薬師組合−5
シャンプーとコンディショナー作りから三日、アルバトロスに来て一週間が経った。
ポンチョはもう少しで完成しそうだ。
ドリーの分は先にできたのだが、三人分出来てから着ると言って待っていた。
俺がポンチョを作っている横で、笑顔で他の分ができるのを待っていたので、早く作ろうと頑張っている。
「ドリー、出来たぞ」
「ほんと!」
出来たポンチョを見せるとドリーが飛び上がって喜んだ。
ドリーが喜んでいると丁度ベスがやってきた。
ドリーがベスに駆け寄ると、ベスがドリーを抱き留めている。
ドリーがベスにポンチョができたと伝えた。
俺は今できたポンチョを持ってベスの元に行く。
「エド、本当ですの?」
「これがベスのポンチョだよ」
俺がベスにポンチョを渡す。
ベスはポンチョを広げると、腕を伸ばしてポンチョを見ているようだ。
ポンチョはベージュ色に、赤白黄色で横縞に模様が入っている。
文字といより幾何学的な模様で、模様が魔道具としての効果があるのだとエマ師匠が言っていた。
雨具としても使いやすいようにと、フードを取り付けている。
ドリーにもポンチョを渡すと早速着ている。
俺も出来上がったポンチョを着てみる。
「良い出来じゃないかな」
「うん!」
ベスも俺とドリーを見た後にポンチョを着ている。
「良いですわね」
ポンチョは夏だと森に入る時か朝方くらいにしか使えないだろうが、秋から冬にかけては役に立ちそうだ。
暑いし脱ごうとドリーに言うと嫌がった。
気に入ってくれるのは嬉しいが、汗だくになってしまう。
どうしたものかと困っていると、エマ師匠が魔道具にしないかと話しかけてきた。
「魔道具ですか? この布自体が魔道具なんですよね?」
「ええ。やり方次第では更に効果を付け加えられますよ。温度を一定に保つ魔道具にすれば夏でも着ていられます」
温度を一定にしてくれるのはとても便利そうだ。
問題があるとすれば作れないので、魔道具にしてもらうには頼むしかない。
魔道具にするのにかかるお金がどの程度かかるか分からない。
エマ師匠に値段をだずねようとすると、ベスがシャンプーとコンディショナーのお礼も含めて、ポンチョを魔道具にしようと誘ってきた。
ドリーの事を考えたらお願いした方が良さそうだ。
「ベス、お願いするよ」
「分かりましたわ」
エマ師匠が魔道具にする魔法使いを探して、お願いしておいてくれることになった。
ドリーにいつでも着ていられるようになると理解したのか、ポンチョを脱いでエマ師匠に預けている。
俺とベスもエマ師匠にポンチョを預けてお願いをした。
「エド、気に入りましたわ。感謝いたしますわ」
「それは良かったよ」
ベスはお礼を言いながら、本当に嬉しそうな笑顔だった。
こちらも嬉しくなってくるような笑顔だ。
ポンチョの話が一区切りついたところで、魔法の練習のために協会の演習場へと移動する。
今日は練習の内容を変えるとエマ師匠が言う。
「大きく変える訳ではありません。今まで一度で使い切っていた魔力を、二回に分けて魔法にします」
エマ師匠は簡単そうに言うが、実際にやってみると難しい。
今までは魔力を全て使えば良かったので、勢いで押し出せば良かったが、今回は一回分残す必要がある。
時間がかかってでも魔力を切り分けるように二等分していく。
片方の魔力を杖から出して水の玉へと変える。
一回目の魔法が無事使えると、魔法を消して二回目の魔法を使う。
「問題なさそうですね」
「かなり時間がかかってしまいました」
「むしろ早い方ですね。最初はやはり苦労します」
確かに魔法を使ったことがない状態から、一週間程度でここまで魔法が使えるようになった。
随分と早く魔法が使えるようになったと言えるだろう。
エマ師匠から、魔力を分けるのは慣れなので、回数をこなせば一瞬で出来るようになると助言される。
毎日繰り返し練習するしかないようだ。
ベスに交代する。ベスも魔力を分けるのに苦労していたが、何とか魔力を分けて魔法を発動させた。
ベスが終わると最後にドリーが挑戦する。
ドリーもやはり苦労したが、三人の中では早く魔力を分けられたように感じた。
「三人とも成功しましたね。明日以降は分ける回数を増やしていきます」
俺、ドリー、ベスが返事をすると、エマ師匠が話を続ける。
「今日は少し座学をしましょう」
エマ師匠とエレン師匠が魔法の種類について話し始めた。
魔法使いが使う魔法は大まかに分類すると、治癒魔法、攻撃魔法、建築魔法の三つで、更に協力して使う魔法などがあるようだ。
魔法と錬金術を使って魔道具を作ったりもするのだと教わった。
エマ師匠は治癒魔法が得意で、エレン師匠は攻撃魔法と協力して使う魔法が得意なのだと言う。
俺たちは治癒魔法をまずは覚えるべきだとエマ師匠に言われる。
「エリザベス様は特に治癒魔法を最初に覚えておくべきです」
「攻撃魔法を先ではないんですの?」
「魔法使いは非常時に備えて魔力を無駄遣いしません。軽傷だと断られる可能性があります」
「断られて鍛錬ができないのは困りますわ。治癒魔法を覚えますわ」
エマ師匠が治癒魔法を覚えるのは、まだ先の話ではあると説明した。
今はまだ教えても使うのが難しいので、魔法がもっと安定して使えるようになったら教え始めるとのことだ。
攻撃魔法は治癒魔法がある程度使えるようになったら教えてくれるようだ。
「攻撃魔法は自分に当たれば怪我をしますからね」
そういえば魔法が暴走したら死ぬ可能性が高いと言っていたのを思い出す。
自分自身も溺れかけている。
何となく自分の魔法なら、攻撃が当たっても怪我をしないのかと思い込んでしまう。
建築魔法に関しては協力して使う魔法と共に使うことが普通だとエレン師匠が教えてくれた。
建築魔法は城壁を作ったり道路を作ったりと、大きな物を作るのが得意なようだ。
協会に初めてきた時に受付にいたフロイドさんは、建築魔法の使い手だったようだ。
「最後に錬金術です。エドとドリーは別で錬金術の師匠を用意する予定です」
「エレン師匠ではダメなのですか?」
「私は先ほども言いましたが攻撃魔法が得意です。エマも治療魔法が得意で、錬金術は得意ではありません」
無理をして覚える必要はない気がするのだが、エレン師匠の話を聞いていくと納得した。
錬金術で作られるのは魔道具だけかと思っていたが、魔法薬というものもあるようだ。魔法薬は薬師が作る薬に魔力などを足して、薬の効力を上げたものらしい。
錬金術で魔法薬を作る魔法使いは、魔法を覚えてから薬師の勉強をするので、アルバトロスの協会でも数が少なく貴重な人材のようだ。
しかも覚えるのが大変なのは薬師の勉強だと言う。
俺とドリーは魔法薬について覚えておいて損はなさそうだ。
ドリーがエマ師匠の服を触ると、エマ師匠がドリーの頭を撫でる。
エマ師匠が屈みながらドリーに、もう一人師匠が増えるだけだと説明している。
それでドリーは納得したようで頷いている。
「新しい師匠については、良さそうな人を探しておきます」
「お願いします」
今日の座学はこれで終わりとなった。
次はどうするかと思ったら、テレサさんが剣術の基礎を教えてくれると言う。
ドリーは当然手加減をされたが、俺は息も絶え絶えな状態まで鍛えられた。
ベスは俺以上に激しい訓練をしていたので、俺もかなり手加減はされていたのだとは分かる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます