別れ
テレサさんの稽古が終わった後は、汗を流すために大浴場へと向かう。
傷がある訳ではないので痛みはないが、テレサさんに鍛えられたから風呂に入ると力が抜ける。
のぼせない程度に浸かってから部屋に戻る。
部屋に入るとドリーたちはまだ風呂に入っているようで居なかった。
一緒に帰ってきたケネスおじさんが話しかけてきた。
「エド、少し良いか?」
「ケネスおじさんどうしたの?」
「ワシはそろそろターブ村へ帰還のために準備を始める」
ケネスおじさんが居るのが普通だったから忘れたけていたが、家族のいるターブ村へ帰る必要がある。
ターブ村からアルバトロスには川を降るだけだったが、今度は陸路で帰らないといけない。
ターブ村へは川を降るのと比べると、陸路だと三倍以上時間がかかるのだと以前に聞いた。
ケネスおじさんは滅多に口を挟まないが、後ろで見守っていてくれたのは良くわかった。
俺とドリーは二人で生きていかないといけないので、極力口を出さないようにしていたのだと理解している。
「そうだね。家族が待っているから帰った方が良いね……」
「すまん。エドとドリーをもっと見守っていたいが、そろそろ帰らねばならない」
「……うん」
返事をするのに言葉につまる。
寂しくないと言ったら嘘になる。ケネスおじさんは俺が小さい頃から、心配して手を差し伸べてくれた。命の恩人だし、親以上に親と言っても良い人だ。
そんなケネスおじさんだからこそ、家族を大事にしてもらいたい。
それに俺はアルバトロスで協会に所属できた。
住む場所も用意できたし、食事も協会内であれば困ることはなさそうだ。
「ケネスおじさん、俺はアルバトロスで生きていくよ」
「無理はするんじゃないぞ。皆を頼るんだ」
「分かった」
ケネスおじさんと話をしていると、ドリーたちが戻ってきた。
テレサさんとベスもシャンプーとコンディショナーを協会で試して以降、大浴場で汗を流してから帰ることが多い。
戻ってきたドリーが俺に近寄ってきてくる。
ドリーは俺とケネスおじさんを見比べた後に、首を傾げた。
ケネスおじさんがドリーにターブ村へ帰るための準備を始める事を伝えた。
「ケネスおじちゃん、帰っちゃいや!」
「ドリー……」
ドリーはケネスおじさんに抱きついた。
ケネスおじさんはドリーを抱き止めると、頭を撫でている。
ケネスおじさんは俺に伝えたように、皆を頼ることをドリーに伝えている。
ドリーはケネスおじさんに抱きついて泣いてしまった。
俺もドリーを落ち着かせるのを手伝って、なんとか泣き止んだ。
「ケネスおじちゃん、また会おう?」
ドリーは、もうケネスおじさんに会えない可能性が高いことに気づいていたようだ。
ターブ村を逃げ出すように出てきた俺とドリーが、村へ戻るのは止めた方がいいだろう。
ケネスおじさんも何か事情がない限りは、村からそう簡単に出れるとは思えない。
「分かった。ドリー、ワシはまたアルバトロスに来る。その時に会おう」
「うん!」
ドリーは笑顔でケネスおじさんと約束をした。
ケネスおじさんがアルバトロスに来るのは簡単なことではない。それでもドリーと約束したケネスおじさんは、またアルバトロスまで来てくれるだろう。
ドリーの泣いて腫れてしまった目を、エマ師匠が魔法で治してくれた。
テレサさんが、ケネスおじさんにアルバトロスを出るまでの時間を尋ねている。
ケネスおじさんはテレサさんに、準備に二、三日をかける予定だと返している。
「依頼をしたいので、三日後の出発になりませんか?」
「依頼ですか?」
「魔法使いを追い出すとは普通ではありません。森を挟んでいますが、メガロケロス領の隣ですから調査のために人を派遣します」
ターブ村がある地域は、別の貴族が収めている。調査のためのにメガロケロス領の貴族が行くと差し障りがあるので、ギルドで雇った人を派遣するとテレサさんが説明している。
依頼料を出すので、ターブ村までの道案内をお願いしたいと伝えている。
ケネスおじさんは、迷った様子でターブ村に実害が出てたりしないかなど、いくつかテレサさんに質問をしている。最終的には依頼を受けることにしたようだ。
「ワシも外から村に移住した身だが、今回は特に村長の考えがよくわからない。オジジも怒っておったし村でも普通ではなさそうだ。村から孤立しない範囲で手伝おう」
「村の調査は無理に手伝う必要はない。むしろお願いしたいことがある。メガロケロス領と接している森の調査をお願いしたい」
「確かに森はワシの専門だな」
ケネスおじさんが了承すると、テレサさんが無理のない範囲でとお願いしている。
テレサさんが冒険者は貴族の関係者を用意すると伝えた。
ケネスおじさんは、冒険者を集めるのが間に合わない場合、アルバトロスを出る時期をずらすことを話している。
三日後。
ケネスおじさんが帰る準備ができた。
ドリーがポンチョを着て見送りたいと言うので、エマ師匠がポンチョを急ぎ魔道具にしてくれた。俺とドリーはポンチョを着ている。
アルバトロスの門で見送ろうとしたが、ケネスおじさんが協会でいいと言う。
協会の前で、見送りをすることになった。
ライノが冒険者を連れて協会へやってきた。
「ケネス!」
「エゼルゼット? スカイラー、タデウス、フォスターまで」
ライノが連れてきた冒険者四人はケネスおじさんの知り合いだったようで、懐かしいなと挨拶をしている。
ライノがケネスおじさんに挨拶をした後、気心が知れているのを集めておいたと伝えている。
ケネスおじさんはライノとの話が終わったところで、エマ師匠とエレン師匠の元に向かった。
「エマさん、エレンさん。エドとドリーをよろしくお願いします」
「師匠として、家族として見守ります。安心してください」
「エドとドリーのことはお任せください。一人前の魔法使いにして見せます」
ケネスおじさんは続けてテレサさんにも、同じように俺とドリーのことをお願いしてくれた。
テレサさんは剣技や戦闘について教えるので安心してほしいと返している。
ケネスおじさんはベスに、俺とドリーと仲良くして欲しいと伝えた。
ベスは頷いて、俺とドリーは友達だと言う。
「エド、ドリー。いつになるか分からんが、会いにくる。その時は立派な魔法使いになっていてくれ」
「はい」
「うん!」
ドリーがケネスおじさんに抱きついた。
俺もケネスおじさんに近づくと、ドリーと一緒に抱きしめられる。
これで本当にお別れだ。
ターブ村では辛い記憶もあるが、ケネスおじさんやオジジと一緒にいる時は楽しかった。
どうしても涙が溢れる。
少しの間ケネスおじさんに抱きついた後、俺はドリーを連れて離れる。
泣いてしまったドリーに見送らないとと伝えると、ドリーは泣き止んだ。
「ドリー、元気でな」
「うん……」
「エド、ドリーを頼んだぞ」
「はい」
「エド、ドリー。また会おう」
ケネスおじさんは冒険者四人と旅立っていく。
俺とドリーはケネスおじさんが見えなくなるまで見送った。
ケネスおじさんが居なくなるとドリーが再び泣き始めた。
皆がドリーを慰め始めた。
慰められているドリーを見て、俺とドリーは二人ではないのだと今更ながらに理解した。
ターブ村を出た時はどうなるか不安だった。アルバトロスへと来て協会に所属できたことで住む場所にも困らない。
そしてエマ師匠、エレン師匠、テレサさん、そしてベスと知り合えた。
俺とドリーはアルバトロスで生きていける。
慰められているドリーを見て俺はそう理解した。
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