも」
「え?」
「さあ」
「お、お母さん?」
前世の知識が逆に邪魔をしている気がする。
とても恥ずかしい。
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