メガロケロス−2
ベアトリス様がお茶を一口飲んで、俺に話しかけてきた。
「エドワード。エリザベスが魔法を覚える気にさせてくれたこと感謝します」
「偶然というか、説得したつもりもなかったので……」
「だとしても十分以上の成果です、本当に頭を悩ませていた問題ですから」
ベアトリス様は自身の失敗であるが、やる気を無くしてしまったベスをやる気にさせるのは大変だったと語った。
ベスがやる気を無くして一年以上経過しているのだとも教えてくれる。
酷い相手だったとは聞いていたが、ベスがやる気を無くして一年も経過していたのか。
最近のことだと思っていた。
エレンさんが教師役として三人目だとも教えてくれた。
「お母様、その程度でやめてくださいませ」
「本当に困っていた事が解決したんです。お礼を言うのは当然です」
「せめて私がいない場所でやってくださいませ」
ベスは流石に恥ずかしかったのか、ベアトリス様に抗議している。
しかしベアトリス様も、ベスにもう少し早くやる気を出して欲しかったと小言のようなことを言っている。
ベスも反省しているのかベアトリス様に謝った。
ベスはベアトリス様に強く出れない印象を受けた。
それでもベストベアトリス様の中が悪いような印象は受けない。むしろ貴族にしては仲が良さそうな印象を受けた。
ベアトリス様は横にいるベスとの話を終わらせて、再び俺の方を向いた。
「ベスとはまた別の機会で話しましょう。エドワード、シャンプーとコンディショナーについて聞きたいのだけど、作っている物は薬師の秘匿された技術ですか?」
「違います。妹と二人で作りました」
「秘術ではないのですか」
ベアトリス様が驚いた表情をしている。
俺とドリーの年齢を考えれば、二人で作った物ではないと思うのも当然かもしれない。
俺が前世の記憶から材料を思い出して、ドリーが分量を割り出さなければ作れなかった物ではある。
調薬は簡単には教えてはいけないことになっているが、シャンプーとコンディショナーは自分で作っているので、教えてはいけない範囲に含まれていない。
なのでベスにも手伝ってもらった。
「ではエドワードとドロシーの判断で量産できるのですか?」
「可能です。二人だと作れる量が限られるので、作り方を公開すれば大量に生産できると思います」
「作り方の公開ですか……」
ベアトリス様が悩み始めた。
ベスに手伝ってもらっても一度に作れる量は限られている。これ以上増やそうと思うと作り方を公開するしかない。
少し間をおいてベアトリス様が作り方を公開する場合どうするかを語り始めた。
「技術を公開するのなら、メガロケロス家の名前を使ってなるべく技術が広まらないように指示をしましょう」
メガロケロス家の名前を使うと技術が広まらない、というのが理解できなく質問をする。
ベアトリス様が、メガロケロスの名前で依頼をすれば技術を流出する人は滅多にいなくなるが、メガロケロス家の名前を使うことで、情報がさらに漏れにくくなるのだと教えてくれた。
固形の石鹸も存在するし、シャンプーの作り方はすぐに分かってしまいそうだ。
コンディショナーに関しては似たようなものがないようで、作り方を知るのは難しいかもしれない。
「二つとも魔法使いでなくても作れるのでしたね?」
「はい。一部の素材は魔法使いが作る必要がありますが、材料さえ揃っていれば作れます」
「そうなると輸出にも向いていそうですね」
水ものを輸出?
俺の疑問を理解したのかベスが輸出品について教えてくれた。
メガロケロス領を含むリング王国は魔法使いを優遇しており、他国に比べて魔法使いの数が多いため、輸出品には魔法使いが関わった品物を多く輸出しているとのことだ。
魔法使いを優遇したところで、意図的に魔法使いが増やせるのかが不思議だ。
ベスに尋ねると、魔法使い同士が子供を作ると魔法使いの可能性が上がるとのことだった。
「魔法使い同士が子供を作る以外にも、ダンジョンで戦い続けると魔法使いになれますわ」
「生まれた時に決まるのかと思っていた」
「基本は生まれた時に決まりますわ。ダンジョンで戦って魔法使いになるのは相当難しいですわ」
ギルドのライノは元々魔法使いではなく、ダンジョンで魔法使いになっているのだとベアトリス様が教えてくれた。
確かにライノも魔法使いだった。ライノは後天的に魔法使いになっているのか。
協会があそこまで充実していたのはリング王国の方針だったのか。
シャンプーとコンディショナーが輸出品に何故なるのか理解できた。
「輸出は将来的な話になります。最初はどのように量産するかです」
ベアトリス様に言われて量産する方法を考える。
シャンプーとコンディショナーを作るには調薬するように量を測る必要がある。そのような作業に慣れているのは薬師となるだろう。
まずは薬師組合で人員を確保した方がいいかもしれない。
認められた薬師では集めるのが大変かもしれないが、シャンプーとコンディショナーなら薬師の見習いでも十分に作れそうだ。
ベアトリス様に俺の考えを伝える。
「見習いでも作れるのは良いですね。私がやっても良いですが、せっかくなのでエドワード、薬師組合と自身で話してみてください」
「分かりました」
「エドワードが帰るまでに、薬師組合に渡す手紙をしたためておきます」
ベアトリス様はメガロケロスの名前を出して良いと言って、困ったら聞きに来るようにと言う。
俺はベアトリス様が、経験を積ませようとしてくれているのだと理解した。
話の流れから、シャンプーとコンディショナーにつける香りの素となる香油を決めてもらうことにする。
ベアトリス様とベス用に俺とドリーが配合したものを用意した。
以前、ベスには配合していない精油で用意していたのだが、配合で良さそうな香油ができたのでベスにも再度見てもらう。
俺とドリーは配合した香油を準備する。
俺はベスに新たにできた香油を試してもらう。
「良い香りですわ」
「良かった。以前に甘すぎない匂いがいいって言ってたから配合してみたんだ」
「エドが調整してくれたんですの?」
「そうだよ」
最初に私た香油はドリーにもベスが好きそうと言われたもので、一番の自信作だった。
他にもベス用に作った香油はいくつかあるので、ベスの前に並べていく。
「こんなに作ってくれたんですの?」
「ベスが気に入りそうな香りを作ってたら増えてしまったんだ。一番自信があるのは最初にだしたのかな」
ベスは全ての香油を試した後、笑顔でお礼を言ってきた。
最終的に選んだのは自信があった香油と、他に二種類を選んだ。
香油を元にシャンプーとコンディショナーを作って、今度渡すことにしよう。
俺がベスと話している間、ドリーがベアトリス様に香油の説明をしている。
ベアトリス様が気に入ったものはドリーが配合したもののようだ。
「この二つが特に、いい香りですね」
「ドリーが作ったの!」
「あら、そうなの?」
「うん!」
ドリーがいつも通りの喋り方なので怒られないかと心配だったが、ベアトリス様は気にした様子がない。
むしろドリーと楽しそうに喋っているように見える。
「ドロシーは上手に香油を作るのですね」
「楽しいの!」
「そうですか、それは良いですね」
「うん!」
ドリーが香油以外にも、薬を作ったりするのも楽しいとベアトリス様と話している。
ベアトリス様はドリーの話を楽しそうに聞いているように見えた。
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