メガロケロス−1
ケネスおじさんがアルバトロスを旅立って二週間が経った。
魔力を分けて発動させる練習はまだ続いている。
練習の成果で、魔力を十以上に分けることができるようになってきた。
最近は魔法が暴走することも無くなったので、三人同時に魔法を使って練習している。
俺と似たようなシルバーブロンドの髪の色に灰色の瞳を持ったドリーは、上手に魔法を使っている。
ドリーはターブ村にいた時より少しだけ、明るい表情をすることが多くなった。
ベスはストロベリーブロンドでも赤が強めの色合いをした髪を持っており、赤茶色の瞳の色をしている。身長は百七十センチの俺より低いが、女性にしては大きい方だと思う。
ベスは魔法を覚えるのを嫌がっていたと思えないほど、魔法を使うのがうまくなった。
魔法の練習が終わる。
練習が終わった後は、騎士のテレサさんに近接での戦い方を教わるか、狩猟へと行くのだが、今日はどちらにするのだろうと思っていると、ベスが口ごもった感じで話し始めた。
「エド、ドリー、実はお母様が二人を呼んでいますの」
「ベスのお母さんが?」
「そうですわ」
ベスは最初に会った時、エリザベスとだけ名乗ってベスという愛称で呼ぶことを許してくれた。
そもそも騎士のテレサさんが護衛をしているベスは、騎士以上の貴族だろうとは予想ができる。
そんな貴族からの呼び出しを俺とドリーが断れるわけもない。
しかしどんな相手なのかは気になる。
エマ師匠とエレン師匠を見ると、ベスから聞いていなかったのか慌てているのが俺にも分かる。
「エリザベス様、ベアトリス様からの呼び出しは本当ですか?」
「本当ですわ」
ベスの母親はベアトリスと言うようだ。
呼び出しは三日後を予定しているとテレサさんがエマ師匠に伝えている。
エマ師匠が服を用意しないとと慌てている。
そうか服が必要なのか。
協会の制服はまだ完成していないので、できる限りの物を着ていくしかなさそうだ。
服について考えていると、ベスが迷ったように俺とドリーの名前を呼んだ。
「お母様に会ったら知られてしまいますし、私の名前を名乗りますわ。私はエリザベス・フォン・メガロケロスですわ」
やはりベスは貴族だった。
というか苗字のメガロケロスはとても聞いたことがある。アルバトロスはメガロケロス領にある都市だ。
メガロケロスを治めているのは辺境伯だと聞いた頃がある。
……つまりベスは辺境伯の子供?
「エド、ドリー。今まで通りにベスと呼んで欲しいですわ」
今まで通りに呼んで欲しいと言う、ベスの不安そうな表情を見て気づく。
ベスが普段、不安そうな顔をすることはない。
話を切り出すのも口籠っていたし、名前を名乗ることを気にしていたのだろう。
アルバトロスに来て一ヶ月がもう少しで経つ。
ベスに会ったのはアルバトロスに来た日なので、もう一ヶ月近く一緒にいることになる。
だから今更ベスをエリザベス様と呼ぶのは違和感がある。
「分かった。ベス、今まで通りによろしく」
「ベス!」
俺とドリーがベスと呼ぶと、ベスは笑顔になった。
やはりベスは不安そうな顔より、笑顔が似合っている。
ベスが、俺とドリーの服に関しては、作らせている物が間に合えば持ってくると言う。もし服が間に合わなくとも、気にする必要がないと話を聞いていると教えてくれた。
ベスの話を聞いて、俺とドリーよりエマ師匠が安心したのか、大きく息を吐いている。
「ところで呼び出しの理由は聞いて良いの?」
「エドとドリーに挨拶をしたいと言っていましたわ。元々はもっと早く呼び出すつもりだったようですの。二人がアルバトロスに慣れるまで待っていたようですわ」
俺とドリーの都合を優先してくれたのか。
貴族だったらすぐに呼び出してもおかしくはなさそうだ。それなのに呼び出さないのは、優しい人なのだろうと想像ができた。
「それとシャンプーとコンディショナーについて話がしたいとも言っていましたわ」
「シャンプーとコンディショナー? 分かった」
ベスとの話が終わったところで、テレサさんが礼儀作法は不要と言われているが不安だろうと、教えてくれることになった。
俺とドリーはありがたく皆から礼儀作法を教わる。
三日後。
服は間に合って受け受け取っている。服を着たら、事前に教えられた時間に間に合うように協会を出る。
馬車に乗り込むと、エマ師匠が行き先を教えてくれた。
「向かう場所は丘の上にあるお屋敷です」
「丘の上というと、協会からも見える壁ですか?」
「そうです。城壁の中に屋敷があります」
アルバトロスは港から街の中心に向けて小高い丘のような地形になっている。
丘の中腹には協会や薬師組合があり、頂上部分には辺境伯の屋敷がある。
丘を上がっていくと協会からでも見えた城壁が近づいてきた。
アルバトロスを囲む城壁とは別に、屋敷を囲む城壁があったのか。
二重の城壁は襲撃を警戒しているだとは思う。不思議なのはアルバトロスの街は城壁を二重にしている割に、そこまで入り組んでいない。
街自体が大きいので問題ないのだろうか?
街について考えていると、城壁の門にたどり着いたようだ。
門で兵士に調べられた後、馬車は城壁の中に入る。
門の中は広い庭になっていて、動物まで放し飼いにされているのが見えた。
「広いですね」
「籠城できるように広いのだと昔に父から教わりました」
エレン師匠の父ということは、騎士から教わったということか。
そうすると、放し飼いにされている動物は非常食……?
庭を見ていると、屋敷が見えてきた。
無骨な建物で砦と言っても問題がないような作りをしている。
エマ師匠が城と言わないで、屋敷と言った意味がわかった。
屋敷の前で馬車が止まると俺たちは順番に降りる。
玄関の前には侍女が待っていた。
「ベアトリス様から案内を承りました、アビゲイルと申します」
俺たちは名乗って案内をお願いする。
アビゲイルさんは先導して案内を始めた。
石と一部木で組まれた建物を歩く。
これからベスの母親に会うと思うと緊張してくる。皆から礼儀作法は習ったが失礼にならないだろうかと不安になる。
ドリーを確認すると緊張したような表情はしていなく、興味深そうに周囲を見回していた。
「ベアトリス様をお呼びいたしますので、こちらの部屋にてお待ちください」
俺たちは部屋の中に入る。
アビゲイルさんが座る椅子を指定してくれた。指示通りに俺たちは座る。
アビゲイルさんが部屋を出ていくと、すぐにベスとトリスさんがやってきた。
「お母様はまだのようですわね。エド、そこまで緊張しなくて良いですわ」
「そうは言ってもな」
「緊張しないで良いと言っても難しそうですし、仕方ありませんわね」
ベスはそう言った後、椅子に座った。
テレサさんはベスの後ろで待機している。
緊張して待っていると、部屋の扉が開いた。
慌てずゆっくりと立ち上がって礼をする。
「初めまして、私はベアトリス・フォン・メガロケロス。メガロケロス辺境伯レオンの妻です」
俺とドリーが名乗ると、ベアトリス様から座るようにと言われる。
俺が座るとベアトリス様も頷いて座った。
正面から見ると、ベアトリス様はベスに顔立ちが似ている。しかし髪の色がベスとは違う。白金に近い金髪で、瞳の色は碧眼のようだ。
ベスは少し癖があるような髪質だが、ベアトリス様は癖がないように見える。
アビゲイルさんがお茶を配ってくれた。
お茶を配り終わったアビゲイルさんは、ベアトリス様の後ろに控えている。
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